第18話
目を開けると、雑魚場四人衆は四人残らず地面に突っ伏していた。
「よしっ、これで4袋ゲット! 御馳でーす!」
目をキラキラさせた西・ローランドが僕の前に立っていた。
「西君、これは君が?」
「おうよ。鍋の蓋でもグローブ代わりにはなるもんだな」
西君は装備した鍋の蓋を誇らしげに見せた。それは既に血と何かでぼろぼろになっていた。やはり、鬼には金棒でなくても、鍋の蓋だけで十分らしい。
「西君はこれで袋何個目?」
「とりあえず10個目だな。もう余りがでちまった。いやー、これでいきなり夢叶える準備ができるなんて、ちょろすぎるぜ」
「西君は、七曜企画に何を提案するの?」
僕の問いに、西君は嬉しそうに答える。
「武道大会だ。素手でも武器でもなんでもありで、世界中からその道を究めた者たちを集めて大会を開くんだ。それで、毎年人類最強は誰なのかってのを決めたい!」
最高にクールだろっと同意を求められる。僕は、控えめに頷いた。すると彼は満足そうに笑った。
「絶対教師陣への同意は無理だから、七曜企画を狙ってたんだよね。あの学長なら、ノリでOKしてくれそうだし」
確かにそうだ。いくら、こんなふざけたイベントを行う学園も、あくまで学園の外への影響力は『成果』という形でしか提供していない。西君が提示する『イベント』を積極的に採用していたら、今以上に世間からの圧力が酷くなるだろう。
「あ、そういえば、隼人、お前も七曜企画狙ってたりする? この調子なら、袋は大分余るから、お前に分けてやろうか?」
「僕には、そこまでして叶えたいことなんてないから、大丈夫。むしろ、SSNの被害者を少なくするために、元の持ち主に返してあげて」
僕が叶えたい願いといえば、『女の子とキスをすると爆発する』という謎の体質を解明・克服することだ。だが、そもそも僕と父くらいしかその症例サンプルがない(春哉さんに頼んで、世界的に同じ事例がないか調べてもらったけど、該当するものはなかった)。だから僕は、この学園でのんびり(?)過ごすのが当面の目標である。
だから、クラスメイトにSSNでトラウマを抱えてしまう生徒が増えるのはあまりよろしくない。いくら、僕のことを普通に殺そうとした相手でも、である。
「隼人っ――お前は優しいやつだなぁ。俺、感動したぜ」
気づくと、西君が号泣している。初めて見た、これが『漢泣き』というやつか。
僕は、さっと持っていたハンカチを渡した。
「さっき助けてくれてありがとう。君がいなかったら、僕は五体満足でいられなかった」
「隼人っ……」
むむっ、何か僕らの背景が桃色でほわほわしている気がする。まるで、少女漫画のワンシーンのような――
「あ、納戸さんの無事を確かめないと」
僕は我に返り、西君にぺこりと一礼して、駆けだした。
彼女は大丈夫だろうか。雪のようなあの美しい肌に傷はついていないだろうか。
焦る思いを胸に疾走した。
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