お酒のために乙女ゲー設定をぶち壊した結果、悪役令嬢がチート令嬢になりました

予想外な…②

「初めまして、リカルド・アーカーです。」

目の前に微笑むリカルド様が居る。

夢だろうか…？

目をごしごし擦る。

まだ見える。

フニっと自分の頬を掴みかけて…ふと、我に返る。

頬っぺたを掴んだ変顔をリカルド様には見せたくない！！

夢でも幻でも良い！早く応えなきゃ。

「…初めまして…ルーカスの妹のシャルロッテ・アヴィです。」

差し出された手に、自分の手を重ねる。

リカルド様の手は、指先と親指の付け根が少し硬くなっていた。剣ダコの様な物だろう。

ゲームとは違う生身の温かさにジーンと泣きそうになる。

「宜しくね。」

リカルド様は私の手に唇を落とし、首を横に傾げながら微笑んだ。

ブルーグレーの透き通った綺麗な瞳が細められている。

リカルド様は私を殺す気ですか？！

一瞬、否、かなり天国見えたよ！？

…やっぱり、リカルド様大好きだ。

ゲームの時より若干幼さが残っているが、この少年っぽさが可愛らしい。

それに、ハスキー犬の様なシルバーグレーのもふもふ…。

因みに…現在のリカルド様は耳と尻尾だけが獣化しています。

ああ…耳に触りたい。尻尾にも触りたい。

悶えそうになるのを必死に堪える。

…もう、私の理性は限界です。

「『リカルド様』とお呼びしても良いでしょうか？」

おずおずと上目遣いで尋ねる。

心の中では既に呼んでるけどね！！

「どうぞ。シャルロッテ嬢。」

微笑むリカルド様。

良いの？！

これは本当に夢なんじゃないだろうか…。

だったら！！

「リカルド様…。」

「はい。」

「私と結婚して下さいませ！！」

「…！？」

グイグイと迫る私と、固まるリカルド様。

「…シャル。ちょっと落ち着こうか？」

お兄様が私を押し留まらせる。

あ…、リカルド様に夢中過ぎてお兄様の存在を忘れてた…。

「僕の妹がごめん。リカルド。」

私を押さえながら、お兄様は苦笑いを浮かべた。

「いや、驚いただけだから大丈夫。」

リカルド様は困った様に笑っている。

もしかして、引かれた？…ドン引きですか？

しょんぼりと肩を落とす私の頭を、お兄様が撫でる。

「嫌じゃなかったのかい？」

「勿論。妹さん…シャルロッテ嬢は獣人が嫌いじゃないんだなって、驚いた。」

引かれてなかった！？

バッと顔を上げ、リカルド様を見れば、リカルド様は嬉しそうに笑って私を見ていた。

「大好きです！！」

リカルド様が！

両手を胸当て…

真剣に、力と想いを込めて伝える。

すると、リカルド様は私から視線を外し、片手で顔を覆った。良く見れば顔が真っ赤に染まっている。

おぉ…可愛い…！！

ジーっとリカルド様を見ていると…

「シャルロッテ？」

寒気がする位に甘ったるい声が、直ぐ側から降って来た。

ひぃっ…！？

ギギギギギッと、音がしそうな程に固まった首をお兄様に向ける。

そこには超が付く位に笑顔のお兄様が居た。

…目…目が全く笑っていません。

お兄様は、固まったまま動かない私の耳元に顔を寄せ囁く。

「僕はシャルの元気が無いから、約束通り会わせてあげただけで…結婚とか認めないからね？」

ゾクリと寒気が走る。

これは…怒っていらっしゃる？

私はコクコクと頷いた。

いつも以上にお行儀良くしなくちゃ…。

「取り敢えず、何時までも立ってないで座ろうか。」

ニコッと笑うお兄様。

「リカルドは向かい側にどうぞ。」

まだ少し、ほんのり赤い顔をしているリカルド様を向かい側に座らせ、お兄様はさっさと私の隣に座った。

ちょっと気まずいので、リカルド様と向かい側に並んで座ってくれても良かったのに…。

と、思ったものの…。

余計な事は言わずお兄様に従う。

空気は読みましたよ？

これ以上お兄様をご機嫌斜めにしたら、折角会えたリカルド様を帰しかねない…。

「これで…ラベルのジュースを作ったの？」

私の隣に座るお兄様は、テーブルの上に並ぶピッチャーやら、瓶やらをジーっと眺めている。

「はい。自信作が出来ましたよ。」

私は胸を張り、ドヤ顔で答えた。