炎の魔人がやって来た
それからの数日間はシオリンガルドでの視察や調査を繰り返した。
現在ではもう調査は終わり、改築・修復工事の準備に入っているところだ。
今日も話し合いの為にゴンのところに向かおうとしていた時だった。
「ヒデオ様……来客ですっ……」
何故かライルの顔色が悪い。
「顔色悪いぞ……何か変なやつでも来たのか?」
「変なやつといいますか……例の炎の魔人、アグニ殿がいらっしゃったのですが……その、お会いすればわかるかと……」
「わかった。玉座の間に案内したら後は休んでていいから」
「うっ……ありがとうございます……」
魔王っぽいマントを纏って玉座の間へ。
移動中、ソフィアが話しかけて来た。
「あんなライルさん初めて見ましたね!」
「うん……何だろう、やっぱり人に迷惑をかける様なやつなのか?」
以前炎の魔人アグニの使いだという精霊がやって来た時のとこだ。
今度は直接会いに来いとアグニに伝える様に頼むと、精霊シニは俺の事を「寛大だ」と言った。
そしてアグニと直接会ったライルがあの調子だ……一体どんなやつなのか。
玉座の間につき、偉そうに座ってアグニを待つ。
やがてライルに連れられてアグニが入って来た。
全身に炎を纏った、人型の精霊だ。
なるほど『炎の魔人』と言われるのも頷ける。でも……。
「何か急に室温が上がってないか?」
「う~、英雄さん、暑いです~」
そう、アグニが部屋に入った瞬間に玉座の間の温度が一気に上がったのだ。
「うっ……」
退室しようとしたライルが耐え切れずに膝をついた。
「おい、ライル!大丈夫か!」
「初めまして新しい魔王様、私は炎の魔人をやって……」
「暑い暑い!ちょっと待ってくれ!暑い!」
炎の魔人は少し悲しそうに俯いた。
室内の温度が少しだけ下がる。
「そうですよね、私、いつもそうなんです……すぐに部屋の温度を上げちゃって……人さまに迷惑をかけてばかりで……」
そこでアグニが顔を上げると、再び室内の温度が上がった。
「しかし!いつの日か!必ずや新しい魔王様のお役に立てればと!」
「わかったわかった!わかったから落ち着いてくれ!熱くなったらだめだ!」
気付けばライルが床に倒れていた。
ソフィアも「もうだめです~」と言いながら床にぽとり。
「はあ……やっぱりだめでしたか……」
「やっぱりってことは、こうなることがわかってたから精霊だけを挨拶に来させたんだな」
「そうなんです……私は炎の魔人。身に纏う炎は、普段は熱などのない見かけだけのものなのですが、気持ちが昂ると途端に熱を帯び、皆さんの知る炎と同じ性質を持ってしまうのです」
そう言われてよく見ると、絨毯なんかも焦げている。
アグニは冷静になって気持ちが落ち着いたのか、部屋の室温が少しずつ下がり始めた。
「シニに伝言を頼んだ通り、私は今後魔族の皆様と親しくなりたいと考えております。この様な登場の仕方にはなりましたが、魔王ヒデオ様。今後とも我ら炎の精霊をよろしくお願いいたします」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」
「それでは失礼します」
そして炎の魔人はテレポートですぐに消えてしまった。
とりあえずライルとソフィアを部屋に運んで寝かせておく。
俺もかなり汗をかいたので一度風呂に入る。
それからライルとソフィアも回復した夕食時のことだった。
「大体魔人たちのオチみたいなものはわかったから、待ってちゃだめだ。こちらから会いに行こうと思う」
「さすがはヒデオ様です……そうした方が待っているよりも被害は少ないかと」
「このままだとあいつらが挨拶に来るたびにルーンガルド民に犠牲が出るからな」
例えば氷の魔人が会いに来ると凍死するやつが出たりとかそんな感じだろう。
わざわざ会いに行く必要はないと言えばそれまでだけど……。
天気にも影響を与えるっていうなら、直接会って挨拶をしておいた方が何かといい気もするんだよな。
「会いに行くメンバーも色んな耐性を持ってる人の方がいいでしょうね!」
もはやリカがミーティングにいても誰もツッコまないことに驚きだ。
「ゴンザレス、お前は耐性はどんなのを持ってるんだ?」
「恥ずかしながらどの耐性も満遍なくといった感じで……スキルレベルマックスのものはございません」
ゴンザレスは『萌え萌え大運動会』の際の大活躍によって幹部になってもらっていて、ミーティングにも参加してもらっている。
ちなみに、範囲攻撃スキルのターゲットも人間に変更済みだ。
当然本来は簡単に出来ることじゃないけど、ソフィアの力を濫用した形。
これであの『│聖なる
「いや、それだけあれば充分だとは思う。魔人のところに行く際には一緒に来てもらえるか?」
「はっ。ありがたき幸せ」
ソフィアはもうしょうがないにしても、今回ライルを連れて行くのは無理だ。
だからある程度、魔王ランド全般に関する知識を持っている人が欲しい。
詳しくは聞いていないが、ゴンザレスは何でも『勇者』という職業になる資格を持っているらしい。
その関係で、魔王ランド各地へ旅をした経験が少しだけあるそうだ。
