6話 草原の死闘
「はぁー」
池のふちに座り、深くため息をつく僕。
ちゃんと不意打(アンブッシュ)ちちゃんに注意してもらっていたのにやってしまった。
(システム関連のチュートリアルは、スキップ禁止って言われたのに……)
わかってることは、『冒険者協会』から依頼が来ること。そのために5LVまでレベルを上げる必要があること。
そのあとも、あの不可思議生物が何か話してたのに……
「はぁー」(今日はもう離脱(ログアウト)してしまおうか……)
その時、遠くから「あのー」という、か細い声が聞こえた気がした。聞き覚えのある声な気が……
キョロキョロと辺りを見回す僕。 すると……
「また、あんちゃんか……」
頭を片手で抑え、苦虫を100匹ほどかみつぶした表情をしたオレンジ屋のおじさんが立ってました……
「ど、どうも……」
片手をあげ、フレンドリー?なあいさつを返す僕。
「いったよな! なんの恨みがあって営業妨害するんだって。 しかも、今日の今日だぞ? あんちゃんの頭ン中にはオレンジでも詰まってるのか? んー?」
まあ、一時的にオレンジっぽいものが頭の中に詰まってたかもしれないけど、それを言ったらまた怒らせちゃうよね……
「い、いえ、今回はお客としてきたんですよ。 オレンジ1つください」
そう、実は『冒険者協会』でのチュートリアル完了後に女性ゲームマスターさんから支度金として少しお金をもらっていたのだ。
装備に関しては装備ガチャ分があるし、当面の生活費に全部当てて問題ないだろう。
「そうかい、ならいいけどよ…… はいよ、2つで5銅貨だ」
そういって、おじさんはオレンジを1つ、僕に渡してきた。
「え? 注文は1つなんですけど……」
「わかってるよ。 だから、1つ渡してるだろ。 で、お代は2つ分の5銅貨」
そういいながら手を出してくる。
もしかしてあれかな? 営業妨害の詫び料的な……計算ができないキャラクター設定、とかはないと思うし。
お金を出し渋り、悩んでいる僕を見て、おじさんはため息をつきながら教えてくれた。
「今、あんちゃんが注文したのが1つ。 で、その前に、『池から拾って勝手に持って行ったオレンジの分』で2つ!」
あー! あれか。 いや、投げたからいらないのかと思って……ません。 払います払います。
「まいど。 一応、銅貨1枚はおまけしてるんだぜ? 池に落としちまって悪かったとは思ってるからよ」
そういって、顔を赤らめると、そっぽを向きながら鼻をかくおじさん。
いやー、僕、そういう趣味ないんで、そういう反応は結構です。
完全に無視して買ったオレンジを『システム移動器』にしまっていた僕に、おじさんはさらにアドバイスもくれた。
「あんちゃんも冒険者なら、ひとまずLV上げに行けばいいだろ。 何をすればいいかわからないんなら、モンスターと戦ってる同業に聞けばいいじゃねーか。 格上なら経験済み、同格でもそこでLV上げしてるなら、依頼とやらの件、知ってるはずだろ」
おじさん、NPCなのに物知りさんでした。
というわけで、場所を移し、噴水広場につながっている街道への出入り口前に来ている僕。
ついにモンスターと対決する時が来ました! では、その前に装備のお披露目いってみますか!
*****
「杖:星屑の杖(SSR)」
物理攻撃力:0
魔法攻撃力:20000
すべての魔法系アビリティ レベル+1
1日に1回、隕石召喚(メテオストライク)が使用可能
「盾:妖精の小盾(SSR)」
物理防御力:1000
魔法防御力:4000
すべての回避系スキル レベル+1
1日に1回、魔法抵抗(カウンターマジック)が使用可能
「頭:聖者の冠(SSR)」
物理防御力:1000
魔法防御力:4000
すべてのスキル取得に経験値ボーナス100%
(他装備との重複可。同一のみ不可)
「体:星屑のローブ(SSR)」
物理防御力:2500
魔法防御力:2500
すべての魔法系アビリティ レベル+1
無属性の攻撃を50%減
「足:韋駄天の靴(SSR)」
物理防御力:3000
魔法防御力:2000
すべての移動系スキル レベル+2
すべてのスキル取得に経験値ボーナス25%
「アクセサリー1:運命のサイコロ(-)」
物理防御力:0
魔法防御力:0
-
(正20面体のサイコロ、まさかのアクセサリー扱いでした)
*****
すごいぞ、僕。 強い!!
