俺◀︎ヒロイン2

プロローグ

 五月も半ば、じめじめして鬱陶しい梅雨の季節が始まった頃。

 俺は、珍しく部活が休みの叶人と一緒に帰っていた。逆に神原はいない。向こうは向こうで篠崎と帰るらしかった。

 そして、他ならぬ叶人が『今日は結叶と二人で帰らせてくれ』とお願いしたのだ。

 今にもポツポツ降ってきそうな空に俺は折り畳み傘を構えていると、


「なんか、お前らって楽しそうだよな」


 不意に叶人がこんなことを言ってきた。


「なんだよ藪から棒に」


「いや、なんつーか、結叶と神原の関係を見てたらいいなー、なんて思ってさ」


「?」


 ……この幼馴染は何が言いたいのだろうか。

 そんな思いを込めて視線を送ると、叶人は慌てたように手をあたふたさせた。

 叶人がこんなに動揺するなんて珍しい。こいつはリア充というエリート集団に属していていつも余裕を持て余しているふうだからな。

 俺がその視線を崩さないでいると、叶人はついに観念したようにあたふたさせた手を下げた。


「わかったよ。告白してやる」


「え、俺は男に興味はないんだけども」


「そういう告白じゃねえよ!」


 というコントのようなやり取りをしたらいくらか気持ちが落ち着いたらしい。

 少し緊張が解けた様子で、それでいて何か恥ずかしがるように頬を指でかきながら叶人は俺に告白をした。


「えっと……なんかさ。結叶たちを見てたら付き合うのっていいなって思ったんだよ」


「……うーん、俺と神原が付き合っていると言うには微妙なラインだけど、まあいいか。で、いいなって思ったからなんなんだ?」


 さっきから聞いていれば、ただ俺たちを羨ましがっているだけである。

 本音は別にあるはずだ。そのために俺と二人で帰っているのだ、と俺は直感していた。


「だから、俺も誰かと付き合ってみたいな、なんて」


「あーなるほど。叶人レベルなら誰でも大丈夫だ心配すんな」


「おい雑すぎないか!?」


 叶人は両手を広げて抗議してきたが、お前、俺が恋愛マスターとでも思ってんの?

 こちとら社会的弱者なんだよ、オラ。神原と付き合ってる(?)のはたまたまのたまたまなんだよ。


「とにかく大丈夫なんだよ。叶人のそのルックスと性格があれば誰でもオトせる。それとも何か? 誰かを一点狙いでもしてるのか?」


「お、おう……」


 まさかの答えがカムバック。

 俺はてっきり誰でもいいから付き合いたいっていう男の欲求を俺にぶつけられてたんだと思ってたけど。

 まあ、叶人はどこからどう見ても、贔屓目なしでもイケメンだし、面倒見のいい性格は女子ウケがいい(勝手な偏見)。それなら気になるあの子のハートも一発で貫けるだろう。


「……で、一応聞くが、その気になるやつというのは誰なんだ?」


「……篠崎愛華だ」


「………………………………………へ?」

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