15.5話 次の景品は

 真っ暗な空間に僕は浮かんでいた。


 また、ここか。 前回、訪れてからどれくらい時間がたったのだろう。


 そもそも、ここに時間という概念は、あっただろうか?



 しばらく悩んでいると、光が僕のほうにやってきた。


「遅かったじゃないか。 いや、早かったのかな?」


 そういって、プルプルと震える光。 また笑っているのだろう。


 前回、見た時よりも少しだけ光は、大きくなっている。 そんな気がした。



「働きもののボクは、天魔が来るまでに、「宝物」を見つけておいたよ」


 そういって、僕の目の前に、「テープレコーダー」を差し出してきた。



「再生してごらんよ。 面白いものが聞けるから」


 光は、またプルプルと震える。



 何がおかしいのだろう。 光が揺れるのを見て、僕は、イライラした。


 しかし、中身は気になる。 光に従うのは、しゃくだったけど、僕は、「テープレコーダー」に触れる。



 すると、「……」 「……」 「……」


 誰かの声が、聞こえてきた。 その声に僕は、聞き覚えがあったんだ。 「テープレコーダー」は再生が終わってしまったみたいだ。



 もう一回。 そう思い、また「テープレコーダー」に触れる。


『……』 『……』 『……』


 誰の声だろう……? これは……お父さん?



「大正解! どうだい、すごいだろ? お父さんの声だよ。 苦労したんだぜ、これを探すの。 労をねぎらってくれてもいいよ?」


 そういって、光は僕の周りを飛び回る。


 くそ、よく聞こえない。 もう一度。 今度は、「テープレコーダー」を耳に当てて……



『男が、人前で泣くんじゃない。 天魔、お前は強い男の子だろ?』


『……達を作りなさい、天魔。 対等な関係。 いいかい、友……作るんだよ』


『すごいぞ! さすが、父さんと母さんの息子だ。 天魔、よく頑張ったな』



 !! もう一回!


『……』 『……』 『……』



 もう一回!


『……』 『……』 『……』



 もう一回。


『……』 『……』 『……』



 僕は、何度も何度も、「お父さんの声」を聞いていた。



 光は、そんな僕の目の前に飛んできて、こういった。


「なんだい、 泣いているのかい? 天魔。 お父さんがいってただろ? 人前で泣くんじゃない、って」


 そして、またプルプルと揺れる。



 僕は光を無視して、「テープレコーダー」の再生を続け、お父さん、お父さんと繰り返す。



 すると、僕の手に持っていたはずの「テープレコーダー」が消えた。 どこだ? どこにいった?



 あたりを見回すと、「丸い物体」が突如、現れ、その中に「写真」と共に「テープレコーダー」が収められていることに気づいた。


「丸い物体」に近づこうとする僕。



 すると、光が追いかけてきて、僕の目の前で非難の声を上げた。


「ひどいよ、天魔! 約束を忘れたのかい? 君とボクとで勝負をして、勝ったほうが手に入れるって話」


 そういうと、「丸い物体」は、フッと姿を消した。



 隠したな! 出せ! 早く出せ!!


 僕は、光に向かって、ありったけの怨嗟を込めて、声をぶつける。 それだけでは飽き足らず、腕を伸ばす。 つかんで、潰してやるんだ。



「やれやれ、もう少し大人になりなよ、天魔。 いったよね、僕をぶっ飛ばしてやる、って。 外の世界で、そうすればいいだろ?」


 そういいながら、光は、僕の伸ばした腕をひょいっとかわす。



「さて、今回はここまでかな? 三人目のおかげで、ボクも思い出したことがあるんだ」


 そういうと僕の頭上をクルクルと回り始める光。



 三人目? 誰のことだ?


 僕は、そういいながら、記憶を思い出そうとする。 が、誰のことも浮かんでこない。



「無駄なことはやめなよ。 ここでは、外のことは思い出せないんだからさ」


 そういって、僕の目の前に降りてくる。 次の瞬間、姿を消す光。



 ずるいぞ、姿をみせろ!


 そういって、僕はあたりを見回す。 が、光はどこにもいなかった。



「どうやら、天魔は足が速かったみたいなんだ。 中学生の時、地区の陸上大会で1位になったのを覚えていないかい?」


 声だけが聞こえてくる。



 陸上大会?


 あぁ、そうだ。 僕は、1位になった。 そして、賞状とメダルをもらって、うれしくて、お父さんに真っ先に見せたんだ。 お父さんは、自分のことみたいに喜んでくれて……それから、どうしたんだっけ?


 僕が思い出すと、「丸い物体」がまた現れる。 中には、「賞状」と「メダル」もあった。


 そして、僕がそのことを認識すると、「丸い物体」は、姿を消した。



 わかってるよ、君に勝たないと手に入れられないんだろ!


 僕は、姿の見えない光に向かって呼びかけた。



「ご名答。 楽しみが1つどころか、3つも増えたね」


 相変わらず、姿は見えない。



 いつやるんだ? 早くやろうよ。


 僕は、外の世界で光にあったら、光に勝てる自信があったんだ。



「まあ、待ちなよ。 君はいいさ、外から中に入ってくるだけなんだから。 でも、ボクは外に出なくちゃならない。 これがなかなか骨でね」


 声がするのは、上のほうか、いや、下。 ダメだ、わからない。



 入る? 出る? なにをいってるんだ?


 僕は、意味がわからず、そして、姿の見えない光に怒りを覚え、あたりに感情をぶつける。



「今回のことで、君は男の人を不用意に恐れることはなくなったよ。 三人によろしくね。 もっとも……」



 覚えてないっていうんだろ?


 僕は、光のいうであろう言葉を先にいう。



「そのとおりだよ、天魔。 次に会うのは、こっちかな? それとも、あっちかな?」


 今まであった光の気配までが薄れていくのがわかる。


 そして、完全に気配が消えた。



 今回は良い冒険を!っていわないのかい?


 しかし、そのことばに光が答えることはなく、僕は一人、真っ暗な空間に漂うのだった。

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