お酒のために乙女ゲー設定をぶち壊した結果、悪役令嬢がチート令嬢になりました

ダンジョン②の3

現在、地下七階。

「僕が居ない間に随分と仲良くなったんだね？」

お兄様がジーッと見ている。その視線の先にあるのは私の手。

私とハワードは手を繋いでいた。

「シャルロッテ嬢が俺の事を『お兄様』って呼んでも良いって言ってくれたんだ！！」

ハイテンションで喜ぶハワード。

あんなに感じていたハワードに対する嫌悪感が、不思議な位に消え失せていた。

寧ろ、好感度が上がっている位だ。

「…本当に？シャルロッテ。」

「はい。助けて頂いたハワード様には感謝をしてますから。本当に助かりました。」

私は笑顔で言う。

まだ、不思議そうな、腑に落ちないといった表情を浮かべるお兄様。

「ねぇ…シャルロッテ。」

「何ですか？」

「ソレ、リカルドに言っても良い？」

お兄様が指差すのは、繋がれている私とハワードの手。

兄妹なんだから別に…？

…って…あれ？

私とハワードは赤の他人で…？

おかしい！

私達が手を繋いでるのは、おかしい！！

ベシッっと、ハワードの手を振り払う。

「お、お兄様！リカルド様には…！！」

慌てる私。

「良かった。変な魔術に掛けられてた訳じゃなくて。」

お兄様はやっといつものように微笑んだ。

「え？シャルロッテ嬢はどうした？」

ハワードは眉を寄せ困惑している。

「夢から覚めたって事かな。儚い夢だったね。ハワード」

お兄様は瞳を細め、口元を歪ませた。

ポンポンっと、ハワードの肩を叩く。

私は本当にどうしたんだろ…。

お兄様が居なかったら…色々と間違えたままだった気がする。

暫く考えた後。有る事を思い出した。

ああ…そうか。

これが【吊り橋効果】なのだと。

恐怖や不安を一緒に体験した人に恋愛感情を持ちやすくなる心理効果の事。

別にハワードに恋愛感情は持たなかったけど、心を赦していたのは確かだ。

…危なかった。騙される所だった。

私はお兄様に抱き着いた。

「お兄様。目を覚まさせてくれて、ありがとう！」

「ハワードに素直なシャルロッテは普通じゃないからね。」

目の端に、ショボンとしているハワードが見えたが…気にしない事にする。

吊り橋効果がまだ継続されているのか、嫌悪感や拒絶感は無い。

ただ、近付きたいと思わないので、近付かない。それだけだ。

「さて…シャルロッテも元に戻ったし、そろそろ現実に戻ろうか。」

「はい。」

私達の周りは超強力な結界に守られてます。

大事なので、もう一回言います。

『私達の周りは超強力な結界に守られています。』

それは何故か。

「…お父様！！？」

私は大声で怒鳴った。

この、地下五階再びみたいな光景は何なのだ！！！

うじゃうじゃと増え続け、私達の結界を取り囲む様にして踊る食虫植物の様なアレ達。

目の前には、【キラープラント(改)】が居る。

【改】って…誰が名付けたのだろう…？

どこかのロボットみたいな名前だ。

痛い大人は何処にでもいるんだね…。

って、それ所じゃない！

【キラープラント(改)】は【キラープラント】の進化だ。

【キラープラント】は、パクッと獲物を飲み込んで、自身の消化液で溶かすわ、種マシンガンを打って来るわ、下手に攻撃すれば分裂して、動き出すわ…で、厄介な魔物なのだ。

進化して(改)が付くと何が変わるかと言うと、個々に動いてたキラープラント達が幼児並みに知性が芽生え、集団行動をする様になる。又、《混乱》や《幻覚》と言った魔術も使い始め、更に厄介なのだ。

目の前には、キラープラント(改)達がマイムマイム的なものを踊り始めるというシュールな光景が繰り広げられている。

キラープラント(改)が増えに増えたのは、またしてもお父様達の仕業である。

今回は前回のお仕置きが効いたのか、事前に『魔石を集めたい』との申請があった。

私とお兄様はそれに了承した。

…でも、それは『程々に』が条件だった筈だ。

あの時よりも更に増えた状態のこれは…密林（ジャンル）のレベルを越えている。

一週間も保たなかったじゃないか！！！

お父様達は…反省したんじゃなかったの！？

また焦がされたいの？

…それともレアで焼き上げちゃう？

ふふふっ。

いっその事、隕石でも落として、予測不可能な自然現象扱いにして消しちゃう？

「…シャルロッテ。顔が怖いよ。」

「ルーカスが…ルーカスが二人居る！！」

誰が魔王（ルーカス）だ！！

顔が怖いのは元々です！

全ては大人達が悪いのだ。

「お兄様。私はそろそろ我慢の限界なのですが…。」

学習しない大人達。

否。学習してもこれなのかもしれない。

「うん。僕もそう思ってた。」

「殺っちゃって良いですか？」

「殺っちゃ駄目だよ。死なない程度にね。」

にこやかに注意をするお兄様の目は笑っていない。

「後方支援の…シャルロッテ嬢が攻撃するのか？」

私を見るハワードの目が嬉しそうにキラキラしている。

「はい。やむを得ませんからね。」

私はニッコリ笑って頷いた。

そうこうしている間にも、キラープラント(改)は《だるまさんが転んだ》をし出す。

『切った！』じゃない！

バラバラに逃げるキラープラント(改)。

ちょっと可愛いと思ってしまったじゃないか…。

だけど、ここは心を鬼にして…殲滅させます！

可愛く思えても危険な魔物だからね。

今回はどうやって攻撃しようかな。

植物系の魔物だし、やっぱり前回と同じ炎かな？

でも、それじゃあ、お父様達のお仕置きにならないよね。

うん。同じじゃつまらない。

しっかりと反省させないとね。

よし…今回はこれで行くぞ！

私はニヤリと笑った。