新天地~女神の謝罪③

作戦名【美味しいご飯でお腹いっぱい!みんな笑顔で幸せ!!】開始!!


大広間のテーブルの上には、愛用の異空間収納バッグの中から出された沢山のご馳走がところ狭しと並べられている。


唐揚げ、焼き鳥、フライドポテト、だし巻き卵焼き、海苔巻きチーズ……等々。

用意したのは、勿論お酒に合う食べ物ばかりだ。お酒を飲まない彼方やレオの為に、おにぎり等のご飯系も用意してある。

おかか、鮭、梅干し、ツナマヨ入り。

小さめサイズなので沢山食べられるよ!!


「さあ、皆さん!どんどん食べて、飲んで、本音で語り合いましょう!」

私はキンキンに冷やしたエールが入ったジョッキを掲げた。


「乾杯ー!」


シーーーーン。


ラーゴさん達やカトリーナはグラスを持ったものの、気まずそうな顔で視線をさ迷わせているし、サイ達は困った様な苦笑いを浮かべている。


……まあ、そうなりますよねぇ……。

でも、まだまだこれからだから……!!


「はい、乾杯~、乾杯~、乾杯~、乾杯!」

早くも挫けそうになる自分を励ましながら、皆のグラスにジョッキをカツンと軽く当てていく。


くーーっ!!

キンキンに冷えたエールのこの美味しさと言ったら……!


一気にジョッキを煽った私は、ほんのりと顔を赤く染めながら、皆に料理を進めた。


しかし、遠慮をしているのか誰も手を出そうとしない。

せっかくの料理が冷めてしまうじゃないか。


「どんどん食べて下さい!」

つまみ用の物は味が濃いめの物が多いから、冷めても美味しく食べれるが……どうせなら温かい内に食べて欲しい。


「カトリーナ、こちらをどうぞ! ラーゴさん、リラさんにはこちらがオススメですよ」

お皿に取り分けて勝手に配っていく。

用意した料理達を無駄にする気はない。


「うん。美味しいわ」

「ああ。主の料理は相変わらず旨いな」

「料理旨いんだけどなぁ……」


黙っていても金糸雀やサイ達は食べてくれるので良し。

因みに、クラウンは……覚悟しておけ?

料理とは何だ。


「レオは何が食べたいかな?私的には唐揚げがオススメかな!」

空気を読んでくれる優しい彼方が手伝ってくれている。


彼方のオススメを聞いたレオは、

「じゃあ、それにする!」

パァッと顔を明るくさせた。


うんうん。子供は唐揚げ大好きだよね!

育ち盛りの子供は遠慮せずにどんどん食べなさい!まだまだあるからね!?


私は彼方達をチラリと横目にしながら、ジョッキに残ったエールを更にぐいっと煽った。


このジョッキには、『永久に冷たいまま』という魔術をかけてあるので、中に注いだお酒が温くなることはない。

それだけで、私は幸せだ。


和気あいあいとしながら料理を食べ進める私達とは違って、カトリーナやラーゴさん達の周囲の空気は重く息苦しい。


会話のない食事会はなかなか精神的にくる。

料理は進まないものの、お酒の入ったグラスだけが次々と空になっていく。


美味しい料理とお酒があれば、もう少し和やかな雰囲気になると思ったのだが……お酒が入ったからといって、全員が饒舌になるとは限らなかった。……それだけ深刻で根が深い。


だが、カトリーナもラーゴさん達も口を開き掛けては、また閉じて――という動作を繰り返している。


後はきっかけさえあれば……。


私はラーゴさん達の空いたグラスにお代わりのお酒を注ぎながら溜め息を吐いた。


あ、もしかして……大人陣は皆お酒が強いから、私が用意したお酒では酔わないとか……?

ふと、思った。


それならば、とっておきので対処できるかもしれない!


ジョッキに残った分は一気に飲み干して……っと。


くーーっ!美味しい!!


ほろ酔いの私は異空間収納バッグの中に手を入れ、欲しい物を頭の中に思い浮かべた。


備えあれば憂いなし。

持って来てて良かった!!


「アヴィ家の新作です!」

とっておきのアレをムニッと掴んで、バッグの中から取り出した私は、皆に向かってどーんと掲げて見せた。


……あれ?ムニッて……?


硬質な瓶の感触とは少し――いや、かなり違った気がしたが、酔っている私の気のせいだと、そう自分の気持ちを納得させた。

異空間収納バッグは、欲しい物が取り出せる仕組みなのだから。


しかし、またしても想像していた様な反応は返って来る事なく――室内はシーンと静まりかえっている。


しかも、皆ポカンと口を開けて、私が掲げた物の先を指差しているではないか。


………え? どうしたの?


「シャルロッテ……それ……」

「ん?新作のお酒だよ?」

困惑の表情を浮かべる金糸雀に向かって、私は首を傾げた。


「作る時に一緒にいたはずなのに、もう忘れちゃったの?」

「いや……、違うわよ?」

「違う?」

「……取り敢えず、上を見てみなさいよ」


呆れ顔の金糸雀に合わせてゆっくりと視線を上に向けた私は、自らの手の中で赤い物がもぞもぞと動くのを目にした。


私が持っていたのはお酒入りの瓶なんかじゃなかった。


先ほどの違和感の正体はコレか……!!?


――ゾワリと全身に寒気が走り抜けた。


「ひぃっ……!?」

驚いた衝撃で、思わず手の中の物を放り投げてしまう。


「シャル!?」

小さく叫んだ彼方が、私が放り投げた物の方へと走り出した。


若さ故の瞬発力で、私が放り投げた物を見事にキャッチした彼方は、

「良かった……。無事だったよ」

ホッと安堵の溜息を吐いた。


彼方の両手の中には――――


『……んむぅ?』

あくびをしながら、ぷくぷくとした小さな手で瞼を擦っている幼児の姿があった。


「カシス!?」


赤色の髪と大きな丸い瞳が愛らしい『カシス』は、アーロンを起こす際に、私に加護をくれた酒精だ。

その証拠に私の右手の小指の爪には、加護の証である【*】が付いている。


カシスは私に加護をくれたあの時に、跡形もなく弾けて消えてしまった。

しかし、消滅した訳ではなく、ただ見えない大きさにまで分裂しただけ。


その内また姿を現してくれるとは聞いていたが……どうして異空間収納バッグの中にいたのだろうか?


私と一緒にいたいが為に異空間収納バッグの中に潜んでいた、いつぞやのロッテを思い出した。


どうして君達精霊はこんな所から出てくるのか…………って、まさか!?


慌ててバッグの中を探ってみたが、ロッテはいなかった。


……そうだよね。

ロッテはお兄様と一緒にいるはずだもんね。


私はホッと溜め息を吐いた。

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