あゆるちゃん会議。もしくはノロケたい女とノロケられない女
「ということで! あゆるちゃんのピンチをみんなで乗り越えよう会議を開催したいと思います!」
令和二年四月。新型ウイルスの影響どこ吹く風とばかりに、密閉・密接・密集の三密すべてを兼ね備えたカフェテリア《ガーデン》に三名の女性の姿があった。非常に危険極まりないが、それだけ背水の陣なのである。
「三人しか居ないのにみんななの? 人望なさ過ぎない?」
「三人寄れば文殊の知恵と昔の人は言いました。でしょ、絢ちゃん!」
会議の主催者、広尾あゆるの負け惜しみを、上埜絢は曖昧な表情で黙ってごまかした。
広尾あゆる。
「社会に疲れた悩める女の子達を救いたい」をモットーとして、今を遡る二年前に《オトナ保育園》を立ち上げた企業家の22歳女性。現在は派遣型レズ風俗店である《アロマティック》や成人女性専門保育園の《オトナ保育園》、そして健全なマッサージ店とカフェテリア《ガーデン》の四店舗を統括する株式会社・《アユル》の社長である。ちなみに未上場、株券不発行だ。
現在絢達三名が肩を寄せ合っているカフェテリア《ガーデン》は、先の四店舗の中で唯一赤字を垂れ流している不良店舗。一日の来客数は片手で数えてもお釣りがくる程度のわびしいものだ。たとえ外出自粛要請が世間を震撼させようと、カフェテリア《ガーデン》がまるで流行っていないという事実は揺るがない。
「このままじゃ《ガーデン》の赤字が膨らんで会社の経営にも影響が出ちゃう! だから知恵を貸してほしい! お願いりんちゃん!」
「もう《アロマティック》辞めたから源氏名で呼ぶのやめて。今は白井凛子、無関係な他人」
「水くさいこと言わないでよ凛子ちゃん。私が電話したら助けにきてくれたじゃーん!? 一緒に眠れぬ夜を過ごした仲じゃない?」
「確定申告期限ギリギリまで何もやってなかったから徹夜で書類作ってあげただけだよ。今日だって仕事帰りを待ち構えて車に強引に押し込んだんでしょ。一歩間違ったら拉致だって分かってるの?」
「ごめん! でもお願い! このままじゃ迷える子羊ガール達を救えなくなっちゃうよ!? それでもいいの!?」
「他人を助ける前に、あゆる店長自身をどうにかしたら?」
「じゃああゆるちゃんを助けて!」
「無茶苦茶だよ……」
あゆるの物言いに、白井凛子が大きなため息をついた。
凛子は《アロマティック》の元ナンバーワン派遣風俗嬢。あゆるとは《アロマティック》創業以来の仲らしく、気心知れた間柄だ。
凛子の特徴は三つ。愛嬌があって優しそうなほわほわした雰囲気とアロマの香り――今日は《イランイラン》。胸は大きくて、男女問わず注目を集めそうな女性的な容姿。その割に、自分の意見はハッキリ言うこと。
一方、絢は真逆だ。顔はまあ悪くはないし愛嬌もあると言えばある。体臭も――恋人曰く「好きな匂い」だから問題ない。が、背丈も胸もちんちくりんの童顔で、言いたいこともハッキリ言えない。両想いだった
「絢ちゃんもお願い! ていうか絢ちゃんが香澄ちゃんとラブラブできるのは《オトナ保育園》のおかげだよね? つまり絢ちゃんを保母さんに誘った私のおかげだよね? 恩を返したくなってきたよね?」
「あ、えっと……それはそう、ですけど……」
「その恩着せがましい性格直して。絢ちゃんも《アユル》の副社長なんだから社長をちゃんと注意しなきゃダメだよ」
《オトナ保育園》での働きぶりを評価された上埜絢は、あゆるの会社の副社長に就任していた。とは言え会社はあゆると絢の二名だけ。各店舗で働くキャスト達は個人事業主扱いという零細企業だ。
「う、はい! しっかりします!」
「あと敬語やめて。普通に話して」
「えと……。凛子さん、何かあったの?」
「敬語使う女嫌いなの! あとバーテンダーも金髪も外国人も、恋愛を
