8話 コーディネートは こーでないと
「キマイラコーデが気に入らない!」
女の子が開口一番に発した言葉だ。
「身だしなみに気を使うのも冒険者の立派な務めですよ?」
女の人も遠回しに責めてくる。
*****
キマイラ = ざっくりいうと、多種多様な動物の掛け合わせ合成モンスター。 頭がいっぱいでケンカにならないんだろうか?
*****
つまり、僕の装備に統一感がなく、それが気にくわない、と。
確かに強い装備を組み合わせただけだと滑稽な格好になるだろうな、とは僕にも予測はつく。 でも、僕に拒否権とか、そういうのないんでしょうか?
そこから女性二人によるコーディネート談義。 僕はすみに座ってただただ待っている状態だ。 はい、拒否権はありませんでした。
「どんな感じでいく?」 「あまり明るい色は避けた方がいいと思います」 「顔、地味だもんね」 「そこまではいってませんよ?」 「今の装備は?」 「全部、却下です」 「だよねー。 ないない」 「ないですね」
僕の装備品(僕の顔のこともあったけど……)のこととはわかりつつ、傷つく言葉がいっぱいです……
「マントはゆずれないかな。 肩幅狭いし、首とか肩にも筋肉ないし、隠したい」 「賛同します。 靴はブーツとして、ノーマル幅でどうでしょう?」 「そうねー、足にも肉ないからピッチリだと貧相になりそう。 幅広だと足とられて転びそうだし、いいんじゃない?」
今度は直球です……このあともかなりの直球が来ましたが、僕の脳ミソが認識することを拒否したので覚えていません……
「マント、いい色あったかなー?」 「合わせたいですね」 「そうね」
「ねー!座ってるだけならこっちで座っててよ」
女の子の呼びかけに無言で従う僕。
僕はゾンビのようにズルズルと近づき、指示された場所に後ろ向きに腰をおろすと、体育座りになり頭を隠して少し泣きました。
「緑に黒に茶色に青か……やっぱり青だな」 「あら? いいんですか?」 「いーのいーの。 餞別ってことで」 「では、私もこのブーツを」 「わー! これいいじゃない!」
すごく楽しそうです……
あ、他の冒険者さんたちが来るみたいです。 人数 3。
僕のスキルの中に『気配察知』『敵意感知』というものがあり、常時発動させています。 当然LVMAXです。
後ろを向いていてもスキルのお陰である程度の動作などはわかるみたいです。 新発見です。
あ、向こうも気づいたようです。 道の片側に寄り、少し警戒しているみたいです。
開けた場所に出てくると、少し遠巻きにこちらを、警戒しているようです。
「「こんにちはー」」
女性二人が明るくあいさつしました。 仮パーティーとはいえ、僕もメンバーの1人。 あいさつをしないわけにはいきません。
ギギギと、首だけ回して、にこやかにあいさつをします。
「コンニチハー」
何か驚かせてしまったのでしょうか。 3人はあいさつを返すと足早にこの場を去っていきました。
僕のこの針のむしろ状態はいつ終わるのでしょうか……
どのくらい時間がたったのか。
開けた場所の半分が衣服でおおわれ、きれいに畳まれていたであろうそれらは、今は乱雑に放置されている。
「「決まったー!」」
女性二人がハイタッチをしています。 僕もようやく解放されるときが来たようです。
「『システム移動器』を出してください」 女の人に言われるがまま、指示に従います。
僕が取り出した『システム移動器』は地面の上に置かれ、その上に衣服やマント、ブーツが重ねられていきます。
「「オープン イベントリ トランスファー」」
すると、なんということでしょう。 先ほど重ねられた衣服類はすべて『システム移動器』の中に収納されてしまいました。
「ほら、今度はこれ持って」 女の子に渡されるがまま、自分の『システム移動器』を受けとります。
「あたしのあとに続いてね。 オープン イクイップ」 「おーぷん いくいっぷ」
唱えると女の子は僕の人差し指をもぎ取るようにつかみ、なにやら僕の方の画面を操作しているようです。
「できた!」
その言葉と同時に僕の全身は光につつまれ、今までの装備品が彼女たちの選んだものへと変更されていきました。
「まあ、素敵じゃないですか!」
「あたしたちが選んだんだもの、当然よね」
自画自賛……
「ほら! いつまでも呆けてないで、自分でも見てみなさいよ!」
そういわれて、我にかえる僕。 自分でも姿を確認してみる。
濃い青のショートマント。
長袖の黒いインナーシャツは肌にぴったりとくっつくタイプ。
その上には淡い水色のチュニック。 少しダボッとしたそれは胸元が大きく開いており、そこにサイコロペンダントがちょうど収まる。 丈の長さは腰より少しだけ長い。
濃いベージュのボトムは少しピッチリしていた。
焦げ茶色のブーツは所々に装飾がついていて、つま先や足首、かかと回りに補強が入っているみたいだ。
黒のフィンガーグローブは右手だけ。 インナーシャツを上から被せることで手首の露出を防いでいる。
右手に持っているのは頭に赤い宝石が埋め込まれた祭杖。
左手には手甲(ガントレット)の上に少しだけはみ出るサイズの盾がついており、日常生活にもあまり支障を感じさせないような造りだった。
う、うわぁ……
「う、うー」
言葉にならない。 頭の中が熱くなる。
現実では病院着しか来ていない僕。 『DFA』でも衣服に興味はなかった。
それでも今の僕の姿は、一人前の魔術師として人々の目に映ることがわかる。 何より僕なんかのために真剣に選んでくれた二人の誠意が嬉しかった。
「か、買い取ります! 買い取らせてください! 足りない分は、あとで必ず払いますから」
これにどう答えればいいかわからない僕は、買い取りを提案することしかできなかった。
「気に入ってくれたなら、それが一番です。 お代はいりませんよ」 と女の人。
「さっきもいったけど、餞別よ。 もしかしたら、ちょっと長い付き合いになるかもしれないから」
え? どういう意味だろう。
「ね、有名人の天魔くん」
女の子は悪戯な笑顔を浮かべた。 女の人は、その名前を聞いて、ただただ驚いているようだった。
そして、僕は……なぜか気を失った……
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