7話 女性冒険者さんと僕

『DFA』3日目



 頭がボーッとする。


 状況を整理してみよう。 昨日、僕は街の外の草原でLV上げに勤しんでいた。 そして、疲れて寝てしまった……


 オーケー、ここまではいい。 問題は……


「なんで縄でぐるぐる巻きにされてるんだー!?」


 固い地面の上に縄でぐるぐる巻きのうえ転がされた僕は、思わず絶叫した。



「あ、ようやく起きたわね」


 見知らぬ女の子が僕を見下ろして話しかけてくる。 状況が理解できない。 僕はこの娘に捕縛されているのだろうか?


「あ、おはようございます。よく眠れましたか?」


 後ろから別の声がする。 僕は身動き取れない体で必死に後ろを見ようとする。


 声の主は、そんな僕を迂回して先ほどの女の子の横にやって来た。


(うわー、今度は女の人だ……って、余計に状況が飲み込めない)


 考えられることは……所持品を狙っての物取りだ……


 僕は新人冒険者だ。 とすれば、新人キャンペーンで装備ガチャを引いている。 価値のあるものとしたらこれしかない!



「あの……何がお望みでしょう? 僕の持ってるSSR装備ですか?」


 怖いけど勇気を振り絞って聞いてみた。 すると……


「あのね、あたしたちがそんなもん必要にしてる風に見える?」 と女の子が答えた。


 パッと見た限りでは二人とも冒険者だろう。 使い込まれた装備品の感じから街にいた先輩冒険者さんよりもキャリアを感じる。


 装備品の物取りではない? となると……ダメだ、見当がつかない。


 困っていると女の人が助け船を出してくれた。


「私たちはあれの調査に来たんです」 そういって、少し先を指差す。


 縄みのむしの状態から頭を起こし必死に指差した方向を見ると……


「ひどい……誰がこんなことを……」


 きれいな草原にクレーターが2つ。 辺りの木はなぎ倒され無惨な姿をそこかしこにさらしていた。



「あんただ! あ・ん・た!!」


 そういうと女の子は身動き取れない僕のお腹に蹴りを入れた!


「ガハァッ……ゴホゴホ」


 突然の攻撃に思わず咳き込んでしまう。 攻撃自体は非常に軽いものだった。


 *****


 縄をほどいてもらった僕は地面の上に正座させられている。


 目の前には腕組みをしてこちらを見下ろしている女の子。 そして、少し離れた倒木に腰を掛けてこちらの様子を伺っている女の人。



「で、あんた。 ここで何してたわけ?」


 目の前の女の子が威圧的に質問してくる。 ここは素直にすべて答えよう。


「LV上げです」 そう、そのために来たんだ。


「で、今LVいくつ?」 相変わらずの調子の女の子。


「3です」 モンスター退治はじめて30分でなりましたけどね。


「でしょうね……あたしたちが知りたいのは、なんで3LVになったのに、こんなところでLV上げを続けていたのかということよ!」


 不思議なことを聞くなー。


「LVをあげたいから」 当然の理由ですよ。


「だから! ここって3LVで打ち止めで、そのあとはいくら倒しても経験値入らないでしょ。 町人でさえ楽勝なモンスターを冒険者さまがなんで延々と狩り続けて、揚げ句の果てに隕石召喚(メテオストライク)なんて大魔法を2回も使ったのか。 その理由が知りたいのよ!」 そういって、ビシッとこちらに指差す。


 ん、打ち止め? 何が? 経験値??


「な…何だってー!?」 本日2度目の絶叫。 そして……


「僕の12時間……返して……」 涙目で正座したまま前に突っ伏したのだった。


「だって……誰も教えてくれなかったじゃないか……シクシク……」


 涙で前が見えない。 おかしいとは思ったさ。 でも、他の狩り場、知らないし……誰かもっと早く止めてよ……


 そんな傷心の僕を尻目に少し離れたところで二人は会話をしている。


「調査終了ね。 オチは初心者が初心者にありがちなミスを街警戒規模でやらかした、ってとこ。 やー、楽に終わって良かった良かったー」 女の子は早くもお帰りモードのようだ。


「そうですね。 時間も早いし、洞窟クリアまでお付き合いしましょうか」 と女の人。


 ……洞窟?


「えー? 面倒。 場所教えるだけじゃダメなの?」


「あそこでこのクラスの破壊活動をされると、後続の新人さんがクエスト受けられなくなっちゃいますし」


「ですよねー。 はぁ、仕方ないなー」


 二人の会話は終了したみたいだ。 こちらに来る。



「聞こえてたでしょ。 いくわよ」 そういって女の子は、スタスタと歩き始める。


「ついてきてくださいね」 と女の人。


 まずい。 遅れたらなに言われるかわからないぞ。


 そう思ったんだけど、足に力が入らず立ち上がることができない。


「まっ、待って……足が……しびれて……」


 我ながら情けない。 でも、はじめてのパーティープレイができる……僕は今、冒険者してるぞー!


「おそーい!早くしなさいよ!」 「遅すぎる殿方も女性には嫌われますよ?」


 まだ見ぬ洞窟という響きが僕をいっそう興奮させるのであった。


 *****


 僕たちは草原から森に向かって歩いている。 目的の「試練の洞窟」は森の中にあるらしい。



 んー。 何か話題はないかな。 こういう時って何を話せばいいんだろう?


