3話 新人冒険者 天魔 VS ベテラン冒険者

 広場から若干離れた場所に陣取る僕。


(広場は噴水池と街の出入口を結んでいるから、今いるところは、街の出入口側になるのかな)


 念のため、支給品である魔術師ローブのフードを目深にかぶっておく。 顔が知られると、いろいろまずい気がするし。


 そして、安全なところから今回の地獄絵……ではなく新人勧誘を観察し、脳内でシミュレーションを行ってみた。 うん、大丈夫なはず……多分……



 なお、新人勧誘の周期は、2時間に1回のペースのようで、もう少しで僕がゲームを開始してから6時間が経過しようとしています……


 お腹が空きました……そろそろご飯が食べたいです……



 ……時間のあるうちに『システム移動器』をポケットから取り出し、手順の最終確認をしておこうかな。


 ①『システム移動器』のホーム → ②メールのアイコン → ③運営からのお知らせ → ④装備ガチャのページに移動 → ⑤希望するガチャのページを表示



 あ、そうそう。 運営さんは、国営とあって太っ腹なので、なんと20連分の『虹色ダイア(ゲーム内通貨)』を配布しています。



 ちなみに選べる種類は……


 *****


 剣士(攻撃職)・盾騎士(防御職)・僧侶(回復職)・魔術師(魔法職)の各職業に共通装備で5種類。


 各職業のものは、当該職に必要なステータスが増強されたり、上級職の『専属アビリティ』が使える。


 共通装備は、増強されるステータスは若干低くなるが、どの職でも使える『スキル』にボーナスがある。


 ※排出される装備は店売りのモノと比べ高性能なモノとなる。


 ※装備ガチャには1回ごとの『単発』と10回まとめて引き、単発と比べると特典がついている通称『10連』がある。


(ネットデータベースより抜粋)


 *****



 僕は、魔術師と共通の10連を、それぞれ1回ずつ引く予定。



 などと時間を潰しているうちに新人冒険者さんが集まったみたいだ。 僕を入れて20名弱。


 作戦決行!と心のなかで叫びつつ、フードがずれないように頭を抑えながら、集団の右後方に合流する。



 そして、ハッキリ、シャキッとした声で集団に呼び掛ける。 なるべく目立たないように、先輩冒険者さんからの視線がほかの人で隠れるような位置で。


「みなさん、チュートリアルを突破したということは、次は装備ガチャですね。 でも、チュートリアルをスキップしてしまった人もいるんじゃないですか?」


 ……僕のことですけどね……


「実は、不確定のオカルト情報なんですが、装備ガチャを多人数で同時に引くと、SSRの排出率が上がる、という話があるんです」


 ……ウソです。そんな話は聞いたことがありません……


「今から装備ガチャの引き方をお伝えするので、みなさんで試してみませんか?」


 ざわざわする新人冒険者さんたち。


 大丈夫、答えは聞いてない。 強行突破しますよー。


「では、いきますよ。 まずはポケットの中にある『システム移動器』を出してください」


 ワタワタと服のポケットを探す集団。 なかなか面白い光景です。


「ホーム画面からメールのアイコンを選択」


 後ろからだと、全員が『システム移動器』を操作しているように見えるけど……


「運営からのお知らせメールを選択してください。 装備ガチャのページに移動する、と書かれていますね?」


 すると、「おう」とか「はい」とか「うん」などなど、思い思いの返事が帰ってくる。


 返事のない人、大丈夫ですかー?


「希望するガチャのページを表示して待っててくださいね。 まだの人は隣の人に教わってくださーい」



 大丈夫そうかな? では、次に行きますよ!



「表示されてるページを見てください。 『1回』と『10回』の2つが選択できそうですね。 あ、まだ選択しないでくださいよー!」


 さすがに慣れないことをすると疲れる。 お腹も空いたし…… でも、ここでミスをするわけにはいかない。



「そこで見学されてる先輩冒険者のみなさーん!!」


 今度は新人勧誘のためにスタンバってる先輩たちに声をかける。


 距離があるので、さらに大きな声にする必要があるのがキツイです。


 フードは決して上げず、隙間から向こうの様子をうかがう僕。


 先輩たちは、ざわざわモード パート2、ですね。


「すみません、私もタイミング合わせたいので、みなさんにカウントダウンをお願いしたいんですけど、よろしいですか?」


 なお、今回の一人称は、「私」でお送りしております。


 さあ、先輩方、乗ってくきてくださいね。 こういうノリ、好きでしょう?



