俺◀︎ヒロイン3
プロローグ
叶人も篠崎の二人をくっつけてから、あっという間に六月になっていた。
まだ梅雨真っ只中だが、ここにさらに蒸し暑さが加わるという最悪な時期だ。
こんな時はやはり室内に限る。インドア派の特権だ。……そんなことはないか。
とにかく、俺はいつものようにクーラーの効いた素晴らしい図書室で静かにラノベを読んでいた。
神原も同席だが、この時間はだる絡みをしてこない。しっかりとお堅い文庫本を読んでいる。読書の時間は真面目なようだった。
いいや、そんなことよりも気になるのはもうそれが法則のような決まりであるかのように居座っている深夢の方だ。
いつもは俺や神原が図書室に入っても軽く挨拶するだけでそれ以後はまた自分の世界に入る、といった感じなのだが、今日は違った。
……さっきからしきりにこちらをチラチラと見てくるのだ。
何か言いたげなことがあるように。それを視線で気づいて欲しそうだったけどそんなことは知らない。
ま、いっか。どうせあの人ろくでもない考えしか持ってないし。
あまり重要なことではないと睨んだ俺はそれを頭から振り払って今はラノベに集中することにした。
そして、図書室が閉館した。
その知らせを告げる図書室にふさわしい静かめな放送が流れると、俺はラノベをしまって荷物をまとめた。
「行こうぜ、神原」
「ああ、はいそうですね」
俺より遥かに集中していたのか、今気づいたかのように神原が顔をあげた。そのまま、荷物をまとめにかかった。
そして、俺たちが帰る支度を終わらせ、いざ帰ろうと歩を進めたところで、
「ちょ、ちょっと待って!」
深夢から待ったがかかった。
「なにか?」
深夢というのは神原の姉で普通に先輩なのだが、親しみを込めて、というか向こうから言われて、俺はあまり敬語ではなかった。前は何回か敬語だった時がある。これでも俺はしっかりと敬語を使いこなせる高校生であることを確認してほしい。
それは置いといて。
「ちょっと二人に話があるんだよ」
「……とにかく図書室からは出ましょうぜ」
「あ、そうだね」
それでもタメすぎるのもどうかと思った俺が謎な言葉遣いを発揮しつつ、俺たちは図書室から出た。
図書室前。
立ち話でいいや、と深夢が言ったのでここで立ち止まって俺たちは深夢の言葉に耳を傾けることにした。……普通は立ち話もなんだからといって座れる場所に移動するんじゃないのか。
「で、話というのは?」
「そうだよ、いきなり何、お姉ちゃん?」
二人してそう聞くと、深夢はその長い黒髪を後ろにサラッと流すという美少女がよくやる仕草をしてから、口を開いた。
「二人とも、部活には入ってなかったよね?」
「もちろん」
「お姉ちゃん、知ってるでしょ」
俺は見てれば自ずとわかるし神原は妹だから聞くまでもないのだと思うのだが、それでも深夢は安堵したように息をついて、意を決したようにこちらを向いた。
「二人とも、部活に入らない?」
唐突だった。まさかそういう問いが来るとは思ってなかったので、俺は言葉に詰まってしまった。
それは神原も同じだったようで、キョトンとして首を傾げている。
「なんでいきなりそんなことを? なんか楽しい部活でも?」
「それとも誰かに部員を募集するよう頼まれたとか」
「違う違う。違うわよ。私は誰にも与しないし」
深夢は手を振って俺らの想定を全て否定した。
「違うのよ。これは全て私の私による私の意思だから」
そういって、深夢は俺たちを包み込むように両手を広げながら言った。
「部活を作ろうと思うの!」
「……は?」
「……はい?」
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