10話 みんなで自己紹介

「いやー、ごめんごめん。 痛かった? よね……あはははー」


 未だに森の開けた場所。 僕はムスッとして座り込んでいる。


 先ほどまでとは、うってかわって、女の子は僕のご機嫌を取ろうと必死のようだった。



「悪かったってば。 もう、謝ってるじゃない。 根に持つ男は、モテないゾ!」


 そういって、僕のほっぺを突っついてくる。 これも無視だ。 僕だって怒ることはあるんだ。


 ミカさんは、一言も発さない。 きっとニコニコしながら、こちらのやり取りを見守っているのだろう。


 無慈悲の一撃が僕を襲った直後、ミカさんが僕の誤解を解いてくれたようで、目が覚めると傷は癒え、痛みも一切なかった。 どうやら気絶時間は、最短で済んだようだ。


「あ、ここに埃が……払ってあげるね。 サッサッと」


 そういって、僕の肩のあたりをササッとなでる。 でも相変わらず無視する僕。



「……ごめん、ミカさん。 ミッション失敗だわ。 あたしのご飯、全部上げるから。 それでも足りないだろうけど……」 「……大丈夫ですよ。 いざとなったら、外で食べますから……」


 女の子は、ミカさんのそばにより、小声で話す。 ほかの人のをもらっても足りないのか、ミカさん……



 さすがに大人げないと思ったので、僕は口を開いた。


「ギルド加入の件で聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


 僕の問いに「なになに?」 と身を乗り出す女の子。 「なんでも聞いてください」 とミカさん。


「ギルド加入の件は、今のところ保留です。 この質問の答え如何では、ほかに行くことになるかもしれませんがいいですか?」


 わざと低く、抑揚のない声で、そう告げる。 そこはかとなく緊張感が漂う、ような気がする。


 こういう空気は苦手なのだろうか? 女の子は、僕のそばに寄り、なぜか肩をもみ始める。


「やだなー。 怖い声、出して。 緊張は、肩に出るんだよ。 よし、お姉さんがほぐしてあげよう」 とかいいながら。 どう見ても君のほうが年下だと思うんだけど……


「いいですよ。 私も天魔さんを無理やり引き入れようとは思ってませんから。 ご飯は残念ですけど……」 とミカさんが答えたので、こちらから聞いてみることにする。



「ミカさんが僕の名前を知ったタイミングを教えてください。 嘘は……なしでお願いします」


 すると、うーんと一瞬悩み、さらさらと答えた。


「あなたの名前を初めて知ったのは、ギルドハウスです。 昨日の夜だったかしら? シャドさんの『ギルドオーダー』の話の時ですね。 あなた自身が天魔さんだと知ったのは、アバター装備変更後、ですね。 なっちゃんが教えてくれた時です」


 そういってから「答えになってるでしょうか?」と締めくくった。 ミカさんのタイミングは、僕の予想どおりだった。 あらかじめ知っていたら、あそこで僕の名前を聞いて驚くことはないだろうし。


 よし、次は後ろで未だに肩をもんでる女の子だ。 名前は、確か……


「結構です。 では、次に……なつ吉さん、あなたあぁーっ!」


 僕の肩が引きちぎられる。 そう錯覚するに十分な痛みだった。 なつ吉と呼んだ途端に、彼女の態度が豹変した。


「なつきちぃー? 今、あたしのことを、なつきちって呼んだ?」 「ごめんなさい。 だって、メールに、なつ吉って。 だから」 痛い、いたい、イタイー! 肩から手を放してー。


 すると肩の痛みがおさまった。 いや、肩まわりの神経が機能しなくなっただけかもしれないけど……


(パッパパー!パパパ パッパパー!!)


(天魔は、スキル『痛み耐性』を覚えた)



