新天地~竜のねぐら➂

な・ん・だ・っ・て!?

「ルオイラーって……あのルオイラー理事長の事ですか?!」

「ええ。そのルオイラーで良いと思うわ」

レオのお母さんはカラカラと笑う。


へー、へー、へー!


……あれ?でも……現学院長は確か人間の奥さんとのハーフだった様な?

目の前にいるレオのお母さんは……?


「……レオのお母さんは半竜ではないですよね?」

「ええ。私は純粋な竜の血族よ。……ああ、弟の事かしら?あの子は父の奥さんとの子供だから半竜人なのよ」

レオのお母さんは瞳を細めた。


【竜の番】は唯一無二だと、和泉の世界では有名な小説の設定話だったが……この世界は違うのだろうか?

レオのお母さんの話だと種族の違う番が二人いるという事になるよね……?


「竜は半身である番を心から求め、出会えたなら心の底から愛して生涯慈しむ生き物よ。だけど、その番に出会える可能性はとても低いの。私は幸いな事に同じ竜である夫が番だったけど……そもそも同じ種族とは限らないのが難しいところね。探すのに疲れて相手を選ばない事もある。それが私の母よ」


……これにはどう反応して良いのか。

ルオイラー理事長は出会えない番のに……って事なんでしょ?


「愛し子。そんな顔しなくて大丈夫よ。そんな竜は沢山いるの。父は漸く番に出会えたし、私の母もその後に無事に番に巡り会えたのだから。私達竜はそれが一番なの」

そう言い切ってしまわれると、これ以上私に言える事はない。


レオのお母さんの……子供のしての立場は?とか、つい勝手に色々と考えてしまうのだが、それらも全てレオのお母さんが飲み込んで消化してしまっているのなら……これは私の完全な余計なお世話だ。ただのエゴなのだ。


「あたっ!」

「眉間にシ・ワ」

金糸雀にくちばしで眉間をつかれた。


「嘴は酷い……」

涙目で眉間を押さえた。

痛いは痛いが、それよりも衝撃の方が強い。


「ボーッと余計な事を気にしているシャルロッテが悪いわ。第一これは、あなたが考えても何も変わらないわよ?」

「それはそうなんだけど……」

オデコへの不意打ちの攻撃は危険ですよ?!


「『竜とはそんなもの』そんな風に割り切りなさい」

「うーん。それが出来れば苦労はしないかなー……」

「それが出来ないから我が主なのだ。娘よ」

「まあね……。救われてる部分はあるわ」

「そうであろう?娘よ」

「じゃあ、現状維持ね!」


……また好き放題言われているが、反論出来ないのが痛いところだ。

しかも結論が『現状維持』って。

遂には、このままで良いって認められてしまったじゃないか。


まあ……この性分は今更変えられないだろうけどね。実際のところ。

我ながら面倒くさいが……私の望む幸せは、私を取り囲む全ての人達の幸せなのだ。

だったら、考え続けるしか……ないか。


俯けていた顔を上げると、レオのお母さんと目が合った。

「……レオのお母さんのお名前を聞いても良いですか?」

流石にいつまでも『レオのお母さん』は失礼だと思ったのだ。


「私の名前はよ。愛し子」

「あ、私はシャルロッテ・アヴィです」

悠然と微笑むリラさんに向かって淑女の礼を取った。

……今更とか言いっこなしだよ?!


「ふふっ。さて、そろそろ邸に行きましょか。歓迎するわ。愛し子シャルロッテ」

リラさんはゆっくりと大きな身体を起こすと、歌の様なものを口ずさみ始めた。


「リラさん……?」

「しーっ。シャルロッテ、黙って見ていて」

側にいたレオに袖をそっと引かれた。


「へ?!」

咄嗟に口元を両手で覆った私は、黙ってリラさんを見た。


リラさんの紡ぐ歌は光の筋となって輝き出し、歌が紡がれる度に光は大きくなっていき、あっという間にリラさんの大きな身体を包み込んでしまった。


神秘的で幻想的な目の前の光景に、私の瞳は釘付けになった。



光が消えた後に現れたのは――――

人の形になったリラさんだった。

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