第5話

学園につくと、校庭らしき開けた場所に生徒らしき人たちがわらわらしていた。

 ヴァルハラには特徴的な人が多いと聞いていたが、まさにその通りだった。

 色白だが、ハリウッド映画にでもでてきそうな筋骨隆々な長身の男。140cmくらいの低身長で、その割には胸部が膨らんでいるろりぃな女の子。世紀末にいそうな、モヒカン男の集団(全員、釘バットとかボーガンとか凶器装備)。そして、それに担がれている、重そうな兜(?)を被ったお嬢様みたいな女の子。


 ――僕、こんな濃い人たちのなかでうまくやっていけるのかな。

 勉強も運動も平均的にはできたと思う。春哉さんは物を教えるのが好きで、僕は色々仕込まれた。普通の高校生レベルの能力はあると思うけれど、あんな世界館が違う人たちと共存できるかは不安である。


「やあ、君も新入生?」

 

 鈴の音のような美しい声。会ったことはないけれど、セイレーンとかこんな声なんだろうなと思うくらいの美声の持ち主は、これまた今まで会ったことのないタイプの人(?)だった。


 光沢のある銀色の繊維に包まれた未確認生命体。生物であるのを示すかのようにゆさゆさとゆれている。


「もう、無視しないでよ。私だよ、わ・た・し」


 銀色のベールから、バラのような赤い瞳と雪のような白い手が現れる。綺麗だ、と思ったときには既に遅し、ベールは閉じられてしまった。


「ごめんなさい。今まで会ったことのないタイプの人だったので、動揺してしまいました」


「それ、よく言われる。確かに、私ってアルビノだから珍しいとは思うけど、みんなそんなに驚かなくてもいいのにねっ」

 

 ぷんぷんと可愛く言いつつ、謎の銀髪さんはゆさゆさと揺れた。


「あ、自己紹介がまだだったね。私の名前は納戸(のと)牡丹(ぼたん)。髪の毛がちょっと眺めな女の子だよ」


 ちょっと長めどころではない、と突っ込みを入れようかと思ったが、きっと彼女はそのやり取りを一万回以上していると思ったからやめた。『可愛い』は正義と春哉さんはよく言うが、僕もその理論は賛同している。可愛いものはそれだけで価値がある。声が可愛い、中身もきっと可愛い(一瞬だったので右目と手しか見えなかった)彼女がどうしてあそこまで髪を伸ばしている理由などあえて聞くまい。そんなこと、彼女の可愛さの前には塵に同じだ。きっと、肌が弱いから太陽光を遮断するために肉体化が最適化を図り、彼女の全身全てを覆ったのだろう。理由なんて、僕が勝手に考え納得すればいいだけの話なのだ。


「君の名前は?」


 ほらっと、せかす納戸さん。


「僕は神田――神田隼人。普通に普通な男の子です。どうぞよしなに」


 ぺこりとお辞儀をする僕。冗談っぽく『女の子とキスすると爆発します』とは言えなかった。中学時代、それで大変な目にあった。同じ愚行は二度とはしない。

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