第17話 眠気も吹っ飛んで
『もっと身近な
身近なものにするためには、まずは呼称から――わたしたちは「宇宙」を「そら」と読(呼)んでいます。
未知なる可能性を秘めた宇宙。月面基地や宇宙ステーション、他惑星での居住、宇宙旅行……等など、私たちが幼少の頃に見た夢たちが現実のものとなる日は、あと僅かのところまで来ています。そして、私たちにそのお手伝いができたら……それが私たちの願いです。今はまだそれほどの実績を上げてはいませんが、スパイラル・エンタープライズ・ジャパン航空宇宙事業部の最大のプロジェクトが多機能人工衛星群<STARS>です。
<STARS>――正式名称は Satellites Teamed-up-with Active Realization System と言い、その頭文字を取って<STARS>と呼んでいます。新世代の衛星コンステレーションと言えるでしょう。静止軌道上に打ち上げられた十二機の多機能衛星を主衛星として、その主たるそれぞれの静止衛星の補助に三基の準天頂衛星、十二基の準同期衛星を配備。地球上をくまなく網羅しています。
では、<STARS>で何が出来るのか?
十二基の主衛星それぞれが独立した多機能衛星である<STARS>は、通信衛星、地球観測衛星、航行衛星、気象衛星、科学衛星などの各種様々な衛星の機能を併せ持っており、更には十二基の主衛星がリアルタイムでデータ共有が可能なシステムを搭載しています。これらの機能を利用しての地球の、そして宇宙の観察分析に更なる期待が持てるのです――』
これは見ての通り、スパイラル・エンタープライズ・ジャパン航空宇宙事業部のホームページにあったもの。
本日の星空散歩は既に終わり、俺は幸を送り届けて部屋に戻ってきていた。
高階医院の屋上では眠くて眠くて仕方なかったが、さっきの出来事ですっかり目は覚めてしまった。こうやってパソコンの画面を眺めていても眠くなる気配が全くない。
幸ほどではないにしろ、多少は興奮しているのかもしれない。色々と驚くことが多過ぎた。だから、俺なりに<STARS>のことを知ろうと考え、インターネットで調べている。
まずは、<STARS>の製造元であるスパイラル・エンタープライズ・ジャパンの航空宇宙事業部にアクセスしてみる。
いきなりでかでかとページ一杯に人工衛星の動画が流れ、出てきたのがさっきの文章だ。
<STARS>がメインになってるなんて思いもよらなかった。
これだけでも、俺にとっては<STARS>の全貌を知るには十分だった。
まず、<STARS>が一基だけじゃなく、十二基の人工衛星の集まりだってこと――言われてみれば、幸が俺に<STARS>を紹介したときも、<STARS-6th Virgo>と言っていた。これは十二基ある中の「六号基」ってことだろう。幸によれば、”Virgo"は「おとめ座」らしいから、それぞれ星占いで使う十二星座の名前を
その静止衛星が十二基、一基の静止衛星それぞれに準天頂衛星が三基、更に準同期衛星が十二基……って、静止衛星一基につき十五基の補助衛星? ……つまり、<STARS>ってのは、実に百九十二基の人工衛星から構成されてるのか……。
人工衛星をそれぞれの軌道にまで打ち上げるには、ロケットが必要だ。ロケットの発射費用は大分コストダウンが成されているとはいえ、数億は掛かる。
あくまで、打ち上げだけでこれだけの費用。開発費はまた別会計……となると、べらぼうな額が<STARS>には掛かっているのは間違いない。
だから、宇宙事業って奴は国家主導で行うんだろう。
確かに、これならスパイラル・エンタープライズの宇宙開発のメイン・プロジェクトだよなぁ、どう考えても。……それだけカネの掛かっているプロジェクト。その一部とはいえ、幸の視覚システムに使っちゃっても問題はなかったのか?
「佐寺幸の視覚システムとしても活躍しています」なんて記載は何処にもない。まぁ、これは当たり前っちゃ、当たり前か。
民間企業がやるからには営利を追求する。黒字にできなくても、何らかのメリットがなければやることはない。
「慈善事業じゃあるまいし……何故、幸の目の為に<STARS>を?」
ふと、先日の瑞穂おばさんの言葉が反芻された――「スパイラル・エンタープライズに知れると面倒なことになりかねないし……」
この言葉の意味するところ――それは、スパイラル・エンタープライズには幸のことは秘密でやったってことなんだろう。
幸俊おじさんがスパイラル・エンタープライズで人工衛星の開発に携わっていて、強引にやったってことなのか?
それと、もう一つ気になることがあった。
<STARS>に搭載されたコンピュータが量子コンピュータである――その記載が何処にもなかったことだ。それだけの技術を使っているのだから、他社へのアピールや宣伝をするのであれば、大々的に扱えばいいのに、それがない。
それ以前に、「世界初の物理レベルでの」量子コンピュータが作られた、というトピックそのものがインターネットの何処にもなかった。
……世紀の大ニュースだと思うんだが、ニュースにすらなっていないなんて、おかしくないか?
「さっぱり分からん……」
不確定要素が多すぎる。考えれば考えただけの疑問が生じる。これじゃ、
……などとやっている内に、すっかり寝落ちしていたらしく、気付いたときには椅子にもたれかかったまま大口開いていた。どうにも不完全燃焼、気分も頭ももやもやが残ったままですっきりしない。
しかも、大した情報を得られていないところが、情けないことこの上ない。
俺は幸の兄貴分だし、先だっては瑞穂おばさんからも幸の面倒を任された。
俺のできる範囲で幸を護ってやらねばならないから、情報だけでも、と考えていたのに、この体たらく。
こんなんじゃ、不安なんざぁ払拭できるはずもない。
相手から、絶対に何かしらの干渉がある――俺はそう考えていた。
その相手ってのが、世界的大企業スパイラル・エンタープライズだってんだから、一体どうなることやら。
今までみたいに、毎日を平穏無事に過ごしていければいいんだが……。
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