ひどく具体的な特徴から、凛子が嫌っている女性の姿は絢にもなんとなくイメージできた。「ふふ」と笑ってみせたり「あらあら」とか言って人を食ったような態度を見せる女性バーテンダーなのだろう。
深入りはしないでおこう。
絢は心に誓い、踊ってばかりでいっこうに進む様子のない会議を進めることにした。
「とにかく、今日の議題は《ガーデン》をどうするかなんです――なんだよね? 社長はどうしたいんですか?」
「やったー! 二人とも相談に乗ってくれるんだね!? やっさしー! チョローい!」
「私もう帰る!」
「ああ待って凛子ちゃん! 今のはあゆるちゃんが悪かったから!」
絢を《オトナ保育園》に引きずり込んだのと同じ強烈な力で、あゆるは《ガーデン》を立ち去ろうとする凛子を強引に引き留めた。広尾あゆるは適当でいい加減な経営者ながらも、「悩める女性を助けたい」というモットーだけは確かなカリスマの持ち主だ。だからキャスト達はあゆるについて行くのだと――あゆるに助けられた絢自身思う。
それは凛子も同じだろう。観念したとばかりに三人掛けの円卓について、会議に臨む姿勢を見せている。
「《ガーデン》は開業以来赤字続きなんだよね、絢ちゃん」
「う、うん。一日の平均来客数は二人で、客単価は千五百円ちょっと。粗利益は月十万円いくかいかないか。ここから諸経費として家賃が月々三十五万円で――」
「待って待って待って! 家賃すら払えてないよ!?」
「あはー!」
「笑ってる場合なの店長!? 絢ちゃん、他は!?」
絢は涙がちょちょぎれるような《ガーデン》の財務諸表を読み上げた。バイト従業員への給料、食材の仕入れ費、備品購入費、水道光熱費に設備点検とその他諸々を合算すると、赤字の生々しさが浮き彫りになる。
――毎月の赤字金額:およそ五十万円。
開業したのが去年の四月なので、通年で六百万近い赤字を生みだしていることになる。会社の売り上げを《ガーデン》の赤字が食い潰している格好だ。
絢の説明を聞いて、本職は事務・経理である凛子はきっぱり言い放った。
「畳んだら? こんなお店」
「やだやだやだやだ! カフェ続けたいんだよう! あゆるちゃんの子どもの頃からの夢だったんだよう!」
「夢を追う前に現実見るの。話は以上」
「やーだー!」
反抗期――よりももっと幼いイヤイヤ期の子どもみたいにポンコツ経営者のあゆるは駄々をこねていた。仮にも社長であるあゆるのこんな姿を見て、次にうんざりするのは絢の番だ。
「地獄だ……」
「絢ちゃんからも言ってあげて。目を覚ましなさいって」
「でも社長は《ガーデン》続けたがってるし……」
「続けるよ! 辞めないよ! バイトちゃんのお給料減らしてでも続ける!」
「それはだめ!」
給料を下げる下げないで揉める二人を前に、絢は考える。
《ガーデン》の売れ筋メニューは――平均来客数二人で売れ筋もクソもあったものではないが――英国式アフタヌーンティーセットだ。主要な産地の茶葉から出した紅茶と、ケーキスタンドに選べる洋菓子二つのワンセットで千二百円。映えを意識し、質も良好。同様のメニューを出す他店舗と比べてもお手頃な価格帯だし、《ガーデン》のある新百合ヶ丘は住宅街で人の往来も多く、駅からほど近い雑居ビルの二階だ。立地もさほど悪くはないときている。
それでも客が入らない理由は何か。
「……ありきたりすぎてインパクトがないのかも?」
「ええ!? アフタヌーンティーって全女子の憧れだよ!?」
「主語が大きいの。確かに私も憧れたことあるけど、一回やったら満足しちゃうよ」
告げて、凛子はケーキスタンドから桃のタルトを皿に移した。「それ私の!」と叫ぶあゆるをにらみつけて、凛子はタルトを頬張る「味はいいのにね」。
絢はとりあえず、あゆるに取られる前に好きなチョコレートケーキを皿に運んだ。
「……《ガーデン》にリピーターを呼べるようになればいいってことなのかな?」
