恋するシャドウはお年頃

 ゴンを始めとしたダークドワーフ一族に声をかけて、俺たちは詩織が拠点にしている街「シオリンガルド」へとやって来た。

 ちなみに、既に登録済みなのでテレポートで一瞬だ。


 もう一つちなむと、シオリンガルドというダサい名前はソフィアが付けた。


 シオリンガルドはまだまだ廃墟だった頃の面影が残っていて、どことなく不気味な雰囲気が漂っている。


「で、どこから手伝ったらいいんだ?」

「全部よ」

「丸投げかよ……さすがに全部は無理だ」

「じゃあ屋敷だけでも改築してよ」


 あっさり引き下がったから半分は冗談だったんだろう。

 屋敷というのは、ルーンガルドでいうサンハイム森本。

 魔王の居住する建物、家の事だ。


「いいんだけどさ、技術とかを教えておきたいし、そっちのダークドワーフたちを連れて来てくれないか?」

「いいわよ」


 下見がてら、俺たちは詩織の屋敷にお邪魔した。

 ちなみにこちら側のメンバーは俺、ソフィア、ゴン、シャドウだ。


 一応シオリンガルドでは現時点での最前線に当たるため、警戒役も含めてシャドウについて来てもらっている。


 詩織は紅茶を持ってきてからテーブルに座った。


「今召集をかけたから、少しだけ待ってて」

「中は結構綺麗なんだな」

「まあ、掃除したからね……」

「シャドウ、そう言えばこっちの影系一族に挨拶はしたのか?」

「まだでござる。前は結局シオリ殿とローズ殿にだけ会って帰ったでござるから」

「詩織、何だったらついでにこっちの影系一族の首領にも会わせてくれよ」

「別にいいけど」


 詩織は執事代わりの吸血鬼に影の首領を呼ぶよう命令をした。

 どうやら幹部構成はルーンガルドと違うようだけど、同じ部分もあるらしい。


 ここまででも、隠密仕事が影系一族だし、執事は吸血鬼みたいだ。

 キングやホネゾウ、サフランやエレナの様な魔族は見当たらないが。


 ここで俺は思うところがあり、シャドウとゴンには退室してもらった。


「で、詩織。街の修復やら改築を手伝うにあたってそろそろ聞いておかないといけないことがあるんだけど」

「なに?」

「お前のスキル構成とか能力ってどうなってるんだ?」


 これは重要だ。

 例えば俺なら『英雄プロージョン』があるから、姿を隠しつつ一方的に範囲攻撃が撃てる、ルーンガルド南門の要塞化はかなり有効だった。


 でも、詩織は確かネクロマンサーのスキルレベルを上げていたはずだ。

 俺みたいに強力な範囲攻撃がないなら、要塞を作ったところで焼石に水。


 チート系主人公対策としては、別な何かを考えた方がいいということ。

 すると、ソフィアがじっと詩織を見ながら言った。


「見たところ、詩織ちゃんにはチート系スキルがないようですが……」

「えっ……まじで?」

「私のスキル構成は、耐久力系のやつを全部とネクロマンサーのやつを全部よ」


 これは、耐久力を上げるパッシブスキルを一通りと、ネクロマンサー系統のスキルをレベルマックスにしているという意味だろう。


「なるほど。そう来ましたか……」

「チート系スキルを本当に持ってないんだな。ソフィア、どういうことだ?」


 話しづらい内容なのか、ソフィアは俺を部屋の隅に呼んだ。


「転生を担当する神は、その神格によって付与できるチート能力の種類や数に制限があることは前にお話ししましたよね」


 そう言えば、神々の間での決まり事なんかは、簡単に俺たちには話しちゃいけないという暗黙の了解があるって話をしてたな。


「ああ」

「これを、神々が神格によってポイントを与えらえる、と考えればわかりやすいかもしれません」

「ふむ」

「まず、チート系スキルの付与に使うポイントを100ポイントとします。すると、ローズが使うことの出来るポイントも100です。下っ端なので」

「じゃあ下っ端女神だとチート系スキルは一つしか付与出来ないってことになるな……まあ、ローズがそうだってのは以前にも聞いたけど」

「そうです。そして、ポイントは何もチート系スキルだけに使わなくてもいいんです。具体的に言えば、チート能力を付与せずに、最初から何かの既存スキルをレベルマックスにしたり、とかですね。詩織ちゃんの場合、耐久力を上げるパッシブスキルとネクロマンサー系統のスキルレベルを最初からマックスにしてあげたんだと思います。この場合ポイントを50と50で合計100使っているという認識です」

