第15話

 七曜企画。

ヴァルハラ高等学園の特徴の一つでもある『研究・芸術への圧倒的投資』。通常は、綿密な企画書と各教師陣の同意があってはじめて、学長である七曜氏へのプレゼンである『七曜企画』が実施可能となる。だが、学長よりも教師陣の同意を得るのがなかなか難しいとのこと(神代先生から、校内見学時にざっくりとした説明があった)。100万200万程度のプロジェクトなら、教師一人の裁量でどうとでもなるが、金額が億単位になるとそれも難しいらしい。

それが一気にショートカットできる。自身の野望には金と時間がかかるのを理解している者にとっては、それは魅力的な褒賞である。

だが、僕には全く興味がない。だって。僕がこの学園を選んだ理由は、単純に男女交際の禁止がルールとしてあるからだ。確かに、納戸さんの美声に心が浮ついていることは否定できない。だけれども、彼女へのこの感情は『恋』とか『愛』とかよりもむしろ――


「死にさらせや―!」


 1人自分の世界に入っていると雑魚場さんの手下、いやそれだと分かりにくいな、妃美さんの手下の雑魚場君のどれかが怒号とともに襲い掛かってきた。青龍偃月刀のような、長物を振り下ろしてくる。どうやってあの巾着袋に入っていたのか、原理が全く分からない。


 危なげに僕は、そのひと振りを交わす。僕を挑発するように、ぶんぶんと獲物を回す。


「躱したか、この糞野郎が。雑魚場様に貴様のその袋をささげて、俺が一の手下になるんだー!」


 さっさと袋を渡して楽になろうかと思ったが、ここで袋を奪われるとSSNの刑に処される可能性が出てくる。それは避けたいところだ。

 僕は手にした44オートマグを構える。弾倉に弾が七発込められているのは確認済み。安全装置もはずしてある。

 だが、問題は、これがどの程度の威力か分からないところだ。モヒカンで世紀末な雰囲気をかもしているとはいえ、彼もクラスメイト。これから少なくとも一年はともに生活する『仲間(?)』である。


「びびって撃てねぇのか? この臆病者がっ!」


 僕の不安をよそに、妃美さんの手下ぶんぶんと獲物を振り回し攻撃してくる。先端の刃はきらきらと艶めき、直撃したら確実に肉を割き血を啜るだろう。


「仕方ない。雑魚場君、だっけ。君には悪いけれど、死ぬほど痛い思いをしてもらおう」


 僕はそう告げて、照準を彼に合わせる。使える弾は七発だけ。そこから先はグリップアタックか投擲しか使い道がなくなる。大事に使わないといけない。

 幸い、彼の獲物は青龍偃月刀。軽々と振り回しているが、一つ一つの動作は大きい。つまり、狙い撃つ隙は十分にあるということだ。


「ちょこまかと逃げ追って――観念しやがれっ!」


 大上段から振り下ろしを半身ずらして回避。そのまま相手の懐に潜り込む。

 拳の銃と書いて、拳銃。本来使うべきリーチの長さを犠牲に、命中精度を確実にした。


「ごめんね。これも授業だから」


 僕はそう呟きながら、引き金をひいた。

 血は出なかったが、『ぐぶふぁ』という嗚咽が聞こえた。

 僕は無言で、彼の胸元にかかっている『?』袋を引きちぎって回収した。

 納戸さんとか、西君とかは大丈夫だろうか。

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