十人十色の魔人たち
シニの案内で氷の魔人の住処へと到着。
「薄々そうじゃないかとは思ってたけど……寒いな」
フィアーがいるという洞窟はあちこちに氷が出来る程温度が低かった。
小さな池には氷が張られ、天井からはつららが伸びている。
そんな風景を眺めながらリカが言った。
「そうね!耐性の強い私でも少し寒いわ!」
「フィアーがアグニと同じ性質なら、気持ちが昂る度に寒くなってるんだろうな」
「ううう、もうポケットから出られないです……!」
最近になって、魔王っぽいマントに胸ポケットを追加してもらった。
もちろんソフィア用だ。
胸ポケットというには少し位置が上にある気もするが。
「ゴンザレスは平気か?」
「はい。何しろアムスブルクに居る時は常に上半身裸でしたので……」
ルーンガルドに来てからもしばらくはそうだった様な……。
ゴンザレスは、今は俺がプレゼントした騎士っぽいマントを着ている。
「おおお~!中々骨身に染みる寒さでやんすなあ~!」
ホネゾウは「いやお前骨しかないだろ」とツッコんで欲しいのだろうが、そうはいかない。
ここはあえてスルーだ。
念のため遠征メンバーに厚着をさせておいて正解だったな。
とはいえ、完全にこの寒さを凌げるわけでもない。
「よしエレナ、そろそろ支援魔法を頼む」
「はいっ」
エレナの支援魔法で全員の氷凍耐性を上げる。
これである程度寒さには強くなった。
各自の準備が完了したのを確認してからさらに奥へと進んで行く。
やがて他よりも少し広い部屋の様な空間にたどり着いた。
その空間の奥の方には、冷気を身に纏った青白い何かが立っている。
目の前まで行くと人型のそれが語り出した。
「ようこそ新たなる魔王、ヒデオ殿。私が氷の魔人フィアーだ」
「初めましてフィアー。よろしくな」
とにかくフィアーの気持ちを昂らせないように、手早く挨拶だけして帰ろう。
そう思った矢先だった。
「な、何と……すでに私の名前を覚えているだけでは飽きたらず、気さくで礼儀正しいだと……!?何と素晴らしい御仁か!!」
何やらほとんどこじつけに近い形でフィアーが勝手に感動し始めた。
どこからか、空間に冷たい空気が入り込んでくる。
「待て待てフィアー落ち着け!」
「おおおお!!ヒデオ殿万歳いいいいぃぃぃぃ!!!!」
「やっぱりこうなるのかよ!」
部屋はどんどん冷えていき、もはや生物が暮らせる環境ではなくなっていく。
氷凍耐性やエレナの支援魔法がなければすでに立っていられないだろう。
「うっ……うう……」
この中で一番寒さに関する耐性の低いエレナはちょっとまずそうだ。
「氷の魔人!落ち着きなさい!」
「おいやめろリカ、魔人を攻撃すんな」
相変わらず攻撃力が低すぎて全くダメージが入っていない。
しかし、攻撃することそのものには意味があったようだ。
「……はっ!これはこれは申し訳ない。私としたことがハッハッハ」
「ハッハッハじゃねえよ……」
フィアーが我に返った。
ようやく空間の冷えも収まり、少しずつ温度が元に戻っていく。
今度こそ挨拶をしようと口を開きかけたその時だった。
「っっっっ!!またか」
再び地震が起きた。
しかもシオリンガルドで感じた地震よりも揺れが強い。
震源地が近いのか、震度自体が高いのか。
地震は程なく止んだ。
「この前もあったわよね、地震……」
リカはあの時、エレナやアリスと俺の部屋にいたはずだ。
あの地震はどうやらルーンガルドでも感じることが出来たらしい。
「エレナ、大丈夫か?」
「は、はい……何とか……」
エレナは地面にへたり込んでいた。
まあ、地震を知らなかったのならこうなるのも無理はない。
もしかしてこれも魔人の仕業なのか?
だとしたら、俺が魔王ランドに来てから今まで地震が起きなかったことにも納得がいく。
フィアーは何か知らないだろうか。
「なあフィアー、地震を起こしたりする魔人っているのか?」
「……?地震とは何だ?」
「さっきみたいに地面が揺れる現象のことだよ」
「ああ、あれか。あれは地の魔人の仕業だな」
「地の魔人?」
「うむ。名をゲンブという。巨大な亀の姿をしている魔人でな」
魔人はそれぞれに形が違うようだ。
アグニは人に近い形をしていたが、フィアーにはそもそも決まった形がない。
フィアーは最初こそ人に近い形をしていたが、今はシニに近い。
丸いぼんやりとしたオーラの様なものの周りを、氷の塵が漂っている。
「そいつがさっきの地震を起こしているのか?」
「恐らくそうだが……しかし、さすがにゲンブとてそう簡単に地震を起こしたりはしないだろう。何か余程の事情があるのかもしれぬ」
フィアーはそう言うが、今までのパターンからして気持ちが昂ると地震が起きるとかそういうことだろう。
むしろこの頻度で済んでいることが奇跡だと思うんだけど。
それからは挨拶を済ませて早々に帰還。
その後、魔人の住処への訪問はどれも似たようなものだった。
『風の魔人ルドラの住処にて』
「ヒデオ君最っ高イエエエエエエエエイ!!!!!!!!」
吹き荒れる嵐。
エレナが必死にスカートを抑えている。
「きゃあっ!!」
「ちょっとヒデオ!!どこ見てんのよあんた!!」
「いや違う!!不可抗力だ!!」
「きゃ~!!英雄さ~~~~~~ん!!」
「ソフィアアアアァァァァッ!!!!」
うっかりポケットから出ていたソフィアが飛ばされていった。
「うわ~!!身体が風でバラバラでやんすよ~!!」
「すまん!!今はホネゾウに構ってる暇はないんだ!!」
