お酒のために乙女ゲー設定をぶち壊した結果、悪役令嬢がチート令嬢になりました

夢の後

「嫌っ…！！」

私はガバッと起き上がった。

あれは…ただの夢？

否…違う。

あれは夢じゃない。

ルーカスルートで見れる、シャルロッテとルーカスの過去篇のイベントシーン。

二人の重過ぎる過去のせいで…まだ心臓が痛い位にドキドキしてる。

あまりに重くて辛い過去で、私（和泉）は何度も泣いた。

…ルーカスと、シャルロッテの人生の分岐点なのだ。

ルーカスはスタンピードに間に合わなかった罪悪感から、《愛しているから》を言い訳にシャルロッテを甘やかし、我が儘をエスカレートさせ続けた妹を諌めもせず、最終的にどう扱って良いのか分からなくなっている時に、シャルロッテが断罪される事となる。

ルーカスが他者に対して非情なのは、《大切な物を増やす》という恐怖心から。

ヒロインの【彼方】に冷たい言葉を投げ付けていたのは、彼方に妹を重ねて心配していたからかなぁ。

そして、何事にも剥けない強い心が眩しかったのかもしれない。

シャルロッテがクリストファー殿下に対して、最早、執着とも思える感情を持っていたのも恐怖心 からなのだろう。

優しかった両親や使用人を突然の悲劇で失ったシャルロッテは、自分の無力さを誰よりも痛感した。それも大切な人達を亡くすという最悪の出来事で。

誰かを救いたいのに、自分にはそんな力は無くて。死んでしまいたいと思うのに、弱くて死ぬ事すら出来ない。

だから、…将来のこの国の最高権力者に執着したのだろう。

入学式での、クリストファー殿下に対する一目惚れは、本当の恋心だった筈だ。

だけど、あのスタンピードはシャルロッテの心を容易く歪めてしまった。

シャルロッテの心は、両親達が死んでしまった時に一緒に死んでしまったのだ。

無力さを嘆きながら、無力故に自分の身の安全だけを願ってしまった。

誰よりも死の恐怖が分かる筈なのに、他人を傷付ける事を厭わなくなってしまったのだ。

だから、クリストファー殿下にも捨てられた。

ゲームをしていた時は、【シャルロッテ】ざまあ。って思っていた。

彼方に散々酷い事してたし、自業自得だったしね。

でも、シャルロッテになってみて分かった事。

『ざまあ』なんて展開は誰も望んでないのだ。

ルーカス ルートで、彼方と結ばれたルーカスだって、シャルロッテを救えなかった事を後悔し続けるのだ。

シャルロッテだって王太子妃になって、好きな人と幸せに暮らしたかったんだ。

ゲームの世界だか何だか分からないけど、お父様もお母様もルーカス…お兄様も、私の大事な家族だ。

私達家族が不幸になるなんて強制されたくぬい。

寧ろ、そんな強制力が存在するなら、壊してやる。

両親もお兄様もシャルロッテも使用人や街の皆も必ず皆で一緒に幸せになるんだ。

王太子妃には絶対にならない方向で！

斬首、追放も要りません。

そう言えば…夢を見た事でルーカスとリカルドの仲が悪かった原因を思い出した。

両親達の死後、魔物達を憎む様になったルーカスは、獣人であるリカルドに嫌悪感を持ったのだ。

勿論、獣人は魔物とは違う。

だけど、ルーカスもあの後歪んでしまっていたのだ。勝手に見た目で魔物を連想し、正常な判断が出来なかった。

リカルドは、ルーカスの領地で起きたスタンピードの事を知っていた。獣人たる自分を魔物扱いする者もいた。だから、ルーカスを避ける事にしたのだ。お互いの為に。

そんな二人が授業中の遭難を切っ掛けに打ち解け、親友になるのだから、人生は分からない。

両親達が死なずに済めば、ルーカスやリカルドが仲違いをする事もなくなるし、早めに親友になってくれれば、私とも会ってくれるかも！？

何て。現金かな？

私には最善なんだけどな…。

取り敢えず、最善の為にやれる事をやろう。

入学式まで半年。

スタンピードまで約一年。

頑張ります！