お兄様と迂闊な妹➀
コミック1巻発売記念の番外編です!
2話完結の短編になる予定です!!(……アバウト)
時間軸は、シャルロッテ十二歳。
和泉の記憶を思い出した辺りから、ダンジョン探索開始頃になります。
***
「シャル……。何事もほどほどにって、僕いつも言ってるよね?」
お兄様の背後に般若の面が見える。
「……はい!すみません!!」
私はドレスが汚れる事も構わずに、その場で土下座を繰り返した。
ここはひとまず謝り倒すに限る。保身の為に。
危機意識を察知した私の
私は
……え? この一ヶ月の間に何回お兄様を怒らせたのかって?
ふっ……。
私はこれまでの日々を思い出す様に空を仰いだ。
因みに――人が考え事をする時に上を見上げるのは、何も無い上を見ることで視覚情報を排除して思考に集中する為らしいよ! チ〇ちゃんがTVで言ってた!!
全てはダンジョン探索時に役に立つ様にと、自分の
ええと……始めは何したっけ?
ああ、確か――――
****
「うーん。上手くいかないなぁ……」
どんなに小さくイメージしてもサッカーボール大になってしまう氷の塊の大きさをコントロールする為に、私は朝からずっと一人でアヴィ家の裏庭で鍛錬をしていた。
「アイス」
右手を翳しながら唱えると……出てきたのはまたしてもサッカーボール大の氷の塊だった。
「うおおーい!」
両手で氷の塊を受け止めた私は、イライラしながらソレを投げ捨てた。
全属性が使えて、尚且つ魔力が枯渇しない。
それ故にコントロールがしにくいのかもしれない。
チートなのは嬉しいが、密室空間であろうダンジョンで魔力がコントロールしきれないのは……お兄様にも言われたが、味方を危険に晒す足手まといでしかない。
うーん……。コツを掴めば全てが丸っと解決すると思うんだよねー。
私は顎に手を当てながら、ウンウンと唸った。
コントロール……コントロール……。
あ、そうか!
名案が閃いた私は、ポンと右手の拳を左手の上に乗せた。
私が今までイメージしていたのは、悪シャルが作れた小さな氷の粒である。
悪シャルと今のシャルロッテ《わたし》では、そもそもの魔力量が違うのだから、同じ物を作るのは難しいのだろう。
つまり、塊の大きさを変える事に固執するのではなく、違う物を出せば良いのだ!
そうだ、そうだ。それにしよう!
名案を早速試すべく、右手を翳しながら瞳を閉じた。
まずは……何にしようか。
ふと頭の中に思い浮かんだのは、瞳を閉じる直前まで視界の隅にあった花だった。
和泉の世界で言えば、チューリップに似た花。
名前は確か――『ユーリップ』。
……この微妙なネーミングはおいといて。
形的にもそんなに難しい花ではないし、練習にはもってこいかもしれない!
「……アイス」
ユーリップの花の形をイメージしながら呟いた。
ゴスッ。
……今の音は何?……まさか、またサッカーボールになったんじゃ……?
恐る恐る瞳を開けると、ユーリップの形をした氷が足下の芝生に転がっているのが見えた。
重そうな音は、氷の塊だからだった。
「う……そ?」
大きすぎず、小さすぎない。
ユーリップ大きさそのものの、本物ソックリの氷の彫刻が出来ていたのだ。
「やっ……たーーーー!!!」
私、天才!? いや、チート様最高!!
天に向かって両手を思い切り伸ばした。
よし、これならば……。
初めての成功で調子に乗った私は、それから裏庭にある物を次々と模倣し、氷の彫刻を作り続けた。
――その人が現れるまで。
「……シャル?」
「ひいっ!?」
突然、背後から聞こえてきた声に驚いた私の身体は、まるで今まで自分が作り上げてきた氷の彫刻の様に固まってしまった。
「何してるの?」
優しい声音なのに、全然優しさが含まれていない。
ゾッとする様な寒気と威圧感。そして上からの刺す様な視線が痛い……。
ギギギギギ……と、錆付いて動きの悪いロボットの様な動きで声の主を仰いだ。
「……お兄様」
「ん?」
ニッコリとした満面の笑みを浮かべるお兄様が、そこにいた。
「それで?僕がちょっと目を離した隙に、どうしてこうなるのか教えてくれないかな?」
……め、目が一ミリも笑っていない……!
サーッと全身から血の気が引いて行くのが分かる。
「ええと……どうして……でしょう?」
笑って誤魔化そうとしたが、顔が強張りすぎて上手くいかない。
そんな私を見るお兄様の瞳がスーッと細くなった。
……しまった!!
私は、お兄様への対応を間違えてしまったのだ。
ここは潔く謝るところだったのに……!
――そう思った時には、後の祭り。
私は正座のままで二時間ほど、お兄様の
***
氷の魔術を使いこなせた事に……調子に乗った私は、小さな花だけでなく十分の一スケールの邸まで作り上げしまっていたのだ。
しかも
裏庭いっぱいに積み上げられた氷の彫刻を『かき氷』にして皆で食べたっけ。
『かき氷祭り』……懐かしいな。
「……ねえ。聞いてる?」
底冷えする様な声にハッと我に返った私は、自分が置かれている今の状況を思い出した。
……現在進行形でお説教されている真っ最中だった。
「き、聞いてます!」
「……本当に?」
お兄様の瞳が微笑みに併せて細くなる。
「はい!勿論です!」
身の危険……というより、精神的な危険を感じた私は、お兄様に向かってまた深々と頭を下げた。
お、お兄様怖い……!!
「じゃあ、話を続けようか」
「はいぃ……い!」
――――まだまだ、お兄様の
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