敗残の暗闇の中で③

 逃げ出してしまった。

 その思いは、澱のように今でも重く心にのしかかってくる。

 あの日、突如街の方角から爆発音のようなものを聞いた。まさか街からではあるまいと思った。それほどまでに遠く離れていた。

 戻れば、街は跡形もなく消滅していたのが遠目からでもわかった。瓦礫が散らばり、地が剥げ、煙が立ち込め、熱気が空気を歪めていた。

 信じられない、というよりは理解を超えた光景だった。

 街には獅士も駐屯していたはずだ。一個大隊があったはずだ。にもかからわず、為す術もなくこのありさまだというのか。

 代わりに得体のしれない影がいた。同じ顔、同じ姿をした、生気のない人形のような集団。百はいただろうか。

 すぐにその場を離れようと進言したパックは正しかった。

 もはや街に、街だった場所に生き残りなどいないだろうと、そう思っていたから。

 二人と同じようになにごとかと様子を見に来たものがいた。旅人だろうか。彼は近づきすぎた。そして発見され、撃たれ、死んだ。その様子を目にしても、二人は逃げる選択をした。

 他の町へ。他の村へ。知らせなければならないと思ったからだ。

 だが、そんなものはなかった。他の町も、他の村も、そんなものはどこにもなかったのだ。どこも一つ残らず同じありさまだった。

 あのときは逃げるしかなかった。今は違う。


「グロキル。敵の位置は」


 守りたいものがあるから軍に入った。守れる力があったから軍を選んだのだ。

 戦う。逃がすために。守るために戦う。今度こそは。


「拠点ヨリ約1100m北。秒速平均2mデ接近中」

「歩行速度か。こちらに気づいているわけではないのか……?」


 わずかな希望。願望。ダヴァナーは脳裏に浮かぶ邪念を打ち払う。


 正確な位置まではわかっていないかもしれない。しかし、彼らは明らかに探している。付近の痕跡を発見し、抹殺すべき対象がいると、捜索しているのだ。ならば、あとは時間の問題だ。


「直ニ我ガ支配圏ニ入ル」


 すなわち、拠点を中心とした半径800m内である。

 グロキルは植物を模した魔獣ではあるが、植物そのものではない。目を持ち、耳を持つ。グロキルの目は、同じ姿形をした二体の影をたしかに捉えていた。そしてそれは、ダヴァナーが二年前に見た姿と同じものだ。


「やはりこちらへ向かってきている……。真っすぐ、確実に」


 正確な位置すらも把握されている可能性がある。堂々とした足取りで、急ぐでもなく歩いて来ているのは、余裕の表れか。グロキルには気づいていないと見るべきだろう。ならば――。


「支配圏ニ入ッタ」


 移動ルートが予測可能ならば、罠が仕掛けられる。

 支配圏に入れば大地の震動も感覚器官の一つとなる。

 中心へ誘い込むほど、グロキルの力はより強力になる。

 ダヴァナーはグロキルと感覚を共有し、その接近を足音で感じていた。

 不意打ちは一度きり。二度も三度も罠にかかってくれるなど期待すべきではない。彼らの正体も、力のほども、なに一つわからない。最悪を想定する。


「まだだ。まだ。引きつけろ。……その位置だ!」


 即席の浅い落とし穴。二体の敵を嵌めることに成功。それだけでは大した意味はない。しかし、姿勢を崩した瞬間に隙が生まれる。

 その隙に、太い蔦が、根が敵の四肢に巻きつき、その自由を奪う。

 相手がただの人間ならば、骨すらも砕けかねない強烈な締めつけである。


「捕らえた……!」


 ダヴァナーは魔力を注ぎ込む。敵は締めつけに対し抵抗している。振り解こうとするたびにさらに上から根を巻きつける。両腕に、両脚に、腰に、首に、頭部に、全身に巻きつき、圧迫する。雁字搦めにし、一切の身動きを許さない。みしみしと、その身が軋む音を確かに聞いた。


