新天地 ~レオの魔力①


瞳を閉じて、『シンクロ』と小さく呟いた私は、レオの頭に乗せた自らの手から魔力を放出し、それをレオの体内に循環させた。

【同調】をイメージしながら、頭から指先、足の爪先まで余すことなく、くまなく巡らせる。


リカルド様の時は、身体の奥底に魔力が封印された鍵付きの箱があった。

その鍵を壊して箱の蓋を開けた途端に、彼の秘められていた魔力が全身を駆け巡り、結果的に魔術が使える様になったのだ。


本来は魔術が使えない筈の獣人のリカルド様。正しくは半獣人だが……今は特に関係ないだろう。

あの時、無理矢理に魔力を解放させたリカルド様には、今のところ何の問題もない。

問題が起きても私がどうにかするけどね!


さて……。レオはどうだろうか。

レオにもリカルド様の時と同じ様な封印がされている……?


自らの放った魔力の気配を追いながら、レオの魔力を暫く《しばらく》探し続けていると……。


ふと、循環させていた私の魔力の一部が、何か薄い粘膜の様なものを突き抜けた様な感覚がした。


その瞬間――。

真っ暗闇に、私の『感覚』が引き釣り込まれる様にして飲み込まれた。……かと思いきや、今度は一瞬にして空中に放り出された。


え?……ええっ!?


まるで、身体ごと宇宙に放り出された様な不思議な感覚。

驚いている私は、ただただ呆然としながら視界に映る範囲内を見渡す事しか出来なかった。


しかし、この状態が五分程続くと……徐々に冷静さを取り戻してきた。


うーん……。これは一体どういう状態?

同調させていた私の魔力と『感覚』がによって取り込まれた。


因みに、ここで言う『感覚』とは、私の意識……魂と言っても良いかもしれない。

あるいは、実体を離れた幽体?


今の私が実体を持っていない事は、不思議だが……自然と理解出来ている。

私の実体はきちんと金糸雀のいる場所に止まっているのだ、と。


依然として宙に浮かんでいる様な感覚のままの私は、状況を探る為にゆっくりと周囲に視線を巡らせた。

すると、ここは漆黒の暗闇の空間なんかではなく、淡い星の様な物が無数に広がる……夜空にも似た空間である事に気付いた。


淡く光る星は、どこか温かくて、懐かしい……。

こんな空間がレオの……竜の中には存在するのだろうか?


じんわりと胸に宿る温かいものを感じながら、更に辺りを見渡すと……


あれは……?


この空間で一番明るく、輝いている場所を見つけた。


キラキラとした虹色に光る粒が、地面の方から上に向かって、一つ……また一つと宙に浮かんでくる。

その浮かんだ光の粒の一つ一つの輝きが、暗闇の中で淡く光る星の様な働きをしている事に気付いた。

私は引き寄せられる様に、に向かった。


***


虹色の光の粒は、パンパンに膨らんだ黄色の巾着袋の様な形状の物から、一つ……また一つと、まるで重力に引き寄せられられる様に浮かんで行く。


……この袋が、もしかして……レオの!?


溢れ出す虹色の光の粒からは、レオとがした。


見つけた!!

やっぱり、レオにもちゃんと魔力があったじゃないか!


嬉しさのあまりにその場で飛び上がりそうになったが……私は、ふと思った。


魔力があったのに、きちんと魔力を使えなかったレオ。

それは、この巾着袋状のものに魔力を閉じ込められていたからだろう。

だったら、この袋を開けてしまえば良い。

キュッと固く結ばれたリボンをほどいてしまえば良いのだ。


虹色の光の粒の溢れ出る巾着袋は、容量を遥かに超えて限界にまで大きく膨らんでしまっていて、今にも袋が破けて中身が一気に溢れてしまいそうだ。


まだ破裂していなかったのは、ごく僅かにあるリボンの隙間から少しずつ光の粒が漏れ出ていたからだろう。

早くほどいてしまえば、全てが解決しそうなものだが……。


多分、この方法は危険だ。

何故なら、私の中のチートが警鐘を鳴らし始めたから……。


『危険! 危険!危ナイヨ!!』

こんなあの子の声も聞こえる気がする。


……どうしよう。

このままだと、どちらにしても危険だ。


『魔力の暴走』

魔力の暴走は、その魔力が枯渇するまで続き――最悪の場合は、そのまま死に至る。


……今のレオはそんな状態なのだ。



便、魔力を解放させて、尚且つ循環を促す。


そう、言葉にするのは簡単だが……私にそれが出来るだろうか?


……いや、やるしかない。

には私しかいないのだから。

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