魔物の国のアリス Part4
「ありがとうございます。今後ともごひいきにと、魔王様にお伝えください。世の中所詮コレですからね、コレ……イッヒッヒ……」
大人の負の一面を見せながら、山羊が二足歩行してるみたいな怖いモンスターさんが人差し指と親指で円を作りながらそんな事を言ってる。
私は、お使いで騎士っぽいマントを取りにギドさんのところに来ていた。
何でもヒデオ君がゴンザレスっていう、私と間違って連れて来られたおじさんにプレゼントするんだとか。
何であんなおじさんと私を間違えたんだろ……。失礼な話よね。
何で私がおつかいに来てるかと言うと、今日はエレナちゃんの村の人たちが開催するイベント本番とかで皆留守にしてるから、仕方がなく私が……というのと、ヒデオ君がゴンザレスさんを苦手だから私から渡して欲しいという二つの理由からだった。
別に私も得意なわけじゃないんだけど……あの人。
まあ、暇だし別にいいんだけどね。
「じゃあ行こっか、ジンちゃんは農耕地ってどこかわかる?」
「うむ、連れて行ってやろう」
ジンちゃんは私の護衛役をやってくれているから、最近はいつも一緒。
ヘルハウンドっていうモンスターの一種らしくて見た目は怖いんだけど、話してみるとかわいいし犬とそんなに変わらないんだよね。
農耕地に着くと、何だか狂ったように、というか狂った農具振り回しおじさんがいた。あれがゴンザレスさんだ。
今はヒデオ君からもらってるお給料的なお金もあるはずなのに、なぜかいつも上半身裸なのよね。
「こんにちはっ」
「邪魔するぞ」
私たちが挨拶をすると、ゴンザレスさんは手を止めてこちらを振り向いた。
「おお、これはこれは!ジン様とアリス様!こんな所に何の御用でしょうか?」
「ヒデオからお前に贈り物があるそうでな。それを届けに来た」
「何と!!??ヒデオ様から私に!?」
「はいっどうぞ」
騎士っぽいマントを手渡すと、おじさんはすごく体を震わせながら恐る恐る古代遺跡の財宝でも見つけたみたいに受け取る。どうでもいいけど早く服買って。
「おお……!!これは何と素敵なマント……触り心地の良い生地に触れると、表面を彩る紅がまるで私の心を燃やすかのように心に侵入してきますな」
突然どうしたんだろう……侵入してきますな、とか言われても。
「喜んでもらえてよかったですっそれじゃっ」
「ありがとうございました!お気をつけて!!!!」
まあ、悪い人じゃないんだよね。
ヒデオ君のために一生懸命働いてるところも何だか可愛い気もするし。
「あっ!そう言えばアリス様にジン様」
「どうしたんですか?」
「今日はダークエルフ村でイベントとのことで、皆様に何か差し入れをお届けしようかと思うのですが……何がよろしいでしょうか?」
「それならばイチゴがいいだろうな。とにかく大量に頼む」
「それはジンちゃんが食べたいだけでしょっ」
「かしこまりました。それでは後ほど!」
別にダークエルフ村のイベントに行こうとは思ってなかったんだけど、これで行かないといけなくなったかな……まあいっか。エレナちゃんやリカちゃんにも会えるし。
それから一度サンハイム森本の部屋に戻って来たのはいいけど、暇だから結局ゴロゴロするだけになっちゃう。
「暇だね~ジンちゃん、どこかお出かけする?」
「そう言えばヒデオが最近ドラゴンの里に行ったとか言っておったな。あそこに通ずるダンジョンは中々歯ごたえがあって楽しいぞ」
「え~でも危なくない?」
「戦う必要があるのは守護者くらいだし、守護者も俺一人ではさすがにきついが、適当にその辺のやつを連れていけば問題なく倒せる。俺をなめてはいかんぞ」
フンッと鼻を鳴らすジンちゃん。
そんな仕草もどう見ても犬でかわいい。
「じゃあシャドウさんに誰かいい人いないか聞いてみよっか」
というわけで、私とジンちゃんは南門の要塞で警戒に当たっているシャドウさんのところに遊びに来ていた。
「それならここにいるでござるよ」
「えっ、どこどこ?どこですか?」
「私たち以外には誰もいないようだが」
「…………」
それから少しの間場に静寂が訪れた後。
「はあっ!!!!」
シャドウさんがそう叫んだので、私とジンちゃんは身体がびくっと跳ねた。
突然シュッシュッと素手で素振りの様なものを始めるシャドウさん。
ジンちゃんが抗議の声をあげる。
「何だなんだ、突然どうしたのだ。びっくりするではないか」
「ダンジョンに一緒に行くのに拙者ほど適任はいないよアピールでござる」
「それなら素直にそう言えばいいではないか」
「拙者の中では割と直接言ったつもりだったのでござるが、お二人があまりにも本気で気付いてないっぽいのでつい、でござる」
「え~だってシャドウさんって監視の任務があるんでしょっ?」
「部下を配置しておいて危なくなれば、拙者なら一瞬で戻ってこれるでござる」
シャドウさんがそう言うなら大丈夫なんだよね?
