お酒のために乙女ゲー設定をぶち壊した結果、悪役令嬢がチート令嬢になりました

ダンジョン②の４

超強力結界の中にお兄様とハワードを置いて、自分だけその中から出る。

念の為に、結界から出る瞬間に、自分の周りにも同じ結界を張っておく。

これで安心。私に攻撃は効かない！

チート万歳。

一人歩き始めた私を取り囲む様に、ワラワラとキラープラント(改)が群がって来る。

「退いてくれる？」

キラープラント(改)達に向けて令嬢スマイルをすると、奴らは後退りしながら、ザワザワとその身体を震わせ始めた。

…何でた。

モーゼの十戒の如く、キラープラント(改)の間を抜ける。

そうして移動をし、お父様達の居る前衛に辿り着いた。

お父様達もそれなりの結界や防御をしながら、戦っているのでケガは無い様だ。

それは良かった。

切り傷等があったら死んでしまうかもしれないからね。

「お父様？」

私が背後から声を掛ければ、【リア】の面々共々、目に見えて怯えだしたのが分かった。

「ど、どうしたんだ？シ、シャルロッテは後方で休んでて…良いんだよ？」

『パンドラが…』『箱が…開いてしまう！』

慌てるお父様と【リア】達。

パンドラの箱って言うな！！

「約束を破りましたね？」

私を見ているお父様の顔が段々と青ざめていく。

「い、いや…これは…！そ、そう！もう…終わりにする所だったんだ！！」

「言い訳は聞きたくありません。身を以て反省して下さいね？」

ニコッと笑う。

集中。

お父様が何か言ってるけど無視。

自分の中でイメージを膨らませる。

「お、落ち着くんだ！！シャルロッテ！ル…ルーカス助け…！？」

イメージはそう。《極寒の北極》

吹雪が吹き荒れ、何もかもが氷ってしまう程の極寒。死と隣り合わせの世界。

「…ブリザード。」

イメージを固め、右手をかざし呟く。

ビューーーッ！ヒョォーーー！！

地下六階は一瞬にして、氷の世界へと変わる。

猛吹雪が吹き荒れ、地下六階層をワラワラと動き回っていたキラープラント(改)はみるみる内に凍り付いた。

植物の魔物は氷にも弱いらしい。

キラープラント(改)の氷の像があちこちに出来上がって行く。

「さ…寒っ！！シ…シャル…シャルロッテ！！」

「シ、シャルロッテ…お嬢様！！」

ブルブル、ガタガタと雪まみれで凍えるお父様達。

お父様達の氷像が出来るのも時間の問題だろう。

「頭は冷えましたか？」

コクコクと大きく首を縦に降り続ける大人達。

髪や睫毛、鼻水も氷っている。

…汚いなぁ。

私は右手を下げて、ブリザードを解除させる。

寒さから解放され、安心している大人達を横目に、私は次の魔術のイメージを膨らませた。

次は風だ。ビューっと下から吹き上げる様な強い風。

「エアロ！」

呟くと同時に、下から吹き上げる強風。

強風は、キラープラント(改)の氷像を軽々と持ち上げた。

全ての氷像を天井スレスレの高さまで持ち上げる。

数十メートル位の高さまで持ち上がった所で、風の魔術の発動を止める。

風の支えが無くなった氷像は、重力に耐え切れずに次々と落下して行く。

ガシャン！グシャッ！

落下により、潰れて粉々となるキラープラント(改)。

お父様達大人は、呆然とこの光景を見つめている。

私のしたい事は理解しただろうか？

「こうなりたくなかったら、いい加減に学習してくれませんか？」

私は首を横に傾げて微笑む。

「すみませんでした！！！！」

大人達は一斉に土下座をした。

土下座をしたって、反省してないなら意味は無いのだ。

「次はありませんよ？」

「はい！！！」

子供にここまで怒られる大人ってどうなのよ。

大人達のせいで、一日に二階分しか調査が進まないじゃないか。

深い溜息を吐く。

もう良いや。綺麗にして帰ろう。

「ファイヤー」

呟き、氷の粒とキラープラント改の欠片を蒸発させて消し去る。

後に残るのは黄緑色の魔石が多数。

それを拾うのはお父様達に任せよう。

クルリと踵を返し、お父様達に背中を向けると、お兄様とハワードが近付いて来る所だった。

「お疲れ様。今日も見事だったね。」

「でも、凄く疲れました。」

…精神的に。

「シャルロッテ嬢の強さって…規格外なんだな。」

恐縮した様にガチガチなハワード。

お兄様によると、私の攻撃を見ていたハワードは終始、唖然、呆然での繰り返しで、『有り得ない』『マジか…』『えぐい…』だけしか話さなかったらしい。

「手合わせしましようか？」

「否、無理無理無理無理！」

試しに提案してみたら、全力で拒否された。

あれ？

これならもう私に必要以上に関わって来ないと言う事なんじゃないだろうか。

「あんなにしつこく、私の強さを気にしていたのに良いのですか？」

「ごめんなさい！忘れて下さい！！」

ハワードまで土下座をしそうな勢いだ。

ふふふっ。

やったね！ハワード回避！！

「…ハワードお兄様？」

今までの仕返しにハワードを存分に弄ってやる。

「お兄様…だなんて！！」

くくくっ。慌ててる。慌ててる。

「ハワード様が呼んで欲しいって言ったじゃないですか？」

ジッと上目遣いでわざと哀しそうな顔を作る。

「シャルロッテ様！！すみませんでした！！」

…シャルロッテ様？

あれ？何だかおかしな方向に進んで来てない？

「今までの事は全て謝ります！だから…どうか！俺を…弟子にして下さい！！」

ガバッと両手を付いて土下座するハワード。

はい？！

「いえ！間に合ってます！！」

「そんな事を言わずに！」

立ち膝で、すがり付いてくるハワード。

「いーやーでーすーー！！」

ハワードを振り払って走り出す。

「お願いします！！師匠ー！！」

ハワードが全力で追い掛けて来る。

「着いて来るなーーー！！」

地下六階のダンジョンを走り回る私とハワードに、魔石集めをせっせとしている大人達。

「シャルロッテは馬鹿だな。」

お兄様は楽しそうにクスクスと笑っていた。

「師匠ー！！」

…私の体力もそろそろ限界だ。

追い付かれるーーー！

「嫌ーーー！」

どうしてこうなったー！！

私はこの日、自分の迂闊さを心から後悔した。

やっぱりハワードは嫌いだ！

こうして二回目のダンジョン調査は終了した。