第二章 嵐の前に
暗躍
薄暗い地下室といった場所に、二人の人物が向かい合うように立っていた。
片や黒いカソックに身を包み室内だというのに薄い色のついた眼鏡と帽子を被った人物。
片や真っ白なロングコートを身につけフードを被った上に顔をすっぽりと覆う仮面を被った人物。その仮面には、どこかの民族のような意匠の
そこは石造りの玄室を思わせた。コンクリートというよりは自然石で出来たであろうそこは、どこかひんやりとしていていくつかの光源があるのみのためかほの暗い。
地下室とはいうもののその広さはそれなりにあって、奧には簡易的な祭壇らしきものが見て取れた。
「そういえばあの少年はどうなったんだい、
先に口を開いたのは、仮面の人物だった。
仮面のせいでその声はくぐもってはいるが恐らく女性の声だろうか。
「実は……どうやら彼女に邪魔されたようです。脅されて帰ってきたと」
「そうかい。しょうがないね、どっちにしろ彼女に本気出されたらあの子達じゃ手も足も出ないもの」
「不甲斐ないです」
幻灯と呼ばれたカソックの男は、帽子を脱いで深々と頭を下げた。その表情は、まるで苦虫をかみつぶしたようだ。
「まぁ、それはまた考えるとして――もう一つの方はすこぶる順調だよ」
デザインであるはずの大きなひとつ目が、大きく歪んだように見えた。同時に、その声は薄気味悪いほどに鬼気と、喜々としている。
いつ移動したのか、仮面の人物は幻灯の背後にある祭壇に腰掛けていた。
「本当ですか、アインス!」
「ああ、本当さ。今度こそは、繋ぎ止めてみせるよ」
祭壇側に向き直った幻灯の驚いたようなその声にアインスという名前らしい仮面の人物のその声は、自信があるのかどこか得意げだった。
「そうなるとやはり、あの少年の確保が必要になってくる気が……」
「まぁ、結局そうなるか。でも、あの女は厄介だからなぁ」
なおも祭壇の上に腰掛けているアインスは、気怠げに両手を頭の裏に回すと足を組む。何か考えているようでもあり、どうでもよさげな態度を取っているようにも見える。
沈黙が流れ、その状態が暫く続くと思ったのだが、すぐにその静寂は破られる。
「あ、名案が浮かんだ」
――次の瞬間、いつの間にか幻灯の背後に移動したアインスはごく小さな声で耳打ちをしていた。あまりにも小さな声でその声は聞き取れるようなものではなかったが。
改めて、その二人が並んでいるところを見ると仮面の人物アインスは、かなり身長が低いところが見て取れた。ただ、幻灯は背が高いようで実のところは良くわからない。
「頼んだよ。じゃあ、僕は戻る事にするよ」
話し終わったのか、アインスは幻灯に背を向けると手を上げる。次の瞬間には、その姿は煙のように消え去っていた。
「はい。では、そのように手配致します」
幻灯は、消えたアインスにずっと頭を下げていたのだった。
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