第17話

「お母さんはどうしてお父さんのどこが好きなの?」

 

 幼いころの記憶。広い草原に、僕と母が話している。


「どこだろうね。そんなこと考えたことなかったわ」


 母は優しく微笑む。僕は母の笑顔が好きだった。


「今思えば、あの人にちゃんと『愛してる』とか『大好き』とか言ったことがないわ」


 母はまた僕に微笑みかける。


「今、強引に理由をつけるとしたら、隼人の遺伝子をくれたことかな。お父さんのことは好きとはっきり言えないけれど、隼人の事は大好きよ」


 母は僕をぎゅうと抱きしめる。

 そして、僕の顔をおこし、唇を近づける。


「どうしたの、お母さん?」


 唇が触れるか否かのその瞬間で、僕の記憶はいつも途切れる。




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