四場



 日が暮れ、星と月と、時々飛び交う妖精たちの明かりだけになった時間。会議室にデジレたちが集まっていた。大人(十五歳以上)の男女二十人ほどだ。

「ヒラリオン」

 と、デジレに名を呼ばれ一歩前に出たのは、白縹しろはなだ色の髪の青年。少し長めの前髪が表情を隠しがちだが、時折覗く花萌葱はなもえぎの瞳には強い意志が宿っている。

「今日」

 ヒラリオンの声に全員が耳を傾ける。

「周知のとおり、奴隷商人と同じ型の馬車ですが、どの貴族の旗も掲げていないという謎の一行が森を通りました」

 通常、奴隷も領主である貴族の持ち物で、売買には必ず領主の許可が必要だ。そして運ぶさい、通る領地の領主からの許可もいる。今日はっていた道は帝国騎士ドリス子爵領を迂回するルートだ。

「しかも、削って隠そうとしたらしい」

 そういって取り出したのは、はぎ取ってきた甲冑。確かに、エンブレムが入っているべきところに少し雑だが削った跡が残っている。デジレはそれを慎重に指でなぞる。

「大きな……孔雀ピーコックが二羽。中央に紫丁香花リラ。ライラック伯爵のエンブレムだ」

 一瞬ざわつく。これは、ライラック伯爵が帝国にすら隠しておきたいものを運んでいたということになる。どういった策なのか。何を企んでいるのか。また十年前のように今度はフェッテ共和国に乗り込んでくるのか。

 動揺を隠しきれない。若い兵士たちは青ざめている。

「これはチャンスよ」

 バティルドが声高に言う。

「ライラック伯爵はあの日の首謀者。メドゥーサがどう関わっているのかまだわからないけれどこちらで捕えられたということは、ヤツの計画の足止めができたはず。デジレ!あの計画を急いで詰めるべきよ。こんなまたとないチャンス、逃したくない!」

 全員の思いだろう。親の、兄弟の敵を討ちたい。国を取り戻したい。だが、デジレはなかなか首を縦に振らない。

 そ、っとアルブレヒトがデジレの手を握る。

「大丈夫、もう俺たちは子供じゃない。」

「そう、だな」

 デジレは一瞬だけ顔を緩める。ついに、時は来たのだ。毎日慣れない家事と鍛錬でくたくたになりながら本を広げていた幼い自分を思い出す。十年経った今、背が伸び重い剣を片手で扱えるようになり、アイロンがけはバティルドより上手い自信がある。

 ぐっとこぶしを握り、大きく息を吐く。

「やろう」

 全員がデジレに注目する。

「決行は、建国記念日。ドゥシャ王国暦三百年目の一大行事だ」



「国を取り戻すぞ」



 残り三か月。デジレたちは大きな一歩を踏み出した。

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