俺◀︎ヒロイン番外編『結梨ちゃんの日常』

結梨ちゃんの日常1

 わたし――倉永結梨は小学二年生。

 いわゆるJS。いつかお兄ちゃんがそんなことを言ってた気がする。

 お兄ちゃん、よく頭ナデナデしてくれるけどその度に「俺はロリコンじゃない」だとか「シスコンじゃない」ってぶつぶつ言ってるけど、ろりこん? しすこんってなんだろ?

 そんなことより、ねえねえ聞いてよ。

 そのお兄ちゃんが最近『かのじょ』を作ったの!

 かんばらさん、っていう人なんだけど、その人すごくやさしいの。しかもかわいいし。

 昨日もうちに来てくれて、わたしと遊んでくれたの。ゲームしたり、お絵描きしたり、お話したり。それはほんとに楽しかったんだから。

 でもね、わたしが聞いてた『かのじょ』とはなんか違ったの。

 ラブラブしてるのが『かのじょ』って先生から聞いてたんだけど、お兄ちゃん、あんまりかんばらさんとラブラブじゃなかったの。でも逆にかんばらさんはお兄ちゃんとずっとくっついてたな。

 これってどういうことだと思う?


「そりゃ、結梨ちゃんのお兄ちゃんがそのかんばらさんのことあまり好きじゃないんじゃないの?」


 というはなしを学校で友だちに話してみると、すばるくんからこんな答えが返ってきた。


「そうなのかな? それならお兄ちゃん一緒にいないと思う。いつも一人だったし」


「じゃあ二人はラブラブだったんじゃないの?」


「だから、お兄ちゃんはあんまりラブラブしてなかったの」


「そうなの。うーん……」


「それじゃーせんせーに聞いてみよ!」


「「「おー!」」」


 *


 せんせーというのは、わたしのクラスの担任のせんせーのこと。ものすごいお姉さんでかわいいけどどくしんであらさーなんだって。よくわかんないけど。


「せんせー」


「……ん、なにかな」


 せんせーはいつもニコニコわたしたちと話す。わたしたちと話すとげんじつをわすれられるんだって。

 たまに、くらい顔でブツブツこわいときがあるけどそれでもわたしたちはせんせーがだいすきだった。


「『かのじょ』って、ラブラブしてラブラブされるの?」


 せんせーの顔がニコニコのままかたまった。


「ん、どういうことかな……?」


「『かのじょ』はあいてにラブラブして、あいてにラブラブされるもの?」


「……ちょっと待って。どういうことか最初から説明して」


 といわれたので、わたしは友だちに話したように、せんせーにもおなじことを話した。


「……なるほどね。そういうことだったか……」


「せんせー何かわかったの?」


「……ええ、まあ。でもね、これは大人のお話だから説明はしてあげられないな」


「えー、教えてよー」


「じゃあこれだけね。結梨ちゃんのお兄ちゃんは、たぶんその子の体目当てなんだと思う」


「からだめあて?」


「詳しいことは聞かなくていいの。この話も忘れていいから。さ、次の授業図工だよ。移動しなきゃ」


「「「はーい!」」」


 わたしたちは図工のじゅんびをしてこうさくしつへ向かった。

 だけど、わたしはしっかりせんせーがいったことばを覚えていた。


 *


 そのよる。

 お兄ちゃんのへやにわたしはきていた。


「なんだよ結梨、珍しいな」


 そういってお兄ちゃんはわたしの頭をナデナデしてくれる。くすぐったくてきもちいい。


「ちょっとお兄ちゃんに聞きたいことがあるの」


「ん、なんだ」


「お兄ちゃんって、かんばらさんのからだめあてなの?」


「……は?」


 お兄ちゃんの顔がせんせーとお話したときみたいにかたまった。


「だから、『かのじょ』は、からだめあてなの?」


「ええ待って、なんで結梨がいきなりそんなこと言ってんの?」


「だって、お兄ちゃんはかんばらさんにラブラブじゃないじゃん。それをせんせーに言ったらそうだって」


「まーたその先生かよ……その人、結構追い詰められてやばくなってんじゃ?」


 お兄ちゃんはとおい目をしてどこかをみた。

 まだわたしがきいたことに答えてもらってないんだけど。


「で、お兄ちゃん、結局からだめあてな――」


「ねーよ。小学二年生女子がそんなこと言うんじゃない。早く寝なさい」


 なんてお母さんみたいなことをいって、お兄ちゃんはわたしをへやからおいだしてしまった。


「?」


 わたしはぜんぜんいみがわからなかったけど、仕方なくそのまま自分のへやにもどっていわれたとおりに寝た。


 ……じゃあ、お兄ちゃんのあれはなんなんだろう?

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