「そうそれ! 毎日リピってジャブジャブお金オトしてくれるようなチョロ……いいお客さんが来てくれれば《ガーデン》も安泰だよ! 絢ちゃん凛子ちゃん何か考えて!」
「貴女が考えることでしょ。あと私、お客さんを騙してリピーターにしちゃうような悪い女も嫌い」
「うーん……」
絢の脳裏を単語が駆け巡る。
英国式。インスタ映え。新百合ヶ丘。リピーター。チョロい客。
その時ふと、絢の恋人である三ノ輪香澄の姿が浮かんだ。香澄は《オトナ保育園》のリピーターだったが、現在は絢とひとつ屋根の下で同棲中だ。今でも時折来店はするものの、《オトナ保育園》は健全店なので愛の営みは御法度。そういった行為はご家庭の中で夜な夜な行われている。
香澄は、社会の疲れや悩みから癒やされたくて《オトナ保育園》のリピーターになった。風営法の抜け穴、治外法権のような怪しい店に彼女が足繁く通っていたのは、あゆるや絢といった保母さんが居たからだ。
お客様はなにも、紅茶とケーキを愉しみに来るばかりではない。
保母さんに――いや、愉しませてくれる人に逢いに来る。
「……そっか、人だ」
「人?」凛子の問いかけに、絢は大きく頷いた。
「《ガーデン》の名物になるような店員さんが居ればいいんですよ! たとえば《オトナ保育園》の保母さんみたいに! あ、ううん違う! 英国式ティータイムと言えばメイドさんとか執事さんみたいな!」
「メイド喫茶ってこと? それはそれでありきたりだけど……でも、今よりはマシかもね。メイド喫茶ならプレミア感あるから客単価も上がるから」
「うん! どうですか社長、《ガーデン》をメイド喫茶にするのは! バイトさんへの説明とか、内装を変える費用は掛かりますけど、メニューは替えなくていいですし!」
あゆるは大きく息を吸い込んで告げた。
「却下! つまんない!」
「は、はいぃ……」
「あのね? せっかく絢ちゃんが考えてくれたのにそれはないでしょ。少しくらい検討してみたら?」
「ありきたりでつまんないよ! もっとこう逆転の発想! コペルニクス的展開! ええっ!? 天地が逆さまになっちゃった! みたいなのが必要なの! 成功者の自伝に書いてあった!」
「……絢ちゃん。うちの会社で事務員募集してるんだけど、どうかな? この人の下よりはきっといい職場だよ?」
「あ、ええと……」
「引き抜きはよくない! 絢ちゃんが居なくなったら会社回らないよ! 泣いちゃうよ!?」
心が傾きかけた絢だったが、あゆるに泣き落としならぬ泣き脅しを掛けられる。あゆるはいつもゴリ押しだ。経営手腕はポンコツながらも大勢のキャストがついて来るのは、カリスマ経営者の器なのかもしれない。
凛子はうんざりした調子で告げた。
「だったら社長と副社長交代したら? 絶対絢ちゃんの方が経営とか向いてると思うもん。気が利くしちゃんとしてるし。逆転の発想が必要なんでしょ? 決まりだね」
「やだやだ! 女社長も子どもの頃からの夢なんだよう! 立場ひっくり返るのはやーだー!」
「……あ!」
ピコンと閃いた。まさしく天啓とでも言うべきひらめきだ。
ありきたりでも、逆転させてしまえば世にも珍しいお店になるのだ。
「そうだ、逆転だよ! メイド喫茶を逆転させるんです!」
「絢ちゃんまで頭おかしくなっちゃったの……?」
絢は目をらんらんと輝かせて告げる。
「おかしくない、とは自信持って言えませんけど逆転なんです! メイド喫茶の従業員とお客さんの立場をひっくり返しちゃうんですよ! つまり!」
絢は手元のメモ用紙に、凛子がプレゼントと称して持ってきてくれた自社製鉛筆で走り書きをした。
「メイドさせられ喫茶! です!」
「はあ……?」
あゆると凛子は当然の反応だ。だからめげない。絢はアイディアをまくし立てる。
「普通のメイド喫茶は、お客様であるお嬢様を、従業員のメイドさんがもてなしますよね? でもメイドさせられ喫茶はその逆! お客様がメイドさんになって、従業員のお嬢様をもてなすんです!」
