第9話

「田口君といったか、君は下がりたまえ。大人の喧嘩に子供が出てくるものではない」


 落ち着いた口調で田口を諭す学長。


「――だが、君の気持ちは嬉しかった。君のこの学園での飛躍を期待するっ!」


 学長と田口はお互いに親指を立てて笑った。なんか友情(?)が生まれたのかもしれない。


「さて、若造。とんだフレッシュボーイのちゃちゃが入ったが我が問に答えてもらおうか。無論、先の問いに関する私の答えは全て――『YES』だ」


 学長、あんたはそんなに暗い過去を――キスしたら死ぬなんて、学長に比べればなんて軽い十字架だ。背負って逆立ちで校庭100周できるほどの軽さだ。やはり、この学園に来てよかったかもしれない。自分の人生はましなほうだと思える。


「俺は残念ながら全て『NO』だ。だが、それが一体何だと言うんだ!」


「てめぇの正義と俺たちの正義は相容れないってことだよっ!」


 外野で田口が叫ぶ。それに頷く学長。


「そこのフレッシュボーイの言う通りだ。ここはお前のような、一般的な幸せなんて見たくも聞きたくもない奴らの箱庭なのだ。そっとしておいてくれんか。なあに、この通り学生たちは満足しているし、世間様にも成果は出している。何より、これは私の私財100%で運営している。お前が事前事業で他国に学園を作るのと大差ない。ただ、生徒が過ごしやすいように、『ルール』を設けているだけよ」


 桜坂は黙って答えない。

 対する学長は大きなため息を吐く。仕方ないな、使いたくはないけどな、と呟きながら、パチンと指を鳴らした。

 その音と呼応するように、黒服武装集団が黒布を被った大きな物体を運んできた。2m四方くらいの大きさ。ガラガラと重そうな音を響かせながら近づいてくる。


「一体何をするつもりだ――まさか、兵器で俺を殺すつもりか?」


 腰が引けた桜坂の首根っこを素早く学長はつかむ。


「そんなことはしない。ここは教育機関。暴力はご法度だ」


 じゃあ、黒服が持っている武器何なんだと突っ込みを入れたくなった。


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