予想外な…④

私の直ぐ隣に座るリカルド様は、私から見て…とても挙動不審だった。


何度か口を開閉し、口を開き…


「…シ…シャル?」


何と!私の愛称だった。


リカルド様が私の事を『シャル』って呼んだ!!


私は瞳を大きく見開きリカルド様を見た。


良く見ると、リカルド様の耳がプルプルと小刻みに震えている。


リカルド様には悪いけど、凄く可愛い…。


何でこんなに可愛いんだろ。



お兄様の方をチラリと見れば、凄く人の悪い笑顔をしている。…楽しそうだ。


何も聞かなくても、今の現状はお兄様のせいなんだろうなーと、思う。

私の機嫌を治す為にリカルド様を生け贄にした。

そんな感じ?


お兄様の思惑通りに、リカルド様に名前を呼ばれただけで私は機嫌を直してしまった。


リカルド様が大好きなんだから仕方無い。



それにしても…


リカルド様はとても素直な人だ。


一見では、彼が波瀾万丈な人生を送って来たとは思えない。



ゲームで脇役だったリカルド様の生い立ちは語られておらず、この世界に来てから知ったのだけど…


何と!リカルド様は公爵家の後継ぎだったのだ。


作中で『家を継ぐ』と言ってたけど、それだけだったからなー。


リカルド様のお母様がアーカー公爵家の一人娘で、お父様が獣人で貧乏子爵家の長男。


結婚を反対された両親は、駆け落ちの末にリカルド様を産んだらしい。リカルド様は、正しくはハーフの獣人と言う事になる。獣化は普通に出来るらしいけどね。


10歳の時に事故で両親が亡くなり、お祖父様であるアーカー公爵様に引き取られるまで、リカルド様は貴族の血が流れている事も知らずに市井で過ごしていたそうだ。


一人娘を事故で亡くした公爵は、娘の忘れ形見である、リカルド様を自分の養子として迎え入れた。

ハーフ獣人のリカルド様を公爵様が毛嫌いするのかと思いきや、そんな事は全く無く、見事に祖父バカになっているらしい。


幼い頃に両親を亡くしたリカルド様が、こんなに優しくて穏やかに成長しているのは…亡き両親やお祖父様達の愛情。そして、リカルド様の努力の賜物なのだろう。


私は今のリカルド様が大好きだ。


…ストーカーじゃないよ?!






「リカルド様。尻尾を触っても良いですか?」

唐突に尋ねると、リカルド様は身体をビクッと跳ねさせた。


「な、何で!?」

「駄目ですか?」

「尻尾は…駄目かな。」

困った顔で、尻尾を押さえるリカルド様。


「…そうですか。」

残念。もふもふしたかった。


シュンと眉を落とす私を見て、慌てたリカルド様は、

「耳なら…良いよ?」

そう言って頭を差し出して来る。



え?!耳なら良いの?!


「…大丈夫ですか?嫌だったら直ぐに止めますから…言って下さいね?」


もう…リカルド様が可愛過ぎて辛い。


抱き着きたくなるのを、全理性を動員して堪える。


「…触りますよ?」

コクンと頷くリカルド様を合図に、彼の耳に触れた。



うわぁ…。

ふわふわして滑らかな肌触り。


リカルド様のお耳は、想像していたよりもずっと気持ちの良い触り心地だった。

たまにピクピクと動く耳がまた可愛らしい。


次いでに、そっと髪にも触れる。

細くてサラサラのシルバーグレーの髪も絹の様に滑らかだった。


ナデナデ。ふわふわ。ナデナデ。ふわふわ…。幸福のオンパレードや!!


うっとりしている私を不思議そうに見るリカルド様。


「…楽しいの?」

「はい!凄く嬉しいです!」

「だったら良いや…。」


リカルド様は恥ずかしそうに、少し顔を赤く染めたけど、私に好きなだけ髪の毛と耳を触らせてくれた。


幸せだぁ…。生まれ変わって良かった。


私は暫しの間、生リカルド様を堪能したのだった。




「ありがとうございました。…リカルド様も私に触ってみますか?」

お返しに提案すると…


「シャル。女の子がそんな風に気安く触らせては駄目だよ。」

リカルド様が返事をするより先に、お兄様のストップが入った。

リカルド様はお兄様の言葉を肯定する様に、ブンブンと首を縦に振って同意をしている。


「…そうですか。家族では無い男性に、頭を撫でて貰うのは駄目なんですね。」


「「頭?」」

重なる二つの声。私はそれに頷く。


「お兄様がしてくれるように、撫でて欲しかったなって。でも、諦めます。」


残念だけど仕方無い。

まあ、いつもお兄様が撫でてくれるから良しとしよう。


「どうかしましたか…?」


ポカンとしているお兄様とリカルド様。


「いや、何でも無い。」

「うん。何でも無いよ。」

二人は揃って、大きく首を横に振った。



変なお兄様達だ。


私は首を傾げた。




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