騒がしい朝


 前回のあらすじ

 一年生最初の定期テスト最終日、解放ムードに満ちた教室内でどうにか理人くんをデートに誘うことに成功した私(円道さとみ)。しかし理人くんは教室を出た直後に姿を眩まし、私とのデートを派手にすっぽかしたのだ! 怒り心頭となった私は知り合いの猫や犬に片っ端から理人くんの目撃情報がないか聞いて回り、やがて理人くんは学校から出ていないという結論に辿り着く。学校に回れ右して戻ってきた私は、学校のありとあらゆる場所を探して回ったが、結局日が暮れても理人くんと出会うことはなかった。どういうことだ、まさか理人くんの身になにか……!? 不安になった私は風介(黒猫)に相談すると、なんと日が暮れるずっと前に家に帰っていたと言う! 私は失望した! 連絡くらいしてくれても良いじゃないかと! そして私は気が付いた! 連絡先交換してないじゃないかと! というわけで、後で連絡先交換しようね。




「……なにこれ?」


 月曜日の朝、ボクの下駄箱に入っていたルーズリーフにはそんなことが書かれていた。差出人は円道さんのようだが、しかしやけにご立腹なのが文字からよくわかる。と言うか最後題字から掛け離れた内容になったな。

 とりあえず、見なかったことにしよう。

 ボクはそっとルーズリーフを折り畳み、やれやれ、ボクの下駄箱を間違えるなんて、円道さんはうっかりだなあ。とひとつ下の下駄箱に入れておく。

 よし、完璧。


「アタシの下駄箱になにやってんだ」


 後頭部を殴られた。


「痛いなあ」


 後頭部を押さえて振り返ると、的井泉子、通称マトさんがぷらぷらとなにかを落とそうとしているかのように右手を振っていた。


「痛いのはアタシの右手だ」


 相変わらずすごいことを言う。

 マトさんはボクを左手で脇にどかすと、気怠げな様子で革靴を上履きに履き替える。

 まあそして当然ながら、ルーズリーフが見つかるわけでして。


「…………」


 マトさんはルーズリーフに書かれた内容を見るからに斜め読みし、

 暗号でも探すかのように何度もルーズリーフをひっくり返し、


「へっ」


 鼻で笑いながらルーズリーフをボクの胸に押し付けてきた。なんなんだ一体。

 ボクが困惑しながらルーズリーフを受け取ると、マトさんはその確認もせずに教室に向かう。

 すぐに追いかけようと迷ったが、別にマトさんと仲が良いわけでもないのでやめておく。

 ボクは周りに誰もいないことを確認し、今度は円道の下駄箱にルーズリーフを入れておく。

 ……ってことをしようと思ったのだが、どれが円道の下駄箱か知らなかったので、ルーズリーフはボクのポケットに突っ込んで置いた。


 教室に入ると、ボクの席に円道が座っているのが見えた。

 ばっちり目が合ったが、ボクは目を伏せてそっと後退して教室から出ていく。


「ちょっと! 無視しないでよ!」


 教室から怒声ともとれる円道の声が聞こえてきた。流石にこれ以上怒らせるとボク自信がどうなるかわからないので、大人しく教室に戻る。


「なに、どしたの」


 通学鞄で円道を叩いてどかし、席に座る。人肌の温かさを持った椅子が気持ち悪い。


「手紙読んだ?」

「貰ってない」


 ルーズリーフなら読んだけど。


「おっけ、じゃあケータイ出して」

「持ってない」


 そのおかげで金曜日は公衆電話が大活躍していた。


「……じゃあ、住所教えて」

「は? やだ」

「なんで」

「やだからやだ」


 大して仲も良くない円道なんかに教えるのも気が引けるし。

 なんて考えていたら、なにかを訴えかけるように円道は震え始めた。目尻から涙なんて流している。


「なにアタシのさとみを泣かしてる」


 後頭部を殴られた。


「痛いなあ」


 後頭部を押さえながら振り替えると、今度は額を殴られた。


「理人のせいだ」


 マトさんが殴ったせいでしょ。

 て言うか、マトさんからも円道になにか言って欲しい。


「流石に連絡先として住所要求するのはおかしいでしょ? て言うかおかしいよ」


 マトさんに質問する風を装いながら、円道に言い聞かせようと円道の方を見ると、彼女は目を真っ赤に腫らしていた。怖いな、どうしたんだよ。


「だって……理人くんが……」

「ほら、理人がケータイ持ってないのが悪いんだ」

「だからって住所はないでしょ」

「アタシは教えたぞ」

「そんなことするのマトさんだけだよ」


 マトさんにそう教えてあげると、笑顔で腕をつねり上げられた。


「あだだだだ!」


 なんでボクが悪者みたいな構図が出来上がっているのか。悪いのは円道でしょ。


「やだよ、ボクは絶対住所教えないからね」

「じゃあ家の電話番号教えてやれよ」

「なんでボクから教えなくちゃいけないのさ」

「えっと……教えて?」

「それなら良いけど」


 それくらい連絡網見て調べて欲しい。

 そんなボクの思いが円道に届いたのか、円道は涙も枯れた笑顔を浮かべていた。


「うん、ありがと……」


 いつもの元気はどこにやったのかと考えるより早く、マトさんに後頭部を殴られた。


「またボクが悪いの?」

「どう考えたって理人しか悪くないだろ」


 納得いかない。




 その日の夜、明日に備えて寝る準備をしていると、突然電話が鳴り出した。ボクは枕元に置いていたダックスフントのぬいぐるみを左手に、左右吉が廊下に設置した電話機の前に立つ。


「…………」


 出たくないなあ。

 電話してきたの絶対円道じゃん。あの騒がしい声を夜聞くのはちょっと面倒なんだけど。

 うーん、でも、出なかったら出なかったで明日またマトさんがうるさいのか。

 じゃあ、ということでボクは受話器を取る。


「はいもしもし」

「                」


 ブツリ。


 また、ボクの中で円道の評価が下がった。

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ボクの知り合いはヘンな奴しかいない めそ @me-so

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