新天地~女神の謝罪➁
「もしかして、君が僕達の女神様?」
カトリーナの前に立つレオの瞳がキラキラと輝いていた。
女神カトリーナが引き籠もったのは、レオが生まれるよりもずっと前の事だったので、レオがカトリーナと直接体面したのは今日が初めてのはずだ。
姿絵だけならこの邸にもあったが――
色素の薄い肌に、月の光の様な淡い髪。
澄みきった空の青色の瞳を持つ、優しくて穏やかな大人の姿をした
合法ロリ……コホン。
幼子の姿をした目の前の少女は邸内にあるカトリーナの姿とは、あまりにもかけ離れすぎている。
『姿絵詐欺』であると言っても過言ではないだろう。
――だというのに、レオは姿絵とは大きくかけ離れている少女に、何か特別な物を感じている様だった。
……なんて、ね。
まあ、ぶっちゃけるとラーゴさんとリラさんが跪いている時点で、彼等にとってこの少女が特別な存在であるのは、レオでも察しが付くだろう。
ただ……彼等の間には、部外者の私なんかには到底感じ取る事の出来ない、確かな絆が存在するようだ。
現に、レオはカトリーナに対して純粋な好意を向けている。
自分の父親に呪いをかけた相手だというのに、だ。
【女神と竜の絆】。
遠い昔に交わされた約束は彼等、竜の血の中に代々引き継がれている。
「「……レ、レオ!」」
息子の予想外な行動に呆けていたラーゴさんとリラさん達は、直ぐに我に返ると急いで立ち上がりレオの元に駆け寄った。
「カトリーナ様の御前だぞ!」
「わっ!」
リラさんがレオの肩をグッと押えて床に膝を付けさせた上で、更に頭を下げさせると、ラーゴさんが一歩前に歩み出てカトリーナに向かって跪いた。
ラーゴさんがリラさんとレオを背中で庇っている様な構図である。
「大変失礼をいたしました」
跪いたラーゴさんは深々と頭を下げる。
「息子はこの様にまだ幼く、物事をきちんと理解出来ておりません。息子のした無礼な振る舞いの責任は全て親である私にあります」
「…………」
カトリーナは眉間にシワを寄せながら黙ってラーゴさん達を見下ろしている。
レオの肩を押えているリラさんの身体が微かに震えていた。
「シャル……」
彼方が不安そうな顔で擦り寄って来た。
「大丈夫だよ」
私は彼方を安心させる為に、彼方の手を握った。
そう。大丈夫なのだ。
カトリーナはこの位の無礼で怒りはしない。
久し振りにラーゴさん達に出会ったので、どうして良いか分からないだけ……。
一見、怒っているかの様な顔だって、緊張して強張っているだけなのだ。
「私は如何なる罰も喜んで受けます」
「父さん……!」
「お前は黙っていなさい!」
深々と頭を下げたままラーゴさんが、短く鋭い制止の声を上げた。
「……どうか息子だけは……。やっと授かったこの子だけはお許しいただけないでしょうか」
緊迫した空気の中、ラーゴさんの言葉が続く。
「私はどうなっても構いません!!」
顔を上げたラーゴさんが悲痛な顔でそう叫んだ瞬間。
カトリーナが唇を噛み締めたのが見えた。
あ、ソレは駄目だ。
カトリーナは自己犠牲を何よりも嫌っている。
ラーゴさんに呪いをかけといてお前が言うなと思うかもしれないが、これはまた別の話だ。
和解どころの話ではなくなり、最悪また引き籠もられる可能性だってある。
そうしたらラーゴさんの呪いの解除が延期になってしまう。
「ちょっと待っ――」
ぎゅるるるる~~~~。
私の制止よりも早く、この場に似つかわしくない音が鳴り響いた。
……今のお腹の音は誰の!?
言っておくけど私の音じゃないよ!?
全員の視線が、とある方向に注がれている。
皆の視線を辿った先には、気まずそうに視線を逸らして、ピューピューと下手くそな口笛を吹いているクラウンの姿があった。
――お前の仕業かぁぁぁ!!
「ひっ!!」
思わず睨み付けると、ビクリとクラウンが飛び上がった。
……相変わらず空気を読まない奴である。
皆がポカンとしている中。
私はツカツカとクラウンに歩み寄った。
「お、お、お、お嬢、お、お、俺……わざとじゃ……!」
顔面を蒼白に染め、ガクガクと身体を震わせるクラウン。
私はそんなクラウンの肩――頭(?)の部分に両手を乗せてニッコリと笑った。
「よくやった!!」
「へっ?」
ポカンとしたクラウンが、ボンと音を立てて鏡の姿から人型に変身した。
「でかした!」
へたり込んだクラウンの両肩をバンバン叩いた。
「……褒められた?」
「そうだよ。分からない?」
「…………
失礼な奴だな。
「ご希望なら今からでも……」
「嘘!嘘!冗談だって……!! アハハ、ホメラレター!ウレシイナー!?」
私が瞳を細めて見せると、クラウンは口の端をヒクヒクと引きつらせた。
空気が読めなくてイラッとする事が多いが、今回は『クラウン、グッジョブ!』である。お腹の音で助かった。
今のギクシャクした空気のままでは話が始まらない。
流れをリセットする必要があったのだ。
クラウンから離れて踵を返す途中で、床に両手をついてガックリと俯くクラウンの姿が視界の端に映ったが……私はもう何も言う事はない。
それに、せっかく出来たこの好機を見逃す手はない。
問題解決の為に、ラーゴさん達の元に向かう私の耳に――
「姉さん……俺、もう嫌だよぉ……」
「全くもう……相変わらずお馬鹿な子ね。諦めなさい。でないとやっていけないわよ?」
泣き言を呟くクラウンに心から同情した様な金糸雀の声が入ってきた。
……ええと、金糸雀さん?その言い方は酷くないですか?
私にはやるべき事があるから、今は反論はしないけどさ!?
ちょっと後で『お話』しょうかー!?
ラーゴさん達とカトリーナの間に立った私へ視線が集まる。
……コホン。そう。さっきのは後回し!
私がやるべき事があるのだ。
「美味しいご飯の時間にしませんか?」
それは、みんなで美味しいご飯を食べる事!!
【美味しいご飯でお腹がいっぱい!みんな笑顔で幸せ!!作戦】開始だ!!
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