と、いいたいところなんだけど、今いる初心者冒険者さんは、最低でもこの半分(確定SSR 2個のみ)、運の良い人は同等かそれ以上(SSR 5個か6個)の攻撃力・防御力だったりします……
装備可能か所の数が同じだから、差があまりないのですよ。
しかし!100里の道も一歩から。50LVになった時が楽しみではないですか。
待っていろモンスター! 僕がすべて狩りつくしてあげますからね!!
安全な街の中で、僕はまだ見ぬモンスターに勝ち誇るのでした。
*****
どうしてこうなった? どうしてこうなった?
僕は、追われていた。 僕に。 しかも、たくさんの僕に。
「責任者ー! 出てこーい!! このゲーム、壊れてるぞーー!!!」
僕の怒声が明るくなり始めた空にむなしく響いた………
原因があるはずだ。 今日の僕の行動の中に。 思い出すんだ、今日の出来事を!
僕は、走りながら、草原に来てからのことを思い出すことにした……
*****
草原についてから、モンスター狩りを始めて30分ぐらいで3LVになった。 また、歩く・走るなどのスキルをいくつか獲得した。
スキル関連のインフォメーション時には、ファンファーレが鳴る。 結構、うるさい……
そのあとで、運命のサイコロを使うと1回の行動でスキルを獲得することができると気づいた。
同様に1回の「合言葉」で1LV上がるみたいで、僕は10回の行動でスキルレベルをMAXにすることができた。 レベルアップ時にエクセレントと出るのが少しイラッとするけど。
スキップとかストップ&ゴー、後ろ歩きや、3歩進んで2歩下がる、でも試したから間違いない。
混戦になり、間違って冒険者さんに『魔法矢(マジックアロー)』をぶつけたけど、無傷だった。 それで、プレイヤーの魔法はプレイヤーを傷つけないことに気づいた。 何回も試したから間違いない。
冒険者さんが背後攻撃(バックアタック)されそうだったので、『隕石召喚(メテオストライク)』を使ったら、感謝されるどころか、逃げられた。
そのあと、モンスターと戦いながら『隕石召喚(メテオストライク)』でできたクレーターを埋めることにした。 きれいな草原にこんな穴を作ってしまった罪悪感からだ。
遅々として進まないので二つ目の魔法『魔物召喚(サモンモンスター)』を試してみた。
巨大蟻(ジャイアントアント)が土を運ぶのが上手かったので、MP切れまで連発し、切れたらモンスターを狩り、回復したら召喚する、の流れを繰り返した。 そこで、召喚したモンスターは、10分で消えることを知った。
何度か繰り返していると、スキル『魔力回復』『魔力超回復』がLVMAXになり、『魔物召喚(サモンモンスター)』のMP消費量を回復量が上回った。
とりあえずクレーターが半分埋まるくらいまで巨大蟻(ジャイアントアント)を召喚してみたら、回りの冒険者さんがすべていなくなっていた。
クレーターが、とりあえず埋まったので、スキル上げに力を入れることにした。
10個のスキルLVをMAXにするとスキル経験値に10%のボーナスがもらえることを知り、さらに熱中する。 この辺りから夜になり、モンスターの姿がよく見えないので相手にしないことにした。
LvMAX100個を達成し、すべてのボーナスを取得したところで運命のサイコロを使えば10回でレベルMAXになることを思い出し、今までの努力はなんだったのかと少しだけ泣いた。
そのあと、共通装備のスキル経験値ボーナスも無用の長物であることに気づき、さらに泣いた。
泣いたらお腹が空いたのでスキル『悪食』を使っていろいろ試してみた。
葉っぱ、草、土、木の枝、小石、いずれも食べると少しお腹が膨れたが、様々なステータス異常にかかるので、緊急手段にすることにした。
なお、今現在発生しているステータス異常は、毒・麻痺・混乱である。
この草原のステータス異常は、LV3以上の耐性で無効化できるので、毒と麻痺の影響は受けていない。
戦闘開始から、12時間。 辺りが明るくなりはじめた。 未だに3LVのままだったので、モンスター狩りを再開することにした。
なぜかモンスターは1匹もおらず、草原には……僕が大量にいた……
*****
原因は、結局わからなかったけど、自力でなんとかするしかない。
この状況で、ほかの冒険者さんが来たら、僕を含め、すべての僕が狩られてしまうかもしれないからだ!
