第6話

『これより、入学式を始めます。新入生は壇上に注目してください』


 合成音声のような、無機質な声が校庭に響く。壇上はどこかと探すと、コンサート会場のような舞台装置が目に映る。舞台袖から、マウンテンゴリラを思わせるような、彫りの深い男性が現れた。男は壇上に上がると、マイクをコンコンと鳴らして、マイクチェックを――するかと思いきや、投げ捨てた。


「諸君、私が学長の山本七曜であるっ!」


 マイクは最初から不要だったのが納得できるほどの声量。納戸さんの美声を聞いた後のせいか、コントラストで不快感がつのる。


「諸君、私は皆がこのヴァルハラ高等学園を学びの場として選んでくれたことを非常に嬉しく思う。さらに、厳しい入学審査を突破した英傑であることも誇らしく思う」


 ヴァルハラ高等学園の入学基準は二つ。

 

一つ、自主退学をしない旨の誓約書への記入

 二つ、処女・童貞であること。


 極論を言えば、名前を書ければこの学園への入学は可能である。二つ目の処女・童貞については自己申告である。僕はナチュラルに童貞であるので問題はなかったが、それを調査されるようなことはされた覚えがない。

そんな簡単な基準であるのに、この学園への入学者数が少ないのは、あの『青春禁止』の噂が原因であろう。いくら、学習環境が整っているからといって、好き好んで自分の青春を灰色にしたい奴なんて、たかが知れている。僕みたいにキスしたら爆死する奴か、それと同じような変な理由があるやつ、あるいは僕らの理解を超す天才くらいなものだ。


「再度、皆にこの学園のルール、ネットやニュースで周知の事実だと思うが、改めて伝えておく」


 意識を外していた。まだ学長のスピーチは続いていた。


「一つ、男女交際の禁止!」


 最初より熱量と声量が上がっている。魂の叫び、とでも呼称すべきだろうか。


「セイッ! 私に続いて皆も叫んで! 一つ、男女交際の禁止!」


『男女交際の禁止―』

 

 学長とは対照的に破棄のない声が響く。だが、学長は気にしていないようで、続ける。


「二つ、部活動の禁止!」


『部活動の禁止―』


「三つ、積極的な自己研鑽!」


 知らないワードが出てきた。自己研鑽? まぁ、噂にあった『生徒への投資は惜しまない』を学生主体で言うとこういう台詞になるということだろう。


『せ、積極的な自己研鑽』


 より覇気のない合唱が響く。だが、学長は満足したようだ。満面の笑みで僕らを眺めている。


「よし、ルールを復唱してもらったところで、入学式を終了とするっ! これにて全員解散っ!」


 学長が壇上から去ろうすると「ちぉっと待った!」とこれまた大きな叫びが聞こえた。

 声の主は、否、集団は『ヴァルハラ高等学園反対』とプラカードを持った大人たちだった。

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