第11話

どれくらいの時間だっただろう。悲鳴とともに、桜坂がヘッドセットを外すまでは。

 5分どころか、1分もたっていない。



「お、お前、どうして、あんな仕打ちを、受けてまだ、生きていたいと思える?」


 狼狽しつつ、桜坂は続ける。


「あんな、あんな扱い、普通の精神で耐えられる訳、が、ない」


「それゃ、お前が恵まれた『これまで』を送っていたからだよ。――そうさな、先の田口君なら、5分くらいは余裕でヘッドセットを外していなかっただろう」


 へへんと、誇らしげな田口。なんか腹がたつ。体から、他者をいらつかせる粒子でも出しているのだろうか。


「分かったか、若造。これが私とお前の違いだ。自分が生きてきた世界だけが世界と思うな」


 学長は、そう告げると桜坂を乱暴に椅子から引き釣り降ろした。

 桜坂は、へっぴり腰のままどこかへと駆けていった。

 それに追随するように、デモに参加していた他の大人たちもやるせなさそうに退散していった。


「よし、これで入学式を再開できるな」


 学長はパチンと指を鳴らす。すると、先ほどの黒服武装集団は無言でどこかへと消えていった。SSNも、ガラガラと音をたてながら回収された。


「とは言っても、大事なことはだいたい言ったから、後は担任教師に任せるとしよう。――おーい、神代(かみしろ)さーん」


「ういー」


 学長の呼びかけに、間の抜けた声が返ってくる。

 壇上に緩慢な動きで歩いてくる、神代と呼ばれた女性――女の子は、僕ら生徒の一団に紛れていた、やけに胸部が膨らんだ、ろりぃなあの子だった。


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