少なくとも俺よりは知識があるだろう。
「後はリカとホネゾウだな。ホネゾウはいけるか?」
「ええ、大丈夫でやんすよ~」
ホネゾウは耐性を持ってないが、骨なので死ぬことはない。
「私には聞かないのかしら!」
「え……逆に何か予定でもあるのか?」
大体いつも俺の部屋にいるし、友達もいないのに。
というのはわざわざ口に出したりはしない。
「ないわ!」
「よしじゃあ決定で。後はエレナもついて来てくれるか?」
エレナは支援魔法で各耐性を上げることが出来る。
俺もそうだしホネゾウも耐性があるというわけじゃない。
今回は同行してもらった方がいいだろう。
「は、はいっ……大丈夫です」
「じゃあメンバーは決定だ。各魔人の所在地はわからないから、それぞれ魔人の使いが来たらそいつに案内してもらう形にする。遠征メンバーはいつでも出れるように準備しておいてくれ」
そのミーティングから数日後。
シオリンガルドにてゴンやシャドウたちと工事を手伝っていた時だった。
「うわっ……」
「兄さん、揺れてる揺れてる!」
俺が魔王ランドに来てから初めての地震が起きた。
「何でえ、地面が揺れてやがるぜ。敵襲か?」
「怖いでござるぅ~シャド子殿ぅ~」
ゴンやシャドウは地震という言葉すら知らないようだ。
他の近くにいるモンスターたちもかなり動揺している様子。
俺は小声でソフィアに聞いてみた。
「ソフィア、もしかして魔王ランドには地震って起きないのか?」
「どうでしょう……地震を起こすスキルなら存在はしますが……」
顎に指を当てて考え込むソフィア。
そういえばこいつが何でも知ってるのはスキル関連だけだったか。
やがて揺れが収まり、皆が少しずつ落ち着きを取り戻した。
怯えて俺の側に寄って来ていた詩織が辺りを見回しながら呟く。
「ようやく収まった……?」
「みたいだな……だからそろそろ離してくれ」
詩織はずっと俺のマントを掴んでいた。
「なっ……ち、近寄らないでよ変態!」
「お前が近寄って来たんだろうが!」
「もう!変な勘違いしないでよね!」
「何をどう勘違いするんだよ!」
「英雄さん!これがツンデレですよ、ツンデレ!」
そりゃ俺もツンデレってのが何かは知ってるけど、これがそうなのか?
少し違うような気がするぞ。
もはや地震に関係なく騒がしくやっていると、後ろから声がかけられた。
「ヒデオ様、お取込み中申し訳ありません」
ライルだ。
ルーンガルドに待機してもらっていたから、何か用事があってテレポートしてきたのだろう。
「いや、全然取り込んでないけど……どうした?」
「氷の魔人の使いがサンハイム森本を訪問して来ました」
「おっようやく来たか。すぐに行くから、ライルは遠征メンバーに声をかけておいてくれ」
「かしこまりました」
「シャドウ、俺はルーンガルドに戻るから引き続きシオリンガルドの警戒を頼む。後ゴンにもよろしくな」
「御意」
ゴンは、今は少し離れて建物の修復を監督している。
「詩織、さぼらないでちゃんとゴン子たちを手伝えよ。ゴンの言うこともちゃんと聞くんだぞ」
「わかってるわよ!さっさと行ってきたら?」
「はいはい」
「詩織ちゃん、またね~」
俺の代わりにソフィアが挨拶をする。
サンハイム森本に戻ると、早速玉座の間へ。
偉そうに椅子に座って氷の精霊を待つ。
やがて、ライルの案内で水色の火の玉が入って来た。
シニの色違いみたいで不思議な感じだ。
「お初にお目にかかります、魔王様。私は氷の魔人の使いであり精霊、シニと申します」
「シニ?炎の精霊もシニって名前だったけど」
「既に炎の精霊が来ておりましたか。シニと言うのは各魔人の使いを総称するようなものとお考え下さい」
「でも、記憶とかを共有してるわけじゃないんだろ?」
「はい、どちらかと言えば個が曖昧で……わざわざシニたちを個別に分ける必要がないという感じです。ですから、例えばあるシニが別のシニのおやつを勝手に食べたとしても怒ることなどはございません。『あ~食べちゃったか~まあいっか~』みたいな感じでございます」
「そ、そうか……それは便利だな」
そもそもこいつらおやつとか食べるんだろうか。
「それはさておき、本日はご挨拶に伺いました。炎の精霊からも似た様なことをお聞きになったかもしれませんが、我らが主である氷の魔人フィアーは今後魔族と親しくすることをお考えです」
「確かに炎の精霊も似た様な事を言ってたよ」
「そういう事ですので、今後ともよろしくお願いいたします。それでは……」
「ああ、ちょっと待ってくれ。こっちから直接会いに行くから、氷の魔人のところまで案内してくれないか」
「えっ……よろしいのですか?」
「会ったことがないのに仲良くするってのも変な話だろ」
「何と寛大な……かしこまりました。すぐにご案内いたしましょう」
話がまとまると、遠征メンバーに声をかけに行ったライルが戻るのを待つ。
メンバーが揃ってから、俺たちは氷の魔人フィアーの下へと向かった。
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