新天地~探険②
『悩み事』とは……心を苦しめる辛い状態の事をいう。
仕事、恋愛、生活、趣味……等々。
解決出来るものから……解決が難しいもの。
言いやすい悩みと、言いにくい悩み……と、色んな形が存在する。
悩み事を決して軽くみてはいけない。
ほんの小さな悩み事が、人格や人生まで大きく変えてしまったりする事もあるからだ。
解決出来るものや、言いやすい悩みならば良いが……中には相談しにくい悩みや口にしたくない分類の悩みもある。
――――そんな時に有効なのが【お酒】だ。
『悩み相談』とは、対象の相手を酔わせて本音を暴露させる場である。
異論、反論は認めません!!
さあ、レオを酔わせて暴露大会開始だーー!
……と、その前に。
肝心のお酒を用意しなければならない。
私が作ったおつまみやお酒のストックは、まだ異空間収納バッグの中にあるが、目の前には飲み放題のお酒があるのだから、使わないのは勿体ない。
私はバッグの中からピッチャーを取り出して、カルピスサワーを汲む事にした。
ピッチャーにカルピス〇ワーを汲みながら私は、ふと思った。
……この幾度となく押し寄せる波が、淡い発泡を作り出しているのかな?と。
どこまでも続いている様に見える海は、どれだけの広さなのか。
泳いでみたい気もするが……多分、絶対に途中で溺れる。
お酒の海を泳ぐだなんて、どんな贅沢だ。
きっと、口の中に入って来るお酒は全て飲み干してしまいだろう。
そしたら、やっぱり酔いすぎて溺れるのは確実だ。
【教訓】お酒の海を泳いではいけません。
……なんて。まだ泳いでいないけどね。
ピッチャーにカルピ〇サワーを汲み終えた私が、レオと金糸雀の元に戻って来ると……
「そう!そうなのよ!シャルロッテったら、リカルドにキスされて真っ赤になって――」
「金糸雀?」
聞き捨てならない言葉が聞こえた私は、理由も聞かずに金糸雀相手に思わずすごんでしまった。
いつの話をしているの!?
さも見ていたかの様に話しているけど、あの場に金糸雀いなかったよね?!
……って、そうか。
今は無きダンジョンの中から、ずっとクラウンを通して見られてたんだもんね。
そうか、そうか……全てはクラウンのせいか……。
「リカルドの話が聞きたいってレオが言うから、教えていたのよ」
「……リカルド様の話を?」
チラッとレオを見ると、私と目が合ったレオは何も言わずにニッコリと笑った。
……レオは、どうしてリカルド様の話を聞きたがったのだろうか?
別に秘密にしている訳ではないから、話題に出しても構わないのだけど……あの時の私の話だけは駄目だ。
未だに思い出すだけで恥ずかしい。
何が恥ずかしいって……あんなに狼狽えた自分自身が恥ずかしいのだ。
「……金糸雀」
「……分かったわよ。この話は駄目なのね」
ジト目を向けた私に、金糸雀は肩をすくめるかの様に羽を小さく広げた。
空気の読める金糸雀はとても好ましい。
弟のクラウンにも……ってそうじゃない。
この話になると長くなりそうなので、気持ちを切り替えていこう!
今回の目的はあくまでもレオなのだから……。
シートに座った私は、まずはバッグの中から小さめなテーブルを取り出した。
こんな物まで入るのだから、異空間収納バッグはとても有能で素晴らしい。
テーブルの上につまみや即席で用意したお酒も用意したら――――
今度こそ『お悩み相談』の開始である。
見た目が幼いレオにお酒を勧めるのは気が引けるのだが、竜族のレオにはなんの問題もない。
一瞬、『お酒大好きな竜族の一員であるのレオを酔わす事が出来るのかな?』と思ったが……やってみなければ分からない!
行き当たりばったりでもOK! ケセラセラ!!
「どんどん飲んで、食べてね!」
私は暫くの間、レオと金糸雀の給仕係に徹した。
****
「ふふふっ……」
トロンと瞳を細め、ニコニコしながら身体を左右に揺らし出したレオは、私の思惑通りに無事に酔ってくれた。
「レオ……大丈夫? お水飲もうか」
「うん。飲むうー」
私から水の入ったグラスを受け取ったレオは、素直にそれに口を付けた。
両手でグラスを持って水を飲んでいるレオは……とても可愛い。
思わず手を伸ばして撫でたくなってしまう。
「んー? 撫でても良いよぉー?」
私の視線に気付いたレオは私の手を取り、自らの頭の上にポンと乗せた。
柔らかい髪にくしゃりと指が絡むと、レオはくすぐったそうにしながら笑った。
……危ない。危ない。
違う世界に足を踏み入れる所だった……。
思いがけずにレオに触れる事になったが、丁度良かった。
まずは、リカルド様の時の様に、レオの中の魔力を探ってみよう。
「レオの中に、ちょっと私の魔力を流しても良い?」
勝手に流す事も出来そうだが、拒まれたら終わりなので!レオに了承を取る事にした。
「中に……?良いよぉー」
レオは不思議そうな顔をしながら首を傾げたが、にこやかに承諾してくれた。
「じゃあ、流すね」
承諾を得られた私は、レオの身体の中に魔力を循環させた。
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