新天地~歓迎③

「おお。見事だな」

私の腕の中から抜け出したサイが、舞い散る花片はなびらを見上げながら瞳を細めた。


「竜とはこんな事も出来るのですね」

金糸雀はそう言いながらサイの頭の上にちょこんと留まる。


「いや、全ての竜にこんな事が出来るわけではないだろう」

サイがチラッとリラさんに視線を向けると、リラさんはふふっと微笑んだ。


……さて。今、私は自分の口を自分の手で押さえています。

どうしてか?……それは、叫ばない様にする為です。……はい。

金糸雀さんがチラチラとこちらを伺っているので、私はそれに黙って何度も頷き返しています。

ええ。分かってますよ?今回は叫びません!



――――始祖竜の血を受け継ぐ純血種。

ルオイラー理事長が魔術を得意としているのだから、娘のリラさんにも受け継がれていてもおかしくはない。


幻想的で素敵な歓迎に酔いしれていた私は、ふとレオの事が気になった。

覚めない興奮からつい叫び出さない為に、大きく深呼吸をしてからレオに視線を向けると……レオの顔が暗く沈んでいる様に見えた。


「……レオ?」

「……僕には母さんみたいな魔術は使えない」

レオはポツリとそう呟いた後に、唇を噛み締めながら瞳を伏せた。


レオの父親の事はまだ分からないが、ルオイラー理事長とリラさんの血を継いでいるなら素質はあるはずだ。

もし昔のリカルド様のように魔力が封印されていたり、魔力の循環に問題があるようならば、私が力になれるかもしれない。


「レオ……あのね」

そう思いながら口を開くと……


「さあ、皆さん。席に着いて?」

タイミングが悪く、リラさんに背中を押されてそのまま着席する流れとなってしまった。

円卓の私の両隣にはサイと金糸雀がおり、残念ながらレオとは少し離れている。

出来る事ならば、さっさとレオの悩みを解消してあげたかったが……歓迎会の最中に機会があるだろうと、そう気持ちを切り替えた。



円卓の上には様々な料理と――――とある白い飲み物がグラスに注がれていた。


「これは……?」

行儀が悪いとは思いつつ……気になるのはグラスの中身である。

カ〇ピスの様に白い液体の中には、小さな気泡が幾つも見える。


「これはこの辺りに湧き出ているお酒なの。微かな刺激が癖になるのよ」


……!?

私はカッと瞳を見開いた。


それってどんなファンタジー!?

……って、ここは普通に異世界だった。

転生者の私からすれば立派な『異世界ファンタジー♪』……って、そうじゃない!

勝手にお酒が湧き出る場所があったなら、私の今までのお酒作りの意味は!?

いやいやいや……それにはちゃんと意味がある!

結果的に私好みのお酒が造れているのだから問題は何もない。

問題があるとすれば……簡単に飲めるお酒の存在を今まで知らなかった事だ!!

くっーー!! 今までの人生損した!!どうしてもっと早く教えてくれなかったの!

知ってたらもっと早くお酒が飲め……飲めないな!

あれー……?

結果オーライ?人生損してなかった。アハハ。

寧ろ、お酒が飲めるようになって直ぐに分かったのだから、良い事だった!!

……うん。今まで頑張って良かった。

思わず涙ぐみそうになっていると、ツンツンと袖の端を金糸雀につつかれた。


……あっ。

みんなの視線を独り占めにしていた。

……恥ずかしい。


コホンと一回咳払いをしながらグラスを持ち上げると、今まで私の行動をニコニコと笑いながら見ていたらしいリラさんがグラスを上に向かってかかげた。

「ようこそ竜の国へ。私達は愛し子シャルロッテ達を心から歓迎します」


ここでもグラスをぶつけ合う様な『乾杯』はしないらしい。

私はリラさんやレオに合せる様にグラスを掲げた。

小鳥姿の金糸雀は流石に無理だが、両手でグラスを持ち上げている黒猫のサイの姿は何度見ても可愛い……。

中身が魔王だとか、金糸雀の父親だとかは気にしない!


サイを横目にグラスを傾けた私は……

「……!!」

再びカッと瞳を見開いた。


こ、これは……!


幼い頃から馴染みのある、心がじんわりとする様な優しい甘さとシュワッとした刺激は正に……!というか、見た目の通りにカルピ〇サワーだ!!


懐かしい味に我を忘れて、一気にグラスの中身を飲み干した。


「美味しかったでしょう?」

「はい!すっごく美味しかったです!」

コクコクと何度も大きく頷いていると、横から給仕の男性がお代わりを注いでくれた。


まさか竜の国に、カ〇ピスサワーの源泉があるだなんて……!!


「ふふっ。竜の国には他にも色々なお酒の湧き出ている所があるから、行ってみると良いわよ」

「はい!!」

私は速攻で即答した。食い気味で即答した。


な・ん・と!

天国がこんな所にあったなんて…………!

ああ、もう一生この国で暮らしたい!!


「そうだ。主よ。手土産を渡さなくても良いのか?」

酔っているのか、嬉しそうに身体を左右に揺らしながらサイが言った。


……浮かれ過ぎて……大事なことを忘れていた。

中身が元アラサーの会社員とは思えない失態である……。

感謝の意味を込めてサイの頭を撫でた。

サイには後でしっかりとお礼をしなければ。


「私が作った物ですが……」

私は異空間収納バッグの中から、自作のお酒やケーキやチョコレート、ドライフルーツ等々を取り出した。


「まあ……!」

「すごい!これを全部シャルロッテが!?」

リラさんとレオは驚きながらも瞳をキラキラと輝かせている。


「はい。どうぞお召し上がり下さい」

これで少しは愛し子としての名誉が挽回出来たかな?

――そう思ったのは内緒である。

生暖かい眼差しを向けて来た金糸雀にはバレていたけど……。くっ……!



リラさんと……見た目は幼いがレオも立派な竜らしく、純米酒やお酒の入ったチョコレートや、新作のお酒アイスが大好評だった。


お兄様!上客をゲットしましたよー!


と、まあ、そんなこんなで楽しい歓迎会は夜遅くまで続いたのだった――――。

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