 ――勝てる。これなら。


 その思いを打ち砕くかのように。


「支援火力要請」


 そんな声を、聞いた気がした。

 ダヴァナーにはがない。だから、敵がなにをしたのかを正確に理解することはできなかった。

 一方、彼らの語彙では、それはこう呼ばれている。


 誘導飛翔体ミサイル、と。


 超音速で飛来し、正確に目標へ向かい、焼夷弾頭が焼き尽くす。

 衝撃。爆音。まだかなりの距離があるはずなのに、それは洞窟をも揺らした。


「ぐぅ……!」


 ――これか。これが、街を焼き滅ぼした力か。


「グロキル!」


 感覚を共有していた魔獣が力なくしなびれている。反応がない。


「まさか、そんな」


 魔獣とは魔術による疑似生命。ゆえに、その生死は曖昧だ。魔獣の死とは、原形を維持できなくなるほどの損傷を意味する。半径800mにも渡って根を張る魔獣グロキルがその意味で死ぬというのは、そうそう考えられることではない。

 死んだ、というわけではないだろう。しかし、無力化されたことに違いはない。

 先の地鳴りとこの熱気。攻城炎熱魔術の類か。彼らはそんなことまでできるのか。

 グロキルは目を持ち、耳を持つ。だが痛みを持たない。ゆえに、その被害規模はわからない。

 すなわち、ダヴァナーは無明に立たされることになる。


 ――あわよくば倒す、だと?


 甘かった。甘すぎた。敵は街をまるごと滅ぼすだけの力を持つ。ならばこの拠点を、グロキルの支配圏を、同様にまるごと焼き尽くすなど造作もないことだろう。

 ならば、なぜそうしなかった? やはり正確な位置までは掴んでいない? 正確な位置など関係あるものか。なにもかもすべて焼き尽くしてしまえばいい。では、この二年間今まで無事だったのは?

 遊ばれている。舐められている。そういうことだ。

 グロキルが使えぬ以上、自ら戦うしかない。ダヴァナーは剣を握りしめる。両手で、しっかりと。

 バスタードソード。全長110cm。重量2.2kg。一撃必殺の理念で叩き斬るための剣。使い込まれ魔力の馴染んだこの剣で、チェインメイルを着込んだ訓練用の木造人形を両断したことすらある。

 可能性があるとすれば、待ち伏せ以外にはない。奇襲により、最初の一撃で仕留める。それだけだ。敵の攻撃は頭部を確実に撃ち抜く。受ければ死ぬ。ならばこそ。

 ダヴァナーは死角に隠れ、息を潜める。北から、順当に入口から入ってくるなら、この位置から不意を突ける。だが――そこで思い出す。敵は二体。

 一体ならまだしも、二体。やれるのか。そもそも一体だったとしても、やれるのか。

 動悸を抑えきれない。汗で剣が滑りそうだ。

 もう、逃げてしまってもいいのではないか。足止めは十分ではないのか。いや、もはや遅い。敵に背を見せる方が恐ろしい。そうだ、連中はそれを狙っているのかもしれない。私が逃げ出し、それを追うことで、他の生存者のもとへと道案内をさせる。そのつもりに違いない。


