結梨ちゃんの日常2
お兄ちゃんが日曜日の夜ごはんのときにつぶやいていたこと。
「はぁ……今日はマジカル・マジクルを三話見てから英雄失格を三十分読んでクロスリールの強化用素材周回だな。働くジーニアスはリアルタイムで見るとなるとこりゃ今日は徹夜か」
……なにかのじゅもんかな?
どうもお兄ちゃんには謎が多い。いきなりよくわからないことばをいっぱい言うのだ。
おへやにはいつもしっかり鍵がかかってるし。わたしと言えばいれてもらえるけど、なにかをかくされてる気がするの。
でも、それを聞こうとすると頭なでなでされてはぐらかされちゃうの。それはいつも。
お兄ちゃんが中学校にはいったときくらいから、ずっとこうだ。小学生のときはもっとぜんぶを見せてくれてたし、外で遊んでもくれてた。今も遊んではくれるけど、外では絶対に遊んでくれない。
……お兄ちゃん、お兄ちゃんが遊んでくれないからわたしが友だちと遊んでるのわかってるのかな?
わたしはいもうとだ。だからお兄ちゃんのことはだいすきだしいっつもいっしょにいたいともおもう。
でも、やっぱりお兄ちゃんはかわっちゃったんだよ。『かのじょ』だってつくっちゃったし。
ねえ、お兄ちゃん、わたしのこのきもちにきづいてよ――。
「ん、どうしたんだ結梨」
「ううん、なんでもないよ」
顔にでちゃってたらしい。わたしは顔をそらしてごはんを口にいれた。
もう、こういうことにはきづくんだから。
*
という話を学校で話した。
「それ、おとなになったっていうんだって。おねえちゃんが言ってた。なにかかくしたりまえとはかわっちゃったりすること」
かなちゃんがそうこたえた。かなちゃんには大学生のお姉さんがいる。うん、大学生のお姉さんが言うならそのとおりなんだね。
「へえ、そうなんだー」
「だってだって。それで、おとなになっちゃった人においつくためには自分もおとなになるしかないんだって」
「ふうん。でも、おとなになるってどうやったらできるの?」
「それはおねえちゃん言ってなかった。なにかかくしたりまえとはかわっちゃったりするとおとなになるっていうけど、おいつくのはまたべつなきがするし」
わたしはかなちゃんといっしょにやすみじかん中にかんがえこんだ。
やっぱりでたこたえはひとつだった。
「「せんせーにきいてみよう!」」
*
「んん? 大人になる方法だって?」
ほうかご。せんせーをつかまえて話したことをきいてみると、はんのうがこれだった。
「なんとまあまた突拍子な……しかも大人になるってちょっと……小学生がする会話じゃありません」
「でもおとなにならなきゃおいつけないの!」
せんせーはこっちをチラッとみてためいきをついた。
「とにかく、しっかり詳しく話してくれる?」
わたしがせつめいをすると、せんせーはうんざりしたようにまたためいきをついた。
「また結梨ちゃんのお兄ちゃんの話か……。一回会ってみたいね、彼女にあまり愛想がよくなくて妹に心配される男なんて」
まあいいわ、とせんせーは話をかえるように腰に手をあてた。
「とにかく、つまり結梨ちゃんは、お兄ちゃんに大人として見て欲しいのね?」
「うん、そういうこと!」
「そんなの簡単よ。なに、ある動作をすれば大人認定なんて軽いものだわ。それはね……」
そういってせんせーがおしえてくれたことをおぼえておうちに帰った。
*
ガチャ、とげんかんがひらく音がした。お兄ちゃんが帰ってきたのだ。
わたしはリビングからとびだしてげんかんにむかった。やっぱりお兄ちゃんだった。
さっそくわたしはせんせーからおそわったことをそっくりそのままやった。
それは、お兄ちゃんのうでをとってだきつくというものだった。むねをおしつけるようにするともっといいらしい。
「……ん? どうしたんだよ結梨」
あれ、いままでといっしょだ!
お兄ちゃんにこれはこうかがなかったらしい。そのままわたしはつぎのさくせんにうつった。
「お兄ちゃん、ごはんにする? おふろにする? それともわたし?」
「……大丈夫?」
ガーン。
むしろしんぱいするようにお兄ちゃんからなでられてしまった。
「……あ、まさか結梨、あの先生にまたなにか言われたな?」
「う、うん、おとなになるほうほうを」
「なにやっとんじゃその教師」
「ちがうの! わたしがおねがいしたの!」
「なんで?」
「だって、お兄ちゃんかわっちゃったから……。それはおとなになるってことで、おいつくには自分もおとなにならなきゃだめなんだって……」
わたしが下をむいているとまたあたまに手をおかれてナデナデされた。
「そんなの、結梨はまだいいんだよ。だって小学生だろ? 俺なんてその時大人になるなんてこと考えもしなかったよ。そのことを考えただけでもお前はすごいよ結梨」
お兄ちゃんにほめられてくすぐったいきもちになった。
「俺が大人だって思ったなら、結梨はきっとすぐに大人になれるよ。だから今は急ぐな」
「……うん……」
「さ、そうと決まれば夜飯でも作るか。結梨、待ってろ」
「うん!」
お兄ちゃんがキッチンにむかうのにわたしはつづいた。
たしかに、いそぐひつようはないかもね。
だって、いくらかわっちゃってたとしても、お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから!
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