「いい? 今後、一切、あたしのことをなつきちと呼ばないで。 ……わかった?」


 最後の言葉に含まれた怒気に、これが彼女の地雷だとすぐに察した。 そして、僕の心のメモに深く深く刻むのだった。


「わかりました! わかりましたから!」 僕は涙目になりながら、そう答えるしかなかった。



「なら、いいわ。 ……で、何?」 う、不機嫌そう……


「質問内容は、ほぼ同じです。 僕が、僕自身が、天魔だと知った時のタイミングを答えてください」


 僕は、真剣に女の子を見る。 さっきまで涙目だったけど、ここで茶化されたり、はぐらかされるわけにはいかないんだ。



「……あんたの『移動器』を指、使って操作した時。 アバター装備変更の時ね。 画面に表示された名前、見ちゃったのよ。 勝手に見たのは謝る。 ごめんなさい」


 そういって頭を下げる。 そうか……なら、僕の答えは決まった……


「わかりました、ありがとうございます。 それと、これから、よろしくお願いします」


 気の利いた言葉が浮かばなかった。 だから、二人は僕の意図を理解できなかったようで。



「で、どうなの? うちに来るの?」 「どうなんですか?」 と聞いてくる。


「えっと、だから。 よろしく、お願いします……」 といって、頭を下げる僕。


「えー!? ちょっと、そんなに簡単に決めちゃっていいの?」 「そうですよ! もっと真剣に考えた方がいいと思います! ほかにもいいギルドはいっぱいありますよ?」


 もう、加入してほしいのか、ほしくないのか、どっちなんですか……



「いいんです。 僕みたいなのがお役にたてるかわからないですけど、頑張りますから」 そういって、僕は顔の表情を崩す。



 二人は、名前も知らない僕のために、いろいろと世話を焼いてくれた。 つまり、いい人なんだ。


 僕の目的は、いい人と知り合って、友達になること。 この二人が所属しているなら、ほかのギルドメンバーも、きっといい人に違いない。


(件のメールのギルドマスターさん、シャドさんだっけ? どんな人なのか、ものすごく心配だけど……)


 二人は顔を見合わせ、そして、声をそろえていった。


「ようこそ、(私・あたし)たちのギルドに」 って。


 *****


「せっかくなので、歩きながら自己紹介しましょう」


 そう提案してきたのは、ミカさん。


「そうね、なんだかんだで結構、いい時間だし、移動したほうがいいよね」 「わかりました」


 その言葉に僕たちは同意する。



「じゃ、私からいきますね。 みなさんにミカと呼ばれています。 年齢は……ご想像にお任せします。職業は……」


 そして、出会ってから半日がたち、僕たちの遅すぎる自己紹介が始まったのだった。



 ミカさんの自己紹介と容姿、僕の印象は、以下のとおりだ。


 *****

 ミカさん 年齢:未公開 (20代後半、かな?)

 職業:盾騎士/ナイト 『守り砕くもの』

 髪色:金髪 目の色:緑 髪型:長い髪を首のあたりから編み込み、左肩をとおして前に流している。

 身長は、僕と同じくらいだから、170cm前後。 女の人では大きいほうだよね。 あと、お胸もかなり大きい。 あれは柔らかかった……

 言葉使いが丁寧で、少しおっとりしている。 ミョン太(であってるよね?)のストラップを愛用してたので、小動物とか好きそう。 あと、ほかの人よりご飯をいっぱい食べる、みたい……


 武器を持ってるところは、まだ見てないので、不明。

 防具は、獣の革?をなめしたショルダー付きの真っ白な革鎧(レザーアーマー)で腰当は左右のみ。僕のものより短いマントを着用。 (背中が開いているので、その部分と二の腕をカバーしているようだ)

 手甲はつけておらず、中指で止める肘までの手袋を着用。ブレスレットを両手首にはめている。

 ひざ上までのスカートにスリットが入ってて、前掛け部分が長く垂れさがっている。 膝までのロングブーツでこちらも真っ白。足首回りと膝回りに金色の補強装飾が多くついている。

 布地はすべて緑で統一されていた。 あと、歩くと白い太ももがちらちらして、少し気になります!


 余談ですが、僕の至福の時は、薄い緑色のゆったりとしたツーピースに着替えていたので、あれが寝間着かもしれません。

 *****


「じゃ、次は、あたしね。名前は、なつき。 ちは、いらないからね?」 そこで僕のほうをにらむ…… 

「年齢は、16で、今年17歳。職業は……」


 なつきさんのは、以下のとおり。


 *****

 なつきさん 年齢:16

 職業:僧侶/モンク 『戦闘高僧』

 髪色:黒 目の色:青 髪型:ポニーテール 長さは首より少し長いぐらい。小さな赤いリボンで結わいている。

 身長は、僕より頭一つ小さい。150~155cmぐらいだろうか。 お胸が大きいらしい……装備の上からはそうは見えないけど……

 言葉使いは少し荒い。 性格は、明朗快活ってやつだと思う。

 武器は、モンクなので、あのグローブなのかな?

 防具は、白い胸当(ブレストプレート)の上に白地に赤の装飾が入っている服を着用。 巫女さんの服をラフにしたものをイメージしてもらうとわかりやすいかな? 肩から先は何もなく、手に赤のフィンガーグローブ。

 赤いミニスカートにスカート丈までの黒スパッツ。膝上までの白いニーソックスに赤い装飾の入った白のブーツ。長さは、すねぐらいまでのもの。 こちらはこちらで、動き回るたびにスカートがめくりあがり、ドキッとさせられる。 スパッツはいてるんだけどね。

 *****


 二人の関係は、年の離れた姉妹って感じかな? 