 ――ふざけるな。


 ダヴァナーの決意は固まる。敵を待ち構える。ここで決着をつける。


 足音。

 ついに来た。やはり二体。

 死角ゆえ、ダヴァナーからも敵の様子は見えない。敵も同様のはずだ。

 少しずつ、足音が近づいてくる。落ち着き払ったような足取りに無性に腹が立つ。

 そろそろだ。姿を現すはずだ。直に。あと数歩。今だ。


 ――右を斬れ。


 霊信。軍隊式に暗号化された簡素な霊信が、ダヴァナーのもとに届いた。

 死角から飛び出したダヴァナーの目は二体の敵を確かに捉えた。そして、彼は直前の霊信に従い、両手で大きく振りかぶった剣で、の敵影を斬り裂いた。


「パック、お前……」


 そしてもう一体を、反対側の死角に潜んでいたパックが、横薙ぎの剣で上半身と下半身の二つに分断していた。


「なぜここに! 命令したはずだろう!」


 ダヴァナーも、さすがに咄嗟には、“怒り”の表情をうまく形づくることができなかった。


「いやまあ、もう軍なんて残ってないわけですし、上官の命令が絶対なんて原則もなくなってるかなあって」

「んなわけあるか!」


 言葉だけだ。表情はもう、決壊していた。


「……って、あれ? ちょっと待ってください。おかしくないですか。よく見たらこれ、隊長左を斬ってますよね。隊長から見て」

「どうせお前だろうと思ったからな」

「それどういう意味すか」

「言葉の通りだ」


 ダヴァナーはもう、笑っていた。


「しかし、やれるものですね。やっぱり魔力は通ってないみたいですし。斬れるんですね、こいつら」

「ああ。私も驚いてる」


 倒れた二体の敵を見下しながら、ダヴァナーはため息をついた。念のため頭部に剣を突き刺し、止めを刺す。パックも同様に。

 鉄で鉄を斬ることは不可能ではない。ましてや、魔力を帯びた剣であるならば。

 その敵は、皮膚も骨も人工筋肉も、鉄以上に強靭な素材で構成されていた。彼らがそれを斬ることができたのは、グロキルが締めつけによって与えていた損傷によるところが大きい。

 そのために駆動系は精密さを失っていたし、反響定位ソナーシステムにも不具合が生じていた。奇襲の成功はそのためだ。いずれも、彼らには知る由もない。


「行こう。余韻に浸ってる場合じゃない。早く合流しなくては」


 ***


 霧が濃い。

 ただでさえ視界の悪い森のなか、今日はよりいっそう先が見えない。

 さらには赤髪の少女を加えて十三人もの子供を連れていては、行軍速度はさらに遅くなる。

 グロキルの支配圏内なら根を伝い速やかに移動できる。問題はそのあとだ。

 ルースとアリスは先導し、ジェイは最後尾で子供たちがはぐれないよう見守りながら、つい後ろを気にしてしまう。

 ダヴァナーを殿しんがりに置いて心理的にも後ろ髪を引かれる。パックも結局、ダヴァナーを助けに戻ってしまった。

 逃げなければならない。だが、どこへ。どこまで。

 仮に逃げ延びたとして、ダヴァナーらと合流はできるのか。

 なにもわからない。この霧の中のように、先はなにも見えない。

 ただ進む。可能なかぎり遠くへ。今はただ、それしかできない。


 あの日。教会孤児院で、雷鳴にも似た音がどこからか響いたのを聞いた。

 子供たちは世界の終わりかのように怯えていた。あれが本当に世界の終わりを告げる音だとは夢にも思わなかった。

 だからこそ、特に危機感もなく夜には子供を寝かしつけていた。

 慌てふためいた二人の軍人が現れるまでは。

 なにをいっているのかわからなかった。盗賊でも魔物でもなく、ただ“敵”がいると。教会の仲間たちと顔を見合わせ首を傾げ、半笑いに話を聞いていた。


「戦争でもはじまったのか」

「違う。戦争なんてものじゃない。滅びだ。世界の終わりがはじまったんだ」


 とにかく今すぐ子供たちを逃がすべきだと。彼らは何度もそう主張した。

 軍人ではあったが、たった二人だ。あまり信用はなかった。それに眠かった。

 半信半疑ではあったが、彼らの必死さについに圧された。言葉に従うことにした。今さっき寝かしつけたばかりの子供たちを一人ずつ揺すり起こす。急げ、早くしろと軍人は急かす。

