お酒のために乙女ゲー設定をぶち壊した結果、悪役令嬢がチート令嬢になりました

予想外な…③

「へえー。自信作か。」

お兄様が値踏みする様な眼差しを向けて来る。

「はい。」

本当に自信作なので、気にせず人数分のグラスを用意する。

お兄様とリカルド様と自分の分っと。

先ずは、魔術で氷を作ってグラス入れる。

「シャルロッテ嬢は魔術が使えるんだね。」

感心した様に言うリカルド様。

「はい。最近使える様になりました。」

「それは凄いな。僕にも教えて欲しい位だよ。」

微笑むリカルド様。

「はい！喜んで！」

私の天使がここに居る！！

叫びたい。リカルドの大好きな所を全て叫んでしまいたい！！

勢いに任せ返事をしたら、お兄様に横目でチラッと見られた。

…すみません。

私は空気になろう。私は空気、空気…。

私達のやり取りを見ていたリカルド様がクスッと笑う。

うっ…。格好良い。

でも、今の私は空気だから…手元の作業に集中するのだ。

静かにグラス三つ分の氷を作り続ける。

リカルド様に美味しいって言って貰うんだ！

そんな私の横と正面では会話が続いている。

「やっぱり獣人は魔術が使えないの？」

尋ねるお兄様。

「使えない事は無いと思うんだけど、僕は使えないな。」

もふもふのお耳をしょんぼりさせるリカルド様。

…撫でたい。

「私で良ければ…今度お教えしましょうか？」

「…良いの？」

リカルド様の顔がパァーっと明るくなる。

うっ…此方を窺うお兄様の視線が痛い。

…ごめんなさい。空気がでしゃばりました。

だって、もっと会いたいもん。役に立ちたいんだもん。

「…良いですよね？お兄様。」

上目遣いに、お兄様にお伺いを立てる。

私とリカルド様の二人かお兄様を見つめ続ける事、数分…。

「…もう。どっちのお願いか分からないけど…良いよ。」

お兄様は諦めた様に溜息を吐いた。

やったー！！

笑いながらリカルド様を見ると、さっと視線を反らされた。

…何故だ。

目を反らされたショックで胸が痛む。

…多分、目を反らしたい位に、令嬢らしからぬ凄い顔をしてしまったんだろうと…思い込む事にする。

これは、これで辛いけど(泣)

…気を取り直して、三つのグラスにラベルのジュースの原液とピッチャーの中の炭酸水を順番に入れて行く。

最後にマドラーで中を少しだけ混ぜて…。

「出来ました。冷たい内にどうぞ。」

完成したラベルジュースを二人の前に置いた。

薄紫色の綺麗な色のジュースを見た事が無いのか、お兄様もリカルド様もまじまじとグラスを見ている。

そして二人共、恐る恐るという風にグラスを口元に運ぶ。

口に含んだ瞬間。

「これは…！」

「…！？」

お兄様は目を見開いた。リカルド様は、お耳と尻尾をピンっと立てている。

「っ！！…美味しい。」

「口の中がビリビリでビックリしたけど、美味しい！」

二人から『美味しい』頂きました！！

やったね！

気に入ってくれたのか、二人共ゴクゴクと全て飲み干してくれた。

「シャルロッテ嬢。これは…何？」

リカルド様が薄紫色の瓶を差す。

「これはラベルの花を濃縮させた液体ですね。」

「ラベル？こんな風に液体化出来るんだね。」

「はい。試してみたら出来ました。」

ニコッと微笑んだら、リカルド様も釣られる様にして微笑んだ。

…良かった。

誤魔化してた胸の痛みが和らいだ気がした。

「このビリビリするのは何？」

炭酸水の事だよね。

「お兄様達はこういうビリビリする飲み物を飲んだ事は無いのですか？」

「僕は無いな。リカルドは？」

「うーん。僕も初めてかな。エールとは違うしね。」

おや？

リカルド様はエールを飲んだ事があるのかな？

私も飲んだ事があるが、この世界のエールは発酵した程度の超微炭酸だった。

やはりこの世界に『炭酸』は存在しないのかな？

「これは、どんな風に作ったの？」

お兄様に聞かれたから、炭酸水の作り方を超簡単に説明した。

正面と横で、固まる二人。

…どんな説明をしたかって？

『お水にドーンと小さい雷を落としました。』

と、説明しました。

「う…うん。まあ、シャルロッテだからなあ。」

「そ、そうなんだ。そうやって作れるんだね。」

あれ？反応が微妙ですよ？

お兄様は苦笑いしてるし、リカルド様は困った様に笑っている。

あ、あれ？

もしかして…お馬鹿な子認定されたって事？

それも、お兄様だけじゃなくて、リカルド様にまで…！？

「もう、お兄様達には飲ませてあげません！」

私は頬を膨らませ、プイッとそっぽを向いた。

ふーんだ。

いじける私はお兄様達から視線を反らし続ける。

暫くすると…後ろの方で、お兄様達がコソコソと内緒話をしているのが聞こえて来た。

何を話してるんだろう？

耳を澄ませてみるが、聞こえない。

チラッとお兄様達の方を見ると、私の隣に居た筈のお兄様が、私の向かい側に移動していて…

何故か、私の隣には…リカルド様が居た。

…！！

ビックリし過ぎて心臓が止まると思った。

…リカルド様がこんな近くにいる。

いじけて膨れていたのも忘れて、リカルド様に見入ってしまう。

近くで見ても格好良い…。

はしたなくても良い！

もうこんなに近くに居られないかもしれないし！！

私はしばらくの間、リカルド様を見つめ続けた。