シャル&ルーカス誕生日SS【度の過ぎた……】

12月25日はシャルロッテ&ルーカスの誕生日!

1日遅れましたが……特別版のSSです(汗)


◆シャルロッテ16歳。ルーカス19歳。……ぐらいで!


*****


――とある昼下り。


「……うーん」

リーゼロッテが、真剣な顔で何かとにらめっこをしていた。


「何見てるの?」

「あ!ルー!!」

リーゼロッテは、大好きな伯父の登場に瞳を輝かせた。


リーゼロッテは、『ルー』ことルーカスの妹であるシャルロッテと、獣人の友人であるリカルドとの間に生まれた子供――ルーカスからすると姪っ子にあたる。


蜂蜜色のクルンとした艷やかな巻き髪に、透き通るように綺麗なブルーグレーの瞳。

母親のシャルロッテに似ているリーゼロッテは、生まれた瞬間から既に可愛かったが、可愛さが年々増してきている。

シャルロッテを奪った父親のリカルドは正直気に入らないが、リーゼロッテの頭にぴょこんと生えたふさふさの耳は愛らしい。

……これだけは認めてあげても良い。



暇を見つけては妹夫婦の家に邪魔しにやって来るルーカスは、リーゼロッテの手元を覗き込むなり、瞳を細めた。


「……何、これ?」


テーブルの上には、見知らぬ顔から見知った顔まで様々な絵姿が、無造作に並べられていた。


「ええと、これはおじいちゃまが送ってきたの」

「父様が?」

「うん。私の将来の旦那様にどうか、って。……ルーはどう思う?」

リーゼロッテはもじもじとしながら両手を弄る。


無造作に並べられたこれは『見合い』絵姿だ。


――僕がどう思うかだって?

一言で言えば『有り得ない』。


ルーカスは瞳を閉じて、額に手を当てた。


可愛い姪っ子のリーゼロッテが結婚する姿なんて考えられない。……考えたくもない。


ルーカスの頭の中に、リーゼロッテとの思い出の数々が、まるで走馬灯のように駆け巡る。


初めて目が合った日。初めて名前を呼ばれた日。

『大好き』と言われた日と回数まで、ルーカスは全て記憶している。


しかもリーゼロッテはまだ8歳なのだ。

婚約者なんて早すぎる。

――いや、そんなものは必要ない。


「……シャルは――母様かあさまは、このことを知っているの?」

「んーん。知らないわ。だって、母様や父様は『身分や年齢を気にせずに本当に好きな人と結婚しなさい』って、いつも言っているもの」

リーゼロッテは、上目遣いでルーカスを見た。


貴族は政略結婚がほとんどなのだが、母親のシャルロッテ自身が恋愛結婚なのもあって、子供達にも恋愛結婚を勧めているのだ。

父親のリカルドも獣人の本能に従って伴侶を選んだことから、子供達に政略結婚をさせるような奴ではない。


つまりこれは、孫を溺愛するばかりに将来を勝手に心配しているリーゼロッテの祖父――ルーカスの父の暴走行為である。


「おじいちゃまは、今から条件の良い人を押えておいたほうが良いって言ってたわ。……私はルーが好きなのに」


最後にゴニョゴニョッと告白をしたのに、リーゼロッテの肝心の言葉はルーカスには届いていなかった。

溺愛する姪っ子への降って湧いた婚約話のせいで、ルーカスは頭がいっぱいになっていたのだ。



――余計なことを。

ルーカスは内心で舌打ちをした。


今のアヴィ家の当主はルーカスである。


王都の学院に入学した双子の弟妹は、勉学に励んでいるから、悪い虫は付いていないし、監視も送り込んであるので何ら問題はない。


当主を引退した両親は、田舎でのんびりと余生を過ごしていると思えば…………これだ。

しかし、考えようによっては、今後の対策を練る良い機会なのかもしれない。


「見せて」

絵姿を全て手に取ったルーカスは、順番にそれを眺めていく。


今からリーゼロッテの婚約者候補に上がっているのだから、婚約者が決まるまで今後も続くだろう。



――まず、クリスと彼方の息子か。

やはり年齢が近い第一王子の婚約者候補には名前が上がるか。国を背負う大役より、リーゼロッテにはもっと自由でいて欲しいが……。


――次は、ハワードの息子、か。

この婚約はシャルが嫌がりそうだな。

未だにハワードから師匠と呼ばれているし、息子は顔も性格も父親に瓜二つだからね。


――他には、エルフの青年……60歳?