 今思えば、判断が遅すぎた。そのせいで多くの子供を救えなかった。

 彼らの恐れる“敵”が現れた。魔力探知には長けていたが、魔力が一切感じられず気づかなかった。

 雷鳴にも似た音とともに、子供たちと、仲間の教会魔術師が次々に倒れていった。


「逃げろ! 振り向くな! やつらと戦おうとするな!」


 軍人の言葉に従う。必死に子供たちを逃がす。一つの音とともに、一人が死ぬ。

 なにもわからず、ただ逃げた。暗闇の中を逃げた。混乱のなか、子供たちを守っていたつもりだった。

 気づけば、ただ逃げていた。子供たちもついてきているはずだと、勝手に思い込んで。

 夜が明け、子供たちを数える。

 十二人。たったの、十二人。


「――!」


 ジェイの耳は、音を聞いた。

 二年前にも聞いた、あの音だ。

 すなわち、銃声である。


「馬鹿な……」


 しかも聞こえたのは、前方だ。


「なっ――!」


 子供が一人、倒れるのをルースは見た。

 あの音とともに、頭部を穿たれ、倒れる。二年前にも見たあの光景。

 待ち伏せ? 前にも敵がいた? 考えるより早く剣を抜く。


「木の影に隠れろ!」


 霧が濃い。だが前方に、確実にそれはいる。姿は見えずとも、音の大きさと方向から、おおよその位置はわかる。


「アリス!」


 その呼びかけは、迎え撃つという合図。

 二人は左右に展開し、木々の間を縫うように高速で機動する。木から木へと幹を蹴り飛ばしながら、敵目標を十字に。それが二人の戦い方だった。

 そのサイズの、人間大の質量物体としては、それは極めて高水準の運動性能による機動ではあった。

 しかし。

 高速度視覚素子による動体検知能力によって超音速の銃弾すら撃ち落とすことも可能な射撃管制能力にとって、秒速30m程度の物体運動の軌道予測などあまりに容易い。肩・腕・手首の関節を駆動し、射角を微調整して迎撃予測地点にあらかじめ照準を定め、適切なタイミングで発射する。

 それだけで、質量弾は敵性生物の頭蓋を貫き脳を破壊し、一瞬のうちに絶命へと至らしめる。ルースとアリスは、そうして容易く撃ち落された。


「貴様!」


 遅れて駆けつけたのは、ジェイ。

 敵の姿は見えた。だが距離が遠い。ジェイはそのまま剣を振り、遠隔斬撃を飛ばした。

 魔術戦における基本攻撃。その常識でいえば、容易く躱され、当たるはずのない距離。ある意味で自暴自棄の攻撃だった。


 しかし、当たる。斬撃が敵の胴体に命中し、その皮膚を斬り裂く。傷口からチタン合金の骨格が覗いた。


 ――有効なのか。遠隔斬撃は!


 目を丸くしながらも、ジェイは手を休めず続ける。

 一撃だけでは致命傷とはいえぬだろう。二撃。三撃。立て続けに剣を振る。

 当たる。面白いように当たる。まるで踊る人形のようだ。静止目標に対する訓練のように、何度でも遠隔斬撃が命中し、敵はみるみる皮膚を剥がされ、人工筋肉を損傷し、骨格に傷を負っていく。


「うおおおお!」


 これまでの怒りを、鬱積を、すべてぶつけるように、ジェイは剣を振る。何度も。何度も。

 距離のため。軍人ではない彼自身の練度のため。一撃一撃は機能不全に至らしめるほどの破壊には届かない。だが、敵も絶え間ない攻撃を前に動けない。センサーが標的を捉えられない。射角を調整し照準を定められない。