「お金払って店員をもてなすの……?」
「そう、なんですけどそこがポイントなんです! 《オトナ保育園》のお客様は、優しい保母さんに逢いにご来店されます。なら、厳しくも優しいお嬢様が迎えてくれるとしたらどうですか? 特定の誰かにご奉仕したいと思うお客様もいらっしゃると思うんです」
メイドさせられ喫茶は、客がメイドになって従業員のお嬢様をもてなす。当然ながらお嬢様は時には厳しく、時には優しく客に接する。少しずつお嬢様の態度が軟化したり、二人の関係がこなれていく様子を愉しめるのではないか。
「お客さんの「誰かをお世話したい!」って気持ちに訴えるってことだね。理解はできたけど、メイドさんとお嬢様は一対一だよね? それだとあんまりお客さん呼べないよ?」
「いいじゃないですか! 元々ぜんぜん流行ってないお店なんですから!」
「うぐあ!?」痛いところを突かれたのか、あゆるが頭を抱えている。一方の凛子は「それもそうか」と腑に落ちた表情を見せた。
「それが新生・《ガーデン》、メイドさせられ喫茶です! どうですか!?」
「……うん。あんまり聞いたことないしいいんじゃないかな? 私は賛成。あゆる店長は?」
「……メイドさせられ喫茶」
あゆるは復唱して、ゆらりと立ち上がる。そして絢の両肩を鷲掴みした。爪が食い込んでメチャクチャ痛い。
「絢ちゃん……」
「な、なんですか! ていうか痛い痛い!」
「……どうしてそんな名案黙ってたの! 最高じゃん、メイドさせられ喫茶!」
あゆるは満面の笑みで《ガーデン》の中を走り回った。まるでクリスマスプレゼントとお年玉を同時に貰った子どものような喜びようだ。さんざん飛び跳ねて机の角に膝をぶつけて無言でうずくまるまで、ひとしきり狂喜乱舞したのち早口で叫んだ。
「《ガーデン》を今すぐ改装しよう! ちょうどバイトの子も辞めちゃったから、新しく募集しよう! お嬢様っぽい子がいいよね!? 美人で、髪の毛サラサラの長い黒髪で、触れたら折れちゃいそうなくらいに華奢で! 淑やかで、ちょっとツンツンしてて気が強くて! だけどメイドにだけは心を開いてくれるようなホントはとっても優しい子! そんなお嬢様をお世話して癒やされたい女の子は絶対居る! ていうか私がそれ! あとメイド服はいろんなサイズ用意とバリエーション用意しないと! お客様用の更衣室はこの辺に作って! お嬢様が窓から外を物憂げに覗けるように出窓も作って、レースのカーテン!」
絢の思いつきを、あゆるが次々と具体的な形にしていく。経営手腕はポンコツの限りだが、アイディアを広げる創造力と、それを忠実にこなす実行力は絢には備わっていない。あゆるだけのものだ。
だから絢は、あゆるについて行く。
悩める女性を癒やしたいというあゆるが掲げた理念だけは、掛け値なしに尊敬できるからだ。恋人としては120パーセントあり得ないが。
「店内コンセプトはお嬢様の部屋! 本物のアンティークは高いから無理だけど、それっぽいものをたくさん並べよう。アンティークの机に椅子、カップにグラス、ワードローブとかベッドとか!」
「置き時計も欲しいですね!」
「それ! 絢ちゃんナイス! 凛子ちゃんはどう!?」
「んー……。私はドライフラワーとかポプリが欲しいかな? あと、お店から手紙を送る時は、蝋封で閉じて送るとか」
「それいい、最高! 他は……そうだ、来店スタンプ! ただ押すだけじゃつまんないから、スタンプの代わりはお嬢様から戴けるコイン! 貯まった枚数ごとにお嬢様からいろいろな特典があって! もちろんそのコインもアンティークっぽいもの!」
「いいですね! 新生・《ガーデン》!」
「この際だから《ガーデン》って名前も変えちゃおう! アンティークまみれのお嬢様の部屋だから……アンティーク、アンティーカ……! そうだ、《アンティッカ》なんてどう!?」