 僕は乏しい知識を総動員して話すべき話題を探していた。


 すると、先頭を歩いていた女の子がこちらを見ずに話しかけてくる。


「あんたってさ、ホント間抜けよね。 ミョン太の話、聞いてなかったの?」


 初対面なのに間抜け呼ばわりですか……ひどくない?


 おっと、せっかく向こうから話を振ってくれたんだし、会話を続けなきゃ。



「えっと、途中まではちゃんと聞いてたんですけど、言動にイライラしちゃって……」


 嘘じゃないよ。 最初の悪口とかは聞いてたし。 5LVまであげたら依頼とかね。


「うそー? ミョン太、かわいいじゃない!」


「そうです! かわいいんです!!」


 女の子は振り向き驚嘆の声を上げる。 女の人は……あれ? なんか怒ってる?


「ミョンちゃんに謝ってください!」


 そういうと足を止め、『システム移動器』についてるあの不可思議生物のストラップをこちらに差し出し、謝罪を要求された。


「あ、えっと……ごめんなさい」 素直に謝る僕。


「許して上げるミョン」


 女の人はストラップを口元の高さまで持っていくと不可思議生物の声真似をして、それから、柔らかく微笑んだ。


 うわー! うわー!! 『冒険者協会』の女性ゲームマスターさんもそうだったけど、女の人ってすごくドキドキさせられる。



「で、話もろくに聞かずに延々とモンスター狩ってたわけだ。 やっぱり間抜けじゃない」


 ぐっ、何も言い返せない……


「どのくらい戦ってたんですか?」


 女の人が少し振り向き、そう聞いてくる。 いかん! またドキドキしてきた。


「えーっと……多分なんですけど、12時間ぐらいだと思います」


「それ、ホントなの? あ、じゃあ、トイレはどうしてたのよ?」


 なんでトイレを気にするかな……


「我慢してたらスキルを覚えたみたいで……あとあそこ、見える範囲全部のモンスター倒すと再発生(リスポーン)まで少し間が空くんですよ。 その隙にささっと」


「そっか。 聖者に韋駄天だもんね。 かなりスキル覚えたんじゃない?」


 聖者? あ、僕の装備のことか! よく見てるなー。 素直に感心する。 あ、会話会話。


「ファンファーレがうるさかったです」 そういうと女の子は苦笑しながら同意してくれた。



 ちなみに今の隊列は、女の子が先頭少し右寄り。 女の人が真ん中で少し左寄り。 そして、最後尾は僕。 二人の間を歩いている。


 ちょうど森の中に入ったがどうやら道は続いているみたいだ。 隊列に変更もなかった。



「食べ物はどうしてたんですか?」 女の人が間髪入れず次の話題を提供してくれる。


「あ、オレンジ持ってたんでそれを食べました。 そのあとは、その……草を食べてみたら『悪食』ってスキルを覚えちゃって。 そしたら草でもお腹が膨れるようになったんです」


 そういえばお腹空いたな。 草でも食べようか?


「食べ物で思い出しました! あなた、お腹空いてるんじゃないですか? ご飯にしましょう」


 そういうと女の人は自分の『システム移動器』からサンドイッチを取り出し歩きながら食べ始めた。


 あれ? 座って食べるとかじゃないの?



 前を見ると女の子もサンドイッチを取り出している。 道の中心に向けて半身になりながら歩いているので、ここからでも動作が良くわかる。


 包みから取り出したサンドイッチを半分にちぎると、片方をまた包みに戻した。


 そして、僕の方に包んだサンドイッチをポーンと投げてくれる。 僕はあわててそれを受け取る。 くれるのかな?


「あたしの半分あげる。 まさか草の方がいいとか言わないわよね?」


 そういいながらニッコリ笑うと、半分になったサンドイッチを口に押し込み、また前を向いて歩き続けた。



 なんだかんだで、この女の子、優しいよなー。 お腹蹴られた時も全然痛くなかったし、森に入ってからは道に飛び出てる枝は全部折りながら進んでる。


 これって、あとから来るであろう新人さんたちのために道の整備をしてあげてるんだよね、きっと。


 あ、もらったサンドイッチ、早く食べよう。


 うん、おいしい! この雰囲気がそうさせてるのかもしれないけどホントにおいしいよ。



 あれ? 女の人はまだ包みを開けてる。 さっきも開けてたような…


 あ、二口で食べた!? で、またサンドイッチを取り出す、と……うん。 なるべく見ないようにしよう。


 食べてるところを見るのはマナー違反だもんね……胸焼けしそうだし……




 しばらく進むと少し開けた場所に出た。 すると、そこで女の子が立ち止まった。


「ここなら追い越せるもんね。 さて、後輩のためにちょっとレクチャーしてあげようかな?」


 そういうと僕の方に近づいてくる。


 な、何が始まるんでしょうか??


 ビビりまくる僕。


 雰囲気で察したのか、「あぁ!」と一言呟き、手をポンと合わせると女の人まで近づいてきた。


 いったい何が始まるというんだー!

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