 ならば、このまま力尽きるまで斬り続けるならば、結果は明白である。

 一対一、であるならば。


 別方向から飛来した質量弾が、ジェイの脳を撃ち抜く。

 一方、幾度もの斬撃を受けボロボロになった機体は姿勢制御能力を失い膝をつく。

 代わりに、同型の無数の影が、霧の向こうから現れる。

 相手が誰であれ、容赦はなく。慈悲も、情けもない。

 その銃口は逃げ惑う子供たちに向けられていた。


 ***


「パック!」


 それは、油断だった。

 斬り、倒したのだから、それで終わりなのだと思っていた。ましてやパックが斬った方は、腰から上下に両断されている。それでも警戒を怠らず、ダメ押しに頭部を破壊した。

 だが、それは油断だったのだ。

 人の形をしているが、それは人ではない。

 ダヴァナーは人間の常識に捕らわれたまま、頭部が弱点だと思った。

 頭部を潰すことそのものは間違った判断ではない。頭部には確かに、各種センサーや主要な演算装置の多くが含まれている。

 だが、それだけでは足りないのだ。

 身体中に補助演算装置は分散されており、センサーも各部位に搭載されている。ゆえに、頭部を破壊されても、上下に分断されたとしても、彼らは動くことができる。

 倒れているため射角の調整が難しい。ゆえに脳ではなく、第二目標の心臓を撃ち抜く。

 油断しきった、魔術師の背後を。


「こいつら、まだ……!」


 ダヴァナーは慌てて倒れた敵の手首を切り落とした。まだなにをするのかわからない。倒れた敵に向かって何度も剣を振り下ろした。狂乱したかのように。


「はぁ、はぁ、……パック!」


 駆け寄る。もう遅い。目に光はなく、冷たくなろうとしている。最期の言葉を残すわずかな灯すら残されてはいなかった。


「くそ、こんな……だから……」


 慟哭。だが、もはや、こうなっては悔やんでも仕方がない。

 二体は倒せた。しかし、すぐに敵の増援が来るだろう。グロキルも動かない。ジェイたちと合流しなければならない。悲しみに沈んでいる余裕はない。怒りに心を燃やせ。

 ダヴァナーはゆっくり立ち上がる。

 だが。



「な、んだ、これは……」


 死体。子供たちの死体。

 どれも頭部を、後ろから撃たれている。

 パックを失うという犠牲はあったものの、勝ったはずだ。あれは勝利だったはずだ。

 その現実は、もはや脳の処理限界を超えていた。呆然と、やつれた幽鬼のように、無為に歩を進めることしかできなかった。


「なぜだ。どうして……」


 答えが、霧の向こうから現れる。

 ダヴァナーの位置から確認できるだけでも三十二体。

 すなわち、はじめから包囲されていたということ。

 北からあえて接近を気づかせ、南を半包囲し潜伏して待ち構える。

 生存者を確実に、一人残らず殲滅するために。それが彼らの作戦だった。


「くそ……」


 銃声。そして最後の生存者が息絶えた。

 少なくとも、の視点では。


 彼らは前進し、包囲網を狭め、あらゆるセンサーを稼働し生存者がいないことを確認する。

 赤髪の少女はただ一人、そんな嵐が過ぎ去るのをじっと待っていた。


 固有魔術〈隠匿〉。

 その場に動かずにいるかぎり、なにものも彼女を発見できない。それが彼女の固有魔術だ。

 なんら力を持たない彼女が、ただ一人生き延びてこられた理由。

 殺意の嵐が襲来するたびに彼女はその魔術で身を隠し、家族が、友達が、見ず知らずの人々が殺されるのをただ見過ごしてきた。決して動かず、目の前で殺されていくのをただ見ていた。

 それを何度も、何度も繰り返してきた。

 だから、名乗るのがおそろしかった。

 互いに名を呼び合い、親しくなってしまっては、別れがつらくなる。そう思った。せっかく出会っても、“敵”に見つかってはひとたまりもない。瞬く間に皆殺しにされてしまう。そんな光景を、何度も目にしてきた。

 だからもう、慣れたのだと思った。

 名前すら教えずに距離をとっていれば、ただの他人の死など、つらくはないと思った。

 なのに。


「レシィ」少女は、虚無に向かって告げる。「私の名前は、レシィ」

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