 そして、トリを務める僕なんだけど……


「えっと、名前は、天魔です。 歳は18で……」


「えー! あたしより年上なの!?」 「あら、すみません。 私もなっちゃんより若いと思ってました」


 えー、えー、そうでしょうとも。 二人の接し方から、そう思われてることはうすうすと感じていましたよ。


「18歳です。 職業は、ベーシックが、魔術師で……あの、二人がいってた、アッパーって、メイジとかサモナーとかの上級職のことですか?」 と質問してみる。


 二人は「そうだ」 と肯定する。 じゃあ、目指す職を伝えればいいかな?


「アッパーは、エンチャンターを予定してます。 武器とかは二人とも知ってるし……ほかに何をいえばいいですか?」


 その一言が地雷だった。 女の子は、ゴシップ好きだと知ったのは、後日のこと。 僕は、飢えた獣に餌をちらつかせてしまったのだった。


「今、付き合ってる人はいますか?」 「何人と付き合った? あ、やっぱり0?」 えっと、あの……


「18歳だと、今は学生さんですか?」 「免許は? 免許、取った?」 えーっと……


「好きな食べ物はなんですか?」 「犬と猫、どっちが好き?」 その……


「家族構成、聞いてもいいですか?」 「なんで『DFA』始めたの?」 ……


 僕は、手を前に出し、二人に静止の合図を送る。 ハッとする二人。


 仕方ない、全部の質問に答えよう。 えっと……


「今、付き合ってる人はいません。 過去の記憶がないので、付き合った人数は、わかりません。 病院で生活してるので、学校には通ってません。 免許も持っていません。 病院食以外だと、ファーストフードのハンバーガーが好きです。 犬も猫も実物を見たことがないので、わかりません。 両親は、いませんし、兄弟もいません。 『DFA』を始めたきっかけは……」


 僕がスラスラと答えるたびに、二人のテンションはどんどん下がり、歩くスピードも遅くなっていく。 そして、両親がいない、のあたりで、完全に足を止めた。


 あー、やってしまった!


「あ、あの……?」 恐る恐る声をかける僕。 すると、


「ごめん。 無神経だった。 ほんとにごめん、なさい……」 と本気でへこんでる、なつきさん。


「つらいことを聞いてしまって、ごめんなさいね。 その若さで、大変だったでしょうに」 と、顔を真っ赤にし、僕に抱き着いてくるミカさん。


「いえ、その……」 こういう時は、どうすればいいんだろうか……僕には参考になる記憶もないし……そうだ!


「あの、悪いと思っているなら……僕に今後、そういう態度をとるの……やめてもらえませんか?」


 そういって、抱き着いていたミカさんに離れるよう動作で促す。 ミカさんは、素直に従って距離を少しだけとってくれた。


 これが正解かはわからない、でも、僕の正直な気持ちを、希望を伝えてみよう。


「僕、ここでの生活を楽しいものにしたいんです。 でも、その……腫れ物にさわるように接されると、僕も、その……萎縮してしまうというか……うまく、まとまってなくて、すみません」



 僕は友達を作りに来た、と、この場でいえば、二人は友達になろう、と答えてくれるだろう。


 でも、友達ってそういうものなのだろうか? 僕は違うと思う。


 多分だけど、お互いの身の上で、重たい話があっても、一緒になって笑い飛ばしてくれるような、そんな関係なんだと思う。


 僕は、二人と友達になりたい。 だから……



「わかった。 今後、こういうのは、なしね。 でも、あたしのことはおねーちゃんだと思ってくれていいから!」 といって笑うなつきさん。


「そうですね。 では、私は、お母さん……ではなく、やはり、少し歳の離れた姉ということで」 お母さんの下りで少し顔を曇らせ、そう訂正するミカさん。


「いや、なつきさんは、僕より年下なんだから、妹でしょう」 と言い返す僕。


「えー! 頼れないお兄ちゃんとかいらないし。 じゃあ、双子は? 天魔のほうが数秒だけ早く生まれたの。 これなら、書類上は天魔がお兄ちゃんだけど、あたしのほうがしっかりしてても、おかしくないじゃん?」 なんだ、その理屈は……


「これ、飲まないなら、あたしも天魔の希望、飲んであげなーい」 そういって、歩き始めるなつきさん。


「わかりました。 それでいいですよ、もう……」 そういいながら、追いかける僕。


「フフフ」と笑って、楽しそうに続くミカさん。


 よかった。 どうやら、うまくやっていけそうだ。 そんな気がした。


「あ、あと、あたしのことは、なっちゃんね! なつきさんとか、学校の先生みたいでヤダ。 お決まりのボケのなっちゃんさんも禁止!」 そういって、走り出すなつきさ……なっちゃん。


「学校の先生って、なっちゃんのこと、なつきさんって呼ぶの?」 追いかけながらそう尋ねる。


「そうなのよ。 しかも、その先生がね……」


 ミカさんの気配が後から続く。 にっこり笑いながら僕たちのことを見ているんだろうな、きっと。


「あらあら、困った弟と妹ですね」 とかいってさ。

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