新天地~歓迎①

「うーわーー!」

竜のねぐらから見えたお城の様な建物は、丸っと全てリラさんの邸だった。


驚くべきはその大きさと広さだ。

ユナイツィア王国の王城よりも大きいかもしれない……。

私は思わず口をあんぐりと開けたまま、お城としか言えない邸を見上げた。


竜が使っている邸だからこんなに大きいのか……。

はたまたリラさん達が凄いのか……。


因みにこのお邸は、現在の所有者はリラさんだが、元々はルオイラー理事長のモノだそうな。


「ふふっ。今日から愛し子達もここで生活するのだから、遠慮せずに入ってちょうだい」

微笑むリラさんに促される様にして、邸の中に入ったが……。

『凄い』としか言いようがない。

中でも一番驚いたのは天井の高さだろうか。竜達が間違えてここで変身しても天井を突き破る事はないだろう。


というか……ここで生活するのか……。

そう思うと少しワクワクしてきた。


「わぁーい!シャルロッテと一緒だ!」

……レオ。

幼い子供の様に喜んでいるけど、私と同い年だからね?!

見た目が可愛いからって騙されないよ?!


この邸を受け継ぐ者が、この辺りのねぐらの統率者となるらしい。今の竜達のトップはリラさんで……以前はルオイラー理事長だったという。


って……マジですか。

あのが、実はこんなにも凄い人だったのだと、私は改めて実感した。


いや、凄いのは知っていたよ?!

ただ、見境なく学生達に魔術攻撃して歩いているルオイラー理事長が、大人気ないというか……なんというか。

育てたい欲求からではなく、それが趣味によるものだとしか思えないのだから立派なである。いくら人好きだとしても、だ。


ルオイラー理事長は、始祖竜――始まりの竜の内の一人である。

凄いのは折り紙付きである。(性格に難有り)


私がここで、ふと思い出したのは……始祖竜についての神話だった。


***


――――その昔。

神々が引き起こした先の大戦で、愛する家族を失った女神が水辺で一人涙を流していた。

すると……流れ落ちた涙は、光の粒となって新しい生命の形となった。

それは数匹の小さきだった。


『女神様。我等を産み出して下さった尊きお人よ……。どうか泣かないで下さい。今日から私達があなたの支えになりましょう』

ある蛇が女神にこう言った。


『生まれたてのあなた達は、きっとすぐに死んでしまう……』

そう嘆き悲しむ女神に、

『それでは、どんな攻撃もはね除けるぐらいに硬い鱗を授けて下さい。そうすれば私達は身を守る事が出来ましょう』

別の蛇はそう続けた。


『それでもあなた達は私よりずっと小さい。きっとすぐに死んでしまう』

しかし、女神は尚も泣き続ける。


『では、私達をどんな生き物よりも大きな姿に変えて下さい。そうすれば簡単に狙われる事はないでしょう』

また別の蛇がそう言うと、

『例え、大きくて頑丈な身体になっても、あなた達は私より長くは生きられない。きっと私を残してすぐに死んでしまう……』

女神はポロポロと大粒の涙を流した。


『それならば私達に女神様の寿命をほんの少しだけ分け与え下さい。私達は子孫を繁栄させながら、女神様に使え続けると約束しましよう。決してあなた様を一人には致しません』

とある蛇が最後にそう告げると、女神は伏せていた顔をゆっくりと上げた。


『……本当に?』

『勿論です。我等は――女神の眷属。未来永劫あなた様にお仕え致します』


そうして女神の力を分け与えられた小さき蛇達は竜へと進化した――。


***

これが始祖竜の始まりだと言われている神話だ。


真偽は不明ではあるが……この神話が本当ならば、あの中にルオイラー理事長がいたことになる。

ルオイラー理事長は一体……何歳なのか。



リラさんに案内されるがままに、大階段に差し掛かると、そこには一枚の絵が掛かっていた。


「この綺麗な女性は……?」

「このお方は我等の偉大なる女神のカトリーナ様です」


色素の薄い肌に、月の光の様な淡い髪。

瞳の色は澄みきった空の青色をしている。

穏やかそうに微笑むこの人が……竜達を産み出した女神様……。


……あれ?

そう教えてくれたリラさんの瞳が翳った様に見えた気がしたが――――


「主よ。この女神は我が妻のカーミラと仲が良かったはすだ」

私の腕の中にいるサイが、こちらを見上げながら首を傾けた。


「お母様と……?」

サイの言葉にいち早く反応したのは、金糸雀だった。

「ああ。お前が生まれた時に一度会った事がある」

「……そうですか。是非お会いしてみたいですわね」

金糸雀はポツリと呟いた。


母親と過ごした時間が短かった金糸雀は、母親に関わる話を少しでも聞きたいのだろう。

サイの奥さんと仲良しなら、きっとアーロンやセイレーヌとも知り合いだろうから、今度会える様にお願いをしてみようかな。


竜達の特別な存在である女神様とサイ達が関わりがあった事に気を取られ、私はリラさんが一瞬だけ浮かべた、悲しそうな顔の事をすっかり忘れてしまった。



カトリーナ様の肖像画を横目に大階段を上り、幾つかの部屋の前を通り過ぎて行く。


そうして廊下の突き当たりの部屋の前に着くと……

「さあ。改めて……ようこそ竜の国へ」


リラさんとレオが大きな扉を解き放ったと同時に……


「うわぁーー!」

私は本日、何度目になるか分からない歓喜の声を上げた――――。

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