クランクランで…②(番外編)
クランクランはさくらんぼに似た果物だ。
先日は、クランクランを使って養○酒を作った。
…すぐに没収されたけど。
養○酒やドライフルーツ、化粧水を作っても、エルフの長から貰ったクランクランの果実は余っていた。
なので、アヴィ家おなじみ料理人さんのノブさんにお願いして、残った果実でクランクラン酒を作ってもらっていたのだ。
あれから一週間。
『良い感じのお酒になりました』と、ノブさんから聞いた私は、一人ウキウキ気分で厨房に向かっていた。
ガチャ。
厨房の扉を開けると、直ぐ側にひょろっと細長い、赤茶色の髪のノブさんがいた。
「あ、お嬢様。」
「ノブさんこんにちは。お一人ですか?」
キョロキョロと厨房内を見渡すが、他の料理人さん達は見当たらない。
「皆はルーカス坊っちゃんの講習会に参加してます。」
「…講習会?」
「はい。『アイスクリームがもたらす相乗効果』という講習会らしいですね。」
「……。」
お兄様、何やってるの?!
「…ノブさんは一人で留守番なんですか?」
「はい…。」
…ノブさん、凄くガッカリしてる。
一気に空気がどんよりし出したもん。
「ま、まあ。これから、留守番で良かったと思ってもらえる事をしたいと思います。」
「お嬢様!?」
ノブさんに向かって笑いかけると、どんよりとした空気は一気に霧散し、キラリとノブさんの瞳が輝いた。
ノブさんもアイスクリームの信者だもんね…。
「はい。…という事で、クランクラン酒を下さい。」
「はい!喜んで!!」
…元気になって何よりだ。
期待に応えられる様に…頑張ろう。
ノブさんに渡されたクランクラン酒は、とても良い赤色に漬かっていた。
クランクランはお酒にすると赤く染まるのだ。
「私はこれでジャムを作りますので、ノブさんには、アイスクリームをお願いしても良いですか?」
お願いすると、ノブさんの顔が輝き出した。
「…っ!はい!喜んで!!!」
笑顔のノブさんは、スキップしながら奥に引っ込んで行く。
アイスクリームの材料を取りに行ったのだろう。
…飽きてないし、ブレないな…。
私はそんなノブさんを横目にそう思う。
と、それは置いといて。
今日はクランクランのパフェを作ります!
アイスクリームはノブさんにお願いしたので、私はクランクラン酒を使って、付け合わせのジャムを作ります!
どうして生のクランクランを使わないか?
それは愚問です!
お酒を飲めない私が、少しでもアルコール気分を味わいたいからです!!
鼻歌混じりに準備を進めていく。
まずは、クランクラン酒から果実だけを取り出して鍋に入れます。
クランクランがきちんと隠れるまで水を入れたら中火にかけ、沸騰したら弱火にして五分。お湯は捨てて、クランクランだけを残します。
そこに砂糖を加え、焦げない様に気を付けながら煮込めば、クランクランのジャムの完成だ!!
ジャムが出来上がったのと、ほぼ同時にノブさんが戻って来た。
その手に二つのボールを持って。
二つ…?
首を傾げる私に、ノブさんがボールの中身を見せて来た。
一つは、オーソドックスなミルク味のアイス。
もう一つは、苺の様な味のすり、スーリーの
「どうでしよう?!」
ノブは自信満々でドヤ顔をしている。
どうしよう…。
「……お、お嬢様?」
「………。」
「え…?」
「ノブさん偉い!!」
私は背伸びをしながら、ノブさんの肩を叩いた。
言われなくても、こんなアレンジを加えてくれるなんて…。
流石はアヴィ家の素敵な料理人さんだ。
私のテンションは上げ上げだ!
「ノブさん、グッジョブ!」
ノブさんには、クリームを泡立てると言う作業を追加でお願いし、私は数人分の器を用意する。
そこへアイスクリーム二種類を盛り付け、出来上がったばかりの生クリームを搾り出し、最後の仕上げとして、クランクランのジャムを乗せた。
「クランクランのパフェの完成!!」
「おー!!」
ノブさんと二人で拍手をする。
そして、行儀は悪いが…立ったままで試食に移る。
「「いただきます!」」
ノブさんと一緒に手をあわせてから、パフェにスプーンを差し込んだ。
白と薄ピンクのアイスクリームに生クリームが添えられ、それらのアクセントとして、添えられた真っ赤なクランクランのジャムが色が美しい。
濃厚なミルクの香りと、スーリーの爽やかな味に、クランクランのジャムの甘さが合わさり…。
思わず身悶えしたくなる。
一度茹でこぼしているから、残念ながらお酒の味はしないが、これはこれで充分に満足だ。
何と言っても、元お酒のジャムだからね!
ノブさんを見れば、ニコニコと嬉しそうにパフェを食べている。
ジャム以外は、ノブさんの手作りなのだが…それは気にならないらしい。
ならば、何も言うまい。
二人で夢中になってパフェを食べていると、
ガヤガヤとした沢山の声が近付いて来て…。ガチャッと厨房の扉が開いた。
「あ、シャルロッテ。」
声の主達は、講習会を終えたお兄様一行だった。その先頭にいたお兄様は、私を見つけると、直ぐに近寄って来た。
「何を食べてるの?」
その視線は私の手元に釘付けだ。
はいはい。
こうなる事は読めていましたよ。
「ちゃんとお兄様達のもあります。数は少ないので、皆で仲良く食べて下さいね?」
調理台の上に置かれたパフェを指差す。
その途端。
「「うぉーーーーっ!!」」
雄叫びと共に、パフェを巡ってし烈な争いが勃発する。
仲良くって言ったじゃないか!!
呆れ果てた私は、ノブさんと静かに目配せをし、そこから離れた。
…あー、美味しい。
今日も、アヴィ家は平和だ。
…じゃんけんしだしたけど、早くしないと溶けるよ?
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