「おう!任せなー、新人!!」


 そういって、右腕で力こぶをつくり左手でピシャリと叩くおにーさんが1人。


 声のする方をそーっと覗くと……そこには……弓おにーさんがいました……


 僕の脳裏にカエル笑顔と斧おねーさんに吹き飛ばされている時の弓おにーさんの記憶がよみがえる。


 仕方ない、背に腹は変えられないというし、お願いしちゃおう。



「ありがとうございます! お願いします!」


 僕の声に明後日の方向に親指を立てて答える弓おにーさん。


 そっちじゃないですよ……大丈夫かな?



「んじゃ、いくぜー! 10! …9! …8!」


 弓を右手に持ち、大袈裟に振り回す弓おにーさん。


 途中からは、回りの野次馬冒険者さんや町人さんも混ざっての大合唱。


 今のうちだ!


『……ロール ア ダイス……』


 回りには聞こえないよう、胸のアクセサリー 正20面体のサイコロに向かって「合言葉」を唱える……


 淡い紫色の光がサイコロから発せられる。


 行ける!


 ……カウントダウンは続く……


「…4! …3! …2!」


 僕はフライングして『10連』を選択!


 ガチャを回してる人にしか見えない演出が開始される。


 しばらくして、演出が終わる。 他の人は演出中かな?


 こちらは……


 1つ目! 虹の宝箱!

 2つ目! 虹の宝箱!!

 3つ目! 虹の宝箱!!!


 僕はそこまでを確認すると、震える手で右上に新たに表示された『スキップ』を選択し、今回のガチャを強制終了する。


 急いで2回目の共通装備ガチャページを開く。 んー、うまく操作できない……落ち着けー!



 前方の新人冒険者さんたちは、本日、何度目かの歓声&ガックリポーズを披露してくれている。


 悪いけど、それに付き合うわけにはいかないんですよ、今回は。



「先輩! 続いて2回目の音頭、お願いします!!」


 間髪入れずに叫ぶ僕。


 おう! 任せな! と、またまた明後日の方向に親指を立てる弓おにーさん……


 カウントダウンが行われているのを尻目に、僕はようやく2回目の『10連』をスタートする。


 早く演出、終われー!



 すると、勧誘冒険者さんたちの中で、別のざわめきが起こる。


「ワールドチャットに……」


「少なくとも4つは……」


「あり得ないだろ……見間違いじゃ……」


「『天』に悪魔の『魔』で……」


 ワールドチャット? 何か見過ごしてたのかな?? でも、途中で止まるわけにはいかない!



 カウントダウンは5カウントを残す段階。 僕は演出がようやく終わり、虹の宝箱とご対面中。


 勧誘冒険者さんは……?



 あ、走り出した! しかも、かなりの人数だ!!


 6個目の虹の宝箱が確認できたところで『スキップ』を選択する僕。


 ヤバい、早く離脱(ログアウト)しないと……



「スキップ操作したローブの奴が怪しいぞ! 回り込んで囲め!」


 !?


 そうか、他の新人さんはまだ『10連』選択前だ。 カウントダウンが終わってない。 僕だけが違う動きをしてしまったんだ……


 あの距離から動きの違いを見極めるのか。 先輩冒険者さん、恐るべし!


 でも、こちらも抜かりはない。 離脱(ログアウト)操作は、確認済みなんですよ!


 僕は『システム移動器』に向かって叫ぶ。


「オープン システム! ログアウト!!」


 僕の体が光に包まれはじめる。


 僕の体を光が包みきると同時に、最奥では弓おにーさんがカウントダウンを完了。 僕の目前には勧誘冒険者さんたちの手が迫り……そこで僕の意識は途切れたのだった……

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