女子会③

「ん……っ?良い匂いがする!」

翌朝目を覚ました彼方は、瞼を擦りながら嬉しそうな顔でベッドから降りてきた。


「これは……どうしたの?」

キラキラと瞳を輝かせながら彼方が見つめているのは、テーブルの上に乗っているフレンチトーストだ。


「厨房をお借りして作って来たんだ」


彼方よりもだいぶ早く目覚めてしまった私。

元々、朝ご飯を用意しようとは思っていたから、彼方が目覚める前に王城の厨房の一角をお借りして作ってきたのだ。

この世界にはフレンチトーストがなかった様なので、興味津々といった眼差しを浮かべていた料理人さんには、お礼の意味も込めて数種類のレシピと見本としてフレンチトーストを置いてきた。

後日、クリス様に聞いた話だと……

予想以上に気に入ってもらえた様で、料理人さん達のまかないや、クリス様達の朝食に出てくる事もあったらしい。

甘いだけのフレンチトーストではなく、ベーコンやスクランブルエッグを添えた、甘じょっぱい味が人気だったそうだ。


「えー……私も一緒に作りたかった。起こしてくれたら良かったのに……」

彼方は小さな子供の様にぷうっと頬を膨らませた。


……随分と表情が変わる様になったな。


「ごめん、ごめん。昨日は初めてのお酒を飲ませちゃったから、様子を見ようかと思って……ね。次は一緒に作ろう?」

「……約束だよ?」

彼方を宥める様に提案をすると彼方はニッコリと笑った。


「ほら、冷めても美味しいように作ったけど、どうせなら温かい内に食べて?」 

私はそう言いながら、クランクランの果実で作ったジャムやアイスクリームも並べた。


「女子会の朝ご飯って感じしない?」

「んー……私、女子会やった事ない」

「……そっか。まあ、私もなんだけどね」

「そうなの?意外だね」

彼方は瞳を丸くした。そんな彼方の寝癖を直しながら私は苦笑いを浮かべた。


「この世界のお茶会を女子会と言われたらそれには参加した事はあるけど……昔の私は乙女ゲームとお酒が趣味のリア充ではなかったからなぁ……」

「和泉さん、料理とか出来るし……モテそうだけどね?」

「いや、それは全然。彼方みたいに可愛くないし、ホント普通のどこにでもいるアラサーだったからね」

「へー……。もっと和泉さんの話聞いても構わない?」

「勿論!何でも聞いて!」

私は大きく頷きながら、一口大に切ったフレンチトーストを口に運んだ。


今日のフレンチトーストは基本の卵、ミルク、砂糖の材料の他に、この前作っておいたプリンを混ぜてみた。

これがまたフレンチトーストをトロトロにしてくれていて……凄く美味しい。

甘くて優しい味は食べているだけで自然に笑顔にさせてくれる。


「んっ!!美味しい!プリン味で……お店で出て来る物みたい!」

喜んでもらえて何よりだ。


アイスクリームを乗せると、フレンチトーストの熱で溶けたアイスが絡んでまた絶妙な美味しさに変わる。キャラメリゼも良いな……。

そんな事を考えながら、また一口フレンチトーストを運んだ。



フレンチトーストを食べながら彼方とは沢山の話をした。


『ラブヘヴの他に好きだった乙女ゲームは?』とか『どんなキャラが好き?』とか……本当に他愛もない話だった。


彼方は他の乙女ゲームでもクリス様のような王道なメインヒーローが好きで、私は脇役の少し癖のある人が好きだったりと……好みが違うのもまた面白く、共感や気づきも沢山あった。



「……和泉さん。私ね、決めたよ」

話が一段落した時、彼方は真面目な顔でそう言った。


「『決めた』って……」

「うん。もう、いつでも神様の所に行けるよ」

憑き物が取れたかの様にスッキリとした彼方の表情には迷いは見えない。

話している内に腹積もりが決まったという事なのだろう。


「分かった。セイレーヌに準備が出来たって伝えとく」

「うん。お願いします」

「じゃあ、良い物作ろっか!」

私は彼方の耳元でひそひそ話をした。


「……良いのかな?」

「良いの。良いの!」

不安そうな顔をした彼方とは対照的に私はニッコリ笑った。


さて、そうと決まれば厨房にレッツゴー!である!


身だしなみを整えた彼方の背中を押しながら、私達は厨房に向かったのであった。



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