エルフにしては若いのだろうけど、これはないな。


マザコンで有名な侯爵家の嫡男に、お金にだらしない顔だけの良い伯爵家の次男。何人もの女性と関係のある男爵家の……って、何なんだこの人選は。


「……ふーん」

ルーカスを取り巻く空気がどんどん冷たくなっていく。


「よし。全員、綺麗サッパリ消しちゃおうか」

ルーカスは満面の笑みを浮かべた。


顔は笑っているのに、瞳は1ミリも笑ってはいない。見ているだけで凍り付きそうな笑みを浮かべているのに、リーゼロッテの口元は何故か弛んでいた。


「全員の弱みは握っているから、○✕□☆△◇した上で、クラウンに頼めば良いよ。そうすれば誰にも知られることなくから」

ルーカスは瞳を細めて、リーゼロッテの頭にポンと手をのせた。



その瞬間に、

「お兄様ー!それは犯罪ですからっ!!」

シャルロッテは飛び起きた。


「い、今のは…………夢?」

ハアハアと荒い呼吸を何度も繰り返しながら、辺りを見渡した。


「な、何よ!?どうしたの!?」

「主よ。悪い夢でも見たのか?」

黄色の小鳥姿の金糸雀と黒猫のサイが心配そうな顔でシャルロッテの元に近付いてくる。


「あ、起こしてごめん。……何かリアル過ぎて」

二人に謝ったシャルロッテは、胸に手を当てて深呼吸をした。


夢の中で、大人になったルーカスは、とても綺麗で格好良かったが――魔王度が今よりも更に増していた。

でも、これは夢だ。心配することは何もない……。


金糸雀を少しだけモフらせてもらって癒やされたシャルロッテはまた眠りについた。


***


――翌朝。


「お兄様は、姪っ子の結婚を祝福してくれますよね?」

急に突拍子もない質問をしだしたシャルロッテに、ルーカスは思わず首を傾げそうになった。


シャルの言う『姪っ子』とは、恐らくシャルとリカルドの間に生まれるかもしれない娘のことだろう。


シャルがリカルドと結婚するのだってかなり面白くないのに、シャルに良く似た姪っ子の結婚なんて――面白くないに決まっている。

生まれた瞬間から溺愛する自信がある。


「そんな相手は綺麗サッパリ消しちゃえば良いよ」

ルーカスはにこりと笑った。


「大丈夫。○✕□☆△◇した上で、クラウンに頼めば良いよ。そうすれば誰にも知られることなく全てから」

ルーカスは瞳を細める。


夢の中と同じ様な台詞を言うルーカスに、シャルロッテは戦慄した。


ま、魔王度が夢と同じ!?

お兄様の魔王化はどこまで進むの!?


「ねえ。念の為に聞いておくけど、があるから聞いたの?」

「え?」

シャルロッテは首を傾げようとする途中で、ルーカスの質問の意味に気付いた。


ルーカスの視線はシャルロッテのお腹を捉えている。それはつまり…………。


「ありません!それは断じてありません!!」

「そっか。それなら良かった」

真っ赤な顔になったシャルロッテが全力で否定をすると、ルーカスは嬉しそうに微笑んだ。



「そんな不確定な未来よりも……今日という日の方が僕には大切だよ」

ルーカスはそう言うと、ポケットの中から小さな箱を取り出した。


「誕生日おめでとう。シャル」


12月25日はシャルロッテの誕生日だ。

そして、ルーカスの誕生日でもある。


「ありがとうございます!お兄様もお誕生日おめでとうございます!!」

シャルロッテは、ルーカスにギュッと抱き着いた。



可愛い妹を抱き締めながらルーカスは思う。


――家族以外のこの世の男達は全て消え失せてしまえば良いのに、と。






***


夢オチからの………。

作者は妹大好きなルーカスが好きです!

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