「なるほどな。まあ耐久力だけを上げて生存率を高めても、チート系を倒せないんじゃ意味ないから、ローズなりに考えたんだろうな」


 ソフィアはそこで一つため息を吐きながら言った。


「そうでしょうね……まあそこまで考えるくらいなら、そもそも神格の高い神の手が空くまで待って欲しかったのですが……」

「それもそうだな。しかし、よくそれでこれまで耐えて来れたな……」

「ネクロマンサーは魔物を操ったり、│状態異常デバフ攻撃に特化した系統です。それで倒せるチート系だけを倒して、他は敢えて見逃してルーンガルドに流したのでしょう」

「まあチート系にしても、廃墟と大して変わらないこの街を荒らす意味もないだろうからな。相手にされなければそのままルーンガルドに来るってわけか」


 大体の事情は把握出来たので、俺たちは詩織のところに戻った。


「何話してたのよ?」

「ちょっとな……今後の対策とか」

「ふうん?まあいいわ」


 ゴンとシャドウを呼び戻し、会議を始める。


「ヒデオの旦那、話は終わったんで?」

「ああ、ごめんな。それで、今後のシオリンガルドについてなんだけど……」


 まずは詩織の要望通り屋敷の改築を手伝う。

 それからは話し合いの結果、街の外に罠を設置する方向になった。


 まずは街を囲む壁を修復し、その後街の外をぐるりと一周するように、例えば毒の沼など状態異常を引き起こすものを設置するということだ。


 こうすれば倒せなくとも、この街を襲撃したがるチート系は格段に減るはず。

 入って来たとしても最初からある程度弱っているので、戦いやすい。


 もちろん罠の設置にはネクロマンサーである詩織の力が不可欠だ。

 ちゃんと自分で仕事をする余地も残しておかないとな。


 俺は、話し合いを切り上げるべく言った。


「そんなわけで、屋敷が終われば壁の修復だ」

「今日のところはこの屋敷と、修復箇所の視察で終わりでさあ」


 そのゴンの言葉が終わると同時に、扉をノックする音が部屋に響く。

 どうやら、シオリンガルドのダークドワーフと影の首領が到着したようだ。


「入っていいわよ」

「どうもどうもでござる」

「なっ……」


 思わず言葉を失ってしまった。

 詩織は魔物の幹部に女性、もしくはメスを選ぶようにしたとは聞いていたが。


 そこには、女性のダークドワーフと……。

 シャドウが頭にリボンの様な飾りをつけただけの生物がいた。


「紹介するわ。ゴン子とシャド子よ」

「詩織……名前ぐらいちゃんとつけてやれよ」


 新しい拠点に発生したばかりのモンスターたちには名前がない。

 そこで詩織が大半のモンスターを命名したらしいが。


「名前なんてわかりやすければいいじゃない」

「たしかにめちゃめちゃわかりやすいけどさ、それはかわいそうだろ」

「あら、私は気に入っておりますわよ、ヒデオ様。あっ初めまして」

「私も同じく気に入っているでござる。初めまして」

「まじかお前ら」


 まあ、本人たちが気に入っているならいいか……。


「初めましてでさあ。これからよろしくお願いしやすぜ」

「は、ははは、初めましてでご、ごごご、ごじゃるう……」

 

 ゴンはそうでもないが、シャドウはガチガチに緊張している。


「何でお前そんなに緊張してんだよ」

「ほわっ!?べべべべ別に緊張してないでござりますよ!?あ~今日もいい天気でござるなあ!!切腹っ!!あ、拙者影でござった!!ほほほ!!」


 どうしたんだこいつ……ツッコミどころが多すぎる。

 ソフィアが耳打ちをしてきた。


「英雄さん……多分ですけど、シャドウさん的に好みの女の子……といっていいのかわかりませんが……だったんじゃないですかね?」

「まさかシャドウの初恋……!?」


 たしかに、シャドウが自分好みだという他生物の女の子と接している時とは全然態度が違う。

 俺は、ちょっとからかってみることにした。


「おいおいシャドウ、何だよ一目惚れか~?お前も隅に置けねえな~」

「ななな、何を言ってるでござるか?ああっ!!それよりヒデオ殿!そろそろおやつの時間ではござらぬか!?拙者、いつも通りブラックコーヒーが飲みたいでござるなあ!!ほっほっほ!」


 世の中には女の子の前でカッコつけるために、なぜか普段飲まないブラックコーヒーを無理して飲むやつがいる。

 大人だぜアピールなのだろうか。


「じゃあ俺たちがおやつを用意するから、ゴンとシャドウは雑談でもして親睦を深めとけよ」

「あら、兄さんにしては悪くない提案ね」

「ふふふ、それじゃ後は若い人たちだけでごゆっくり~」


 お見合いかよ、と言いたくなるソフィアの言葉を残して俺たちは部屋を出た。

 そして数分後、おやつを取って戻ってきたんだけど、雑談は全くはかどっていなかった。

 

 ゴンは元々寡黙だし、ゴン子も似たようなものだろう。

 普段はこういう時、シャドウがムードメーカーになるのだが。


 俺たちは、近くに座って少し様子を見てみることにする。

 

 どうにかシャドウが話を切り出した。

 

「ごご、ご趣味の方は?……でごじゃる」

「影分身の方を少々……」

「おおっ、影分身でござるか!?奇遇でござるなあ!拙者もでござるよ!」


 どうやら本当に趣味が合うらしく、シャドウはテンションが上がっている。


「分身する時の、あの『ひゅっ』という感覚がたまらんでござるよな!」

「いえ、そんなことはまったく……」

「そ、そうでござるか……」


 好きなところに全く共感してもらえず、落ち込むシャドウ。

 おいおい、全然脈なしじゃねえか。


 まあ、今日のところはこんなもんか……。


「ズズッ……ぶほっ!!ヒデオ殿、これはブラックコーヒーではござらぬか!?」

「お前が飲みたいって言ったんだろうが!」


 それから屋敷の内部と壁を視察し、その日はルーンガルドに帰った。

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