自分でも何気にひどいことを言っている気がするが、実際その通りだ。
その後、救出されたソフィアは目が回り過ぎてダウンしていた。
『雷の魔人の住処にて』
「ヒデオ殿は最高じゃあああああ!!!!」
俺たちがいる空間に凄まじい稲妻が迸る。
「うおおおおおお!!当たる当たる!!」
「『正義の献身』!!」
「お~助かった。さすがはリカ……」
「しびれるでやんす~!!!!」
「ホネゾウーーーーーーッ!!!!」
「ぐわああああーーーーーーーっ!!」
「ゴンザレスーーーーーッ!!!!」
尊い犠牲を出したものの、何とか稲妻は収まった。
気付けばエレナが俺にしがみついて震えているといういつか見たパターン。
このパターンの時はいつもエレナのたわわなアレが俺の腕に当たっている。
その様子を見て、リカが親指を立てながら言った。
「ヒデオ!ナイスラッキースケベ!」
「ラッキースケベ言うな!」
エレナが今にも倒れそうなほどに赤面していたのもお約束だ。
そしてとある日のルーンガルド、サンハイム森本の俺の部屋にて。
「何であいつらはあんなに感動しやすいんだよ……」
ベッドに寝転びながら、俺は誰にともなくそう呟く。
リカがベッドの前で仁王立ちになって言った。
「だらしないわね!私はまだまだいけるわよ!」
「そりゃあお前は全部無効化出来るからな」
遠征メンバー一同は、疲れ果てて俺の部屋でぐったりとしていた。
ゴンザレスだけは一人背筋を伸ばしてシャキッとしているが。
「しかしヒデオ様、もう山場は越えたかと。今まで訪問した魔人を除けば、後はそんなに派手な事象を引き起こす者はいなかったはずです」
「そうなのか?ゴンザレス」
「ええ、私も全ての魔人を知っているわけではありませんが」
「そっか、じゃあ後は楽……」
そう言いかけたところで、再び地面が揺れる。
氷の魔人のところで感じたものよりも強い。
「うぅ……」
エレナはまだ地震に慣れないようで、怖がっている。
しかしこの揺れ……やっぱり、日に日に震度自体が高くなっているのか?
フィアーは、この揺れは地の魔人ゲンブが起こしていると言っていた。
もしそれが本当ならこのまま放置しておくとまずそうだ。
「ゴンザレス、こちらから地の魔人を訪ねたいけど場所がわからない……どうすればいいと思う?」
「他の魔人に聞くのが良いでしょう。場所がわかりづらければ、シニに案内してもらうことも出来るかもしれません」
「なるほど……じゃあ一番被害が少なくて済むルドラに頼みに行ってみるか」
翌日。俺たちは風の魔人ルドラの住処へとやって来た。
被害は最小限に抑えたいので、俺だけ中へと入って行く。
中に入って奥へ進むと、緑色の鳥の形をしたルドラが静かに佇んでいる。
どうでもいいけど、こいつら普段は何してるんだろうか。
「よう、ルドラ」
「やあヒデオ君じゃないか!遊びに来てくれたのか!」
本当に喜んでくれているようで、少しだけ風が巻き起こった。
「いや、悪いけど今日はそういうわけじゃなくてな。地の魔人の住処がどこにあるかを教えて欲しいんだ」
「なあんだ残念!でもそういうことならお安い御用さ!シニ、カモン!」
ルドラは、賑やかに自らの使いの精霊であるシニを呼び出した。
ワープでもして来たかのように、目の前に突然シニが現れる。
「お呼びでしょうか、ルドラ様」
「我が親友ヒデオをゲンブのところまで案内してあげて欲しいんだ」
「かしこまりました」
「ありがとう、ルドラ」
「いいってことよ!ゲンブにもよろしくな!」
外に出ると、なぜかリカがおにぎりを食べていた。
「英雄さ~ん!お帰りなさい!」
「遅かったわね!ヒデオ!お腹空いたから、エレナちゃんからおにぎりを貰ってしまったわ!」
「遅かったって……たかが数十分じゃねえか」
「お帰りなさいヒデオ様……ヒデオ様も食べますか?」
エレナが鞄からおにぎりを取り出してくれた。
「いや、俺はまだいいよ。ちゃんと後で昼飯時に貰うから」
「では私が……」
「えっ……お前っておにぎり食うのか?」
意外なことに、シニがおにぎりを食べたがっている。
「いえ……初めてみた食料です。だからこそ興味が沸きました」
「ふむ……魔人や精霊の生態は、しばらく封印されていたこともあって未だによくわかっていない部分が多いのですが……これは興味深いですな」
ゴンザレスが顎に手を当てて、興味深そうにシニを見つめていた。
「で、どうやって食べるんだ?」
「私にそのオニギリというものを近づけてくださいますか?」
目配せをすると、エレナはシニにおにぎりを近づけてくれた。
すると、どうやって食べているのか、少しずつ外側からおにぎりが削られて小さくなっていく。
「何じゃこりゃあ!」
「とても美味しいですね。ごちそうさまでした」
「結局どうやって食べたのかわからないですね……」
さすがのソフィアも不思議そうな顔をしている。
「他にはどんなものを食べたりするんだ?」
「割とどんなものでも食べますが」
「じゃあ何だあの……前にキングが食ってた……マウンテントード?の何たら焼きとかそういうのも?」
「いえ……さすがにゲテものはちょっと……」
「一応キングの好物だからゲテもの呼ばわりはやめてやれ」
選り好みはするのか……意外とグルメだったりするのかもな。
やがて雑談が終わると、俺たちはゲンブの住処に向かって移動を始めた。
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