「わあ! オシャ――」
「それだけは絶対にダメ!」
凛子の猛反対により、店名は《ガーデン》のままとなった。猛反対の理由は聞かない方がいい。他人に深入りしない空気の読める子を自認する絢は、店名を決める多数決で《ガーデン》に一票を投じたのだった。
*
「忙しくなるぞー!」と意気込んで《ガーデン》を飛び出して行ったあゆるを無視して、絢は冷めた紅茶を飲んでいた。傍らでは凛子も同じようにカップに唇をつけている。
凛子は美人だ。同棲中の恋人が居る絢でも、見とれて憧れてしまうほどに。
「私の顔に何かついてる?」
「あ、いえその。凛子さんはやっぱり美人だなあって」
凛子はにへらと相好を崩した。女性的な柔らかい笑顔がとても可愛らしい。
「ありがとう。恋人さんとは順調?」
「うん。最近はテレワークでずっと家に居て、甘えられっぱなしで……えへへ……」
「いいなー、幸せそうで」
今さら言うことではないだろうが、絢も凛子も恋愛対象は女性だ。というより、あゆる自身が採用するのがそうした女性達ばかりである。
店舗のキャスト同士の恋愛発展は御法度で、もし発覚した場合はあゆるが号泣しながら安室奈美恵の《Can you Celebrate》を歌って祝福するという拷問が待ち構えている。絢は三回くらいその光景を目撃していた。実はもっと多いのかもしれない。
「凛子さんは居ないの? 気になる人とか」
「居るにはいるんだけどね……」
上手くいっていない、とそう顔に書いてある。先ほどからさんざん「嫌い!」という相手に関係があることなのかもしれない。深入りすべきではないだろう。言葉を引っ込めたところで、凛子がつぶやく。
「……私なんて視界にも入ってない、って感じだよ」
こうもわかりやすくつぶやかれると、話を拾わなければ失礼な気がしてくる。
絢はどうにか言葉を選んで告げた。
「凛子さんみたいな面倒見よくて綺麗な人に振り向かないなんて、絶対どうかしてるよ!」
「ホント、どうかしてるよね……。あんな女の方がいいなんて……」
絢は自身の勘の鋭さを褒めてあげたくなった。おそらく凛子は、あの大嫌いと言っていた敬語責めする金髪バーテンダーと想い人を取り合っている。
修羅場は苦手だ。どうにかこの会話から抜け出す糸口を探す。
「……写真見る? 好きな人の」
「うん見る!」
とは言え、あの凛子がどんなタイプの女性が好きなのかは気になる。女子はいくつになっても恋バナが好きなものだ。主語がデカいが気にしない。
凛子が見せてきたスマホには――
「はあ!? めっちゃ美人じゃないですか!? というかこの人、テレビで見たことあるよ!?」
――とてつもない美女が映っていた。
可愛らしい凛子とは系統の異なる、カッコいい系の女性。切れ長の目つきと整った顔だ。男装なんてした日には、その気のない女性までペロリといただいてしまいそうな見目麗しい姿でこちらを眺めている。
「よく似た妹が女優やってるから。私が好きなのはお姉さんの方」
「へ、へえ……」
「……今、無理だろとか思った?」
「いや、思ってはないけど……」
確かにこの女性と凛子が並べば、破壊力はすさまじい。あまりのキラキラカップル具合に目が潰れて己のダメさ加減に身を投げて死にたくなってくるだろう。
「ただ、ね……。私に負けず劣らず、この人も面食いで……」
画面に映った写真にピンとデコピンを喰らわせて、凛子は恋い焦がれたため息をつく。
「恋敵も相当に美人なんですか。美人の世界は違いますね……」
「絢せんせー、慰めてー……」
「よしよし」
《オトナ保育園》の要領でしばらく凛子の頭を撫でてあげながら、絢は思った。
そこそこの女に生まれていてよかった、と。
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