新天地~竜のねぐら➁

「あーーー!!愛し子だ!!」

金色の大きな瞳をキラキラと輝かせながらこちらを指差しながら叫ぶ子供。

……人間の子供の姿をしているというの、その背後には小振りだが、青い鱗の竜の尻尾が見えた。


ええと……この子は竜……で良いんだよね?


判断に困った私がサイを見ると、サイは首を大きく縦に振った。


「主よ、コレは間違いなく竜の子供だ。だが、幼い子供よりも成長した……主と同じ頃の年齢の竜だと思うのが良いだろう」


私から見たらこの幼い子供が……シャルロッテと同じ年!?

……十七歳位っていう事だよね!?

まだ八歳位にしか見えないんだけど……。


日本人は外国人から見れば若く見え……って、今の私の姿は日本人じゃなかった。

竜族は長寿だから、私の様な人族とは比べる次元が違う。

……そうか。竜族って凄いな。

私は単純にそう思った。


「……愛し子じゃないの?」

目の前の子供の瞳が徐々に曇っていく。


しまった!きちんと返事もしないだなんて感じが悪すぎるじゃないか。


「ごめんなさい。初めまして、私は女神の愛し子のシャルロッテ・アヴィです」

私は目の前の子供の目線の高さまで膝を折ってから、ニコリと微笑んだ。


竜族が『赤い星』が見えるのか分からないが、瞳の中の赤い星を見せる様にすると……

「キレイな瞳だね!シャルロッテ!」

子供がニッと白い歯を覗かせながら嬉しそうに笑った。


……やばい。やばかった!!

純粋な子供の反応に胸がキュンとしてしまった。

コレが穢れていない子供の反応というやつなのか……。


「……見えるの?」

「ん? 何が?」

「私の瞳の中にある赤い星の事」

「見えないよ?ただ、シャルロッテの瞳はキレイだなって」

見えないのか!

赤い星が見えないのに『キレイ』と言ってくれたのか……!

何という将来有望な子供だろうか……。


「僕はレオだよ!よろしくね!」

「うん!よろしくね!レオ」

そう言ったレオに手を差し出されたので、サイを下に下ろしてからその手を握ろうとすると……グイッと力強い手に強引に掴まれた。


「……レオ?」

「残念。狼の匂いがする。シャルロッテにはもう番がいるんだね」

レオに取られた手の甲にチュッと軽い音を立てて口付けられた。


な、な、な、な……っ!?

私は思いきり瞳を見開いた。


き、キス!? 今、手の平にキスされた!?


突然の行為に、私がこんなにも動揺しているというのに、レオは平然と……いや、楽しそうに瞳を細めている。


「……シャルロッテ。落ち着きなさい」

私の肩にいる金糸雀が苦笑いを浮かべた。


「竜の子供にからかわれているぞ。主よ」

サイはこちらを見上げながら、やれやれと肩を竦めている。


か・ら・か・わ・れ・た・だと!?

キッとレオを睨み付けると、レオがニヤリと笑みを深くした。

……悪びれる様子もない。

このふてぶてしさと……腹黒い感じは……私のお兄様を彷彿とさせる。


怖い……竜族怖い……。

見た目は子供なのに頭脳は大人……じゃなかった。


見た目は子供なのに、行動が見合っていない!

私はガックリと肩を落とした。


このままじゃ、レオに翻弄されるだけだ……そう思った時。


「……レオ。愛し子をからかうのはおよしなさい」

私の頭上から優しい声が降って来た。


反射的に上を見上げた私は……驚いた声を上げない様にする為に、必死で声を飲み込んだ。

私の頭上にはいつの間にか、青い鱗と金色の瞳を持つの姿があったからだ。


青色の鱗は一枚一枚が艶々と輝いており、まるで宝石の様だ。

キレイな金色の瞳は誰かに似て…………?


「ちぇ……。分かったよ。母さん」

そう。目の前にいるレオと同じ色の瞳だ……って……!

「母さん!?」

私は、レオと頭上の竜を何度も交互に見返した。


……うん、確かに似ている。姿形は全く違うが、身に纏う雰囲気が似ている。

慈愛に満ちた穏やかな金色の瞳は……母親が子供に向ける眼差しだった。


……お母さん。

母との別れを思い出した私はキュッと唇を噛んだ。


……悲しい事は思い出さないで……楽しい事を思い出すんだ。

そう、何度も心に言い聞かせる。


みんなが忘れてしまっても私はずっと覚えている。

こうして思い出すだけで幸せになれる。

悲しい気持ちになった時は、それ以上に楽しかった思い出を記憶から呼び起こす。


そうすればいつかこの気持ちも昇華されるだろう…………。




「やんちゃな子供でごめんなさいね」

ボーッとレオ達を見ていると、レオのお母さんと目が合った。


「い、いえ。子供は元気なのが一番だと思います!」

「ふふふっ。愛し子は良い子ね」

レオのお母さんはそう言うと、ゆっくりと大きなその身体を地面に横たわらせた。


「……主よ」

「どうしたの?」

地面に下ろしていたサイを抱き上げると、

「この竜はなかなかの上位だと思うぞ」

サイが声を潜めながらそう言った。


「……分かるの?」

「うむ。金色の瞳といい、鱗の輝きといい……他の竜と見比べてみると分かるだろう」

サイに促された私は、そのままゆっくりと近くにいる竜達へと視線を向けた。


……本当だ。

みんな同じだと思っていた青い鱗の色も、金色の瞳も微妙にそれぞれ違っている。

目の前にいるレオのお母さんが際立っているのも比べてみて分かった。

レオのお母さんもレオも気品に満ちている……


「ねえ、愛し子。私の父の……ルオイラーは息災かしら」

「え……?」

レオのお母さんの言葉に私は絶句した。


レオのお母さんがルオイラー理事長の娘……!?

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