第50話 見えてきた真相
「タカの容体は心配だけど、ボク達はその心配ばかりもしてられない。ボク一人じゃ難しいけど……衛太郎クン、キミがいれば、幸ちゃんの奪還は何とかなるかもしれない。タカのことはタカ自身の体力を信用して、ボク達で幸ちゃんを取り戻さなくちゃね」
俯き加減だった土岐さんが拳を握り締めて、俺を見据えた。
無言で力強く頷いたものの、不意に不安が過ぎる。
「……あの、幸を取り戻すことは当然ですけど、取り戻したとして、あいつは元に戻せるんですか?」
「正直、現状のままだとすぐには無理かな……。SCSが活性化したことで、<STARS-6th Virgo>は元々<STARS>のメインプログラムだったSCSに支配され、MIJUCIはそのサブルーチンになっていると考えられるの。だから、SCSを再度不活化して、<STARS>をMIJUCIの管理下にしないとダメ。……まずは幸ちゃんの監禁場所を特定しないとね。だけど、校章通信機にも何の応答も無いから、壊された可能性が高い。となると、別の手段を講じないといけない」
「そうですか……」
幸は一体何処に連れ去られたんだ? それが分からなけりゃ、救出以前の問題だ。
それにしても――
「そもそも、SCSが活性化してミユキが休止状態になったことが、どうして幸が支配されるってことになるんですか? SCSって<STARS>の制御プログラムなんですよね?」
「……確かにその通り。SCS――<STARS> Control System は文字通り、<STARS>の制御システムなんだけど――」
土岐さんはSCSについて話を続ける。
SCSは<STARS>の機能の全てを統括管理するプログラムで、ポジトロン・ブラスターの制御も数ある機能の一つだ。
その中に、リンクされている兵士を強制操作する機能があって、それはSCSCS――Soldiers Control System Connected by Satellite と呼ばれている。
未だに実験段階ではあるが、受信チップを埋め込んだ兵士を人工衛星を通じて
イヌやチンパンジー等を用いた動物実験は成功しているらしいが、単純な命令しかできない上に、対象が無意識の状態でないとコントロールできないものだった。
人間を用いた実験は、人道的な観点から公式には為されていないことになっている。
そして、このことがスパイラル・エンタープライズが幸の「目」の機能を<STARS>が肩代わりするのを、わざと見逃したに違いない――と土岐さんは言った。
「――自らが何もしなくても、実験データが揃うんだもの。……恐らく、人間での実験データが欲しかったスパイラルにとっては格好のサンプルだったんじゃないかな、幸ちゃんは。実際、タカと衛太郎クンに襲い掛かった幸ちゃんは、睡眠状態に入ったところを、恐らくSCSでコントロールされたんだから――」
土岐さんがこれまで調べた事実を元に考察を交えて、俺にも分かるように話していく。今回の真相が少しずつ見えてきた。
——スパイラル・エンタープライズは量子コンピュータとMIJUCIの存在を知らず、幸俊おじさんがSCSに視覚システムのサブルーチンを加えただけのシステムを<STARS>のコンピュータに搭載するものだと考えていた。
しかし、SCSの機能を危惧した幸俊おじさんは、SCSを使わずに、MIJUCIというプログラムが組み込まれた量子コンピュータを<STARS-6th Virgo>の制御も兼ねて搭載しようとした。
ところが、幸俊おじさんの予定にも狂いが生じてきて、幸の視覚システムを制御するMIJUCIに<STARS>の制御も統括するはずだったのが、<STARS>の打ち上げまでには間に合わず、MIJUCIに一本化することはできなかった。
止むを得ず、SCSの軍事関連部分――ポジトロン・ブラスターの制御やSCSCSを休止状態にして、SCSの人工衛星制御部分をMIJUCIの外付けルーチンとした。
その際、休止状態にした部分を防護障壁の一部として活用した。
「――この作業をボクが手伝ったんだ。……時間が差し迫っていたからね。SCSの一部休止作業をボクがやって、佐寺博士はMIJUCIがSCSの残った部分を制御できるようにリンクさせた。作業が終了してから二日ほどで、<STARS>の打ち上げがスタートし、その一ヶ月後に佐寺博士が新型人工衛星開発中の事故に巻き込まれて死亡した……いや、殺された。恐らくは、<STARS>の私的運用とか、量子コンピュータのデータを引き渡せって言うのを佐寺博士が拒んだのが原因だと、ボクは踏んでいる。……量子コンピュータのデータをIASAに早くに登録していれば、違った結果になったかも知れないんだけどね……。佐寺博士は、登録するのに何を躊躇していたんだろう?」
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