幸いなことに僕の攻撃は、僕のSSR防具の物理防御を越えることはなかった。
さらにいえば、僕はなぜか魔法を使ってこないから、僕が僕にやられることはない。
だから、縦横無尽に走り回り、視界に入るすべての僕を引き連れて、僕は第一クレーターのある方へ移動する。
さすがに地形を変える魔法を無傷な草原で使う気にはならなかったのだ。
さあ、僕たちよ。覚悟はいいかい? 僕はできている。
「オープン! アイテム!! 隕石召喚(メテオストライク)!!!」
ターゲットは僕自身。 プレイヤーの魔法は、プレイヤーを傷つけない!
ほかの僕がプレイヤーなら無傷だろうが、プレイヤーの僕は、僕だけだ。
僕が苦労して埋めた第一クレーターの土がすべて吹き飛び、辺りの木々がへし折れる音がする。
雷をまとめて落としたような轟音がさらに音量を上げて迫ってくる……
でも、ワサワサと僕を取り囲んでいる僕たちには全く影響がない。
なぜなら、ゲームだからだ! 影響範囲内の敵に魔法によるダメージを与える。
副次的な演出ではダメージを与えることも受けることもない!
だ……だから……僕にも影響はない……はず……平気平気……
……やっぱり、こわいー!
僕は目をギュッとつぶり、耳を両手でふさぎ、半べそをかく。
その場にしゃがみこみ審判の時を待つ。 ひたすら待つ。
隕石が僕に直撃する瞬間を!
どれくらいたっただろう。 僕は意を決して、立ち上がり、辺りを見回す……
そこにはもはや……動く僕はいなかった……僕以外は。
「ふはははははー!大勝利ー! 残念だったね、僕たちよ。 生き残ったのは、僕だ!」
僕は勝った! 「僕生き残りサバイバルマッチ」に勝利したのだ。
しかし、浮かれていてはダメだ。次の闘いに備えなくてはならない。
いつ、第二、第三の僕が大量に現れるかわからないのだから。
「とりあえず、腹ごしらえだね」
そう思い、雑草をまとめて引きちぎり、すべてを口に入れ、味わうことなく飲みくだす。
「さあ、来るならこい!」
(パッパパー!パパパ パッパパー!!)
(エクセレント! 天魔は、スキル『毒物耐性』のレベルが上がった。スキル『毒物耐性』がレベル10になりました)
(パッパパー!パパパ パッパパー!!)
(エクセレント! 天魔は、スキル『麻痺耐性』のレベルが上がった。スキル『麻痺耐性』がレベル9になりました)
(パッパパー!パパパ パッパパー!!)
(エクセレント! 天魔は、スキル『混乱耐性』のレベルが上がった。スキル『混乱耐性』がレベル3になりました)
(パッパパー!パパパ パッパパー!!)
(天魔は、スキル『睡眠耐性』を覚えた)
あれ?変だぞ……急に……眠……く……
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