エピローグ

 ようやく事を終えた俺が、しっかりと据わった第三者の目から客観的に今回の件に思いを馳せていた。

 ……というのは建前で、俺自身あの作戦で本当に行けたのか心配だった、というのは秘密だ。

 昼の屋上。叶人と篠崎が平日初めて会う時間。

 結果から言って、そんな心配は無用だった。

 メールでの報告も何もなかったので、まさかやってしまったのかと思っていたのだが……。


「叶人、私のいる?」


「ああ、サンキュ。じゃあお礼に俺のをやるよ」


 ……なんかもう、ラブラブだった。ラブラブとしか表現不可能だった。

 だってものすごい密着しとるし。どっちも幸せそうな顔しとるし。

 もう、俺たちと一緒にいるにも関わらずどこからどう見てもカップルとしか思えなかった。

 ……まあ、これを見る限り告白は大大大成功したようだな。さすがは俺。ギャルゲーも甘く見るもんじゃないな。

 ま、とにかく両想いだった二人は面倒くさい過程を踏みながらもお互いの気持ちを確認してめでたしめでたし、ハッピーエンドだ。

 ……まあひとつ。問題があるとすればそれは。


「……? どうかしたんですか結叶くん」


「あ、いやなんでもない」


 あの時から俺は神原と顔を合わせることはできるものの、叶人のように、ずっと見続けることはできなくなってしまっていた。

 おそらく、俺の見解。

 俺の中で神原の立ち位置が、友人キャラからその……恋人キャラに寄った、ということだろう。

 不本意だが、全くの不本意だが、不意打ちだったのだから仕方のないところはあるだろう。

 俺といいあの二人といい、あの観覧車に乗ったやつは何かしらの変化がある。俺はあれを悪魔のキューピットと名付けよう。……ただの乗り物なのにおかしいか。


「はい、結叶くん、あーん」


「自分で食うわ」


 神原のハニートラップを器用に避け、俺は自分の弁当にありついた。

 いや、そうだな。まだ大丈夫だ俺は。ただ恋人にほんの少し寄っただけだ。

 日常生活には全く支障はないはずだ。


「……結叶くん」


「ん?」


「えいっ」


 神原が俺に倒れかかってきたので片手で受け止めてやった。


「いきなりなんだよ」


「いやあ、あの二人が羨ましいと思いまして」


 奇しくもそれは、最初に叶人が俺に相談してきた時の内容に近かった。


「あいつらはあいつら。俺たちは俺たちだろ」


 なんてことを言いつつも、俺は心の中がざわついているのを感じていた……。

 って、どういう終わり方だよ。


 正しくはこうだ。

 遠目にハートが見えそうなほど仲睦まじい叶人と篠崎の姿を微笑ましげに眺めながら、俺は再び弁当をつまんだ。

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