「じゃあ、よろしくお願いしますっ」
「御意」
こうして、ダンジョンにシャドウさんがついて来てくれることになった。
そのまま準備の為にあれこれ買い物をしておこうと街に繰り出す。
ダンジョン探索って聞くと何だかワクワクしちゃっておやつを買い込んじゃうんだよね……何なんだろ。
「これはこれは皆さんお揃いで、どうしたんでさあ」
生活雑貨店「ゴブリンゴ」の店主ゴンさん。
「拙者ら、これからダンジョン探索に行くのでござる」
「それならあっしもついて行きまさあ。ヒデオの旦那もいねえし暇なもんで」
その後サンハイム森本に一旦帰るとホネゾウさんが。
「ダンジョン探索?あっしもついてくでやんすよ!」
それから出口に向かって歩いていると。
「俺も連れてってくれえ!」
「俺も俺も!」
「あっしも!」
「私も!」
何だか雪だるま式に一緒に行く人が増えて行き、ダンジョンに突入する頃には何かの旅行団体みたいになっていた。
「ギャオオオオオオオ!!!!ハッハッハァ!!!!……ありゃ、これは皆さん……どうしたんですかこんな大人数で」
「キングの部下か。なかなか勢いはあったが……40点だな」
ジンちゃんの採点が意外に厳しい……。
「いや~!あっしは心臓が飛び出そうでやんしたよ!」
「ホネゾウの旦那は骨しかないでさあ」
ゴンさんが珍しくツッコミ役になってる。
それから皆でわいわいダンジョンを歩いていると、途中の部屋で何だか変なのが出て来た。
「ココハ……ドコ……?ワタシハ……ソシテ、アナタハ……?」
「拙者でござるか?拙者はシャドウという隠密にござるよ」
「あっしはホネゾウでやんす!」
「む……私はジンだ。よろしく頼むぞ」
別に自己紹介をする場面じゃないんじゃないかな……。
ヒデオ君はいつもこんな人たちをまとめてるのね……本当にご苦労様。
一番大きな部屋に出ると、どう見ても怪しい岩の塊があった。
「あれは何でやんすかね?」
「ホネゾウさん、危ないから気を付けた方が……」
と私が注意したころにはもう遅かったみたい。
ホネゾウさんや色んなモンスターたちがその岩をぺたぺたと触ると、岩が浮いて組みあがり、一つの大きな岩男になった。
「ひゃ~!これ何でやんすか!」
「ホネゾウさん危ないっ!」
「アリス!お前は下がっていろ!」
岩男はたちまちホネゾウさんに向かって拳を振り下ろす。
ホネゾウさんの身体がバラバラになった。
「ホネゾウの旦那ーーーーっ!」
皆がホネゾウさんの名前を叫びながら岩男に攻撃を仕掛けていく。
そんな中。
「うひゃーーーーっ!身体がバラバラでやんすーーーっ!」
ひょうきんなホネゾウさんの声が響き渡った。
心配して損した……そういやこの人骨なんだ。
こういうのはヒデオ君じゃないと倒せないんだっけ……。
それか勇者だか聖騎士だか言う職業の人たちだったかな。
誰も死んだりすることなく守護者の一番強いっぽいのを倒すと、目的のドラゴンの里ってとこについた。
私たちは大自然の中、ピクニック気分で持ち寄ったお菓子を食べながらわいわいと話している。そこに一頭のドラゴンが通りかかった。
「あれえ?ヒデオもいないのにここにモンスターが集まってるなんて珍しいね。何かあったの?」
「これはこれはドラゴン殿。拙者、ヒデオ殿の右腕でシャドウと申す。今日はただ散歩しに来ただけでござるよ……突然のことで失礼を致した」
「全然大丈夫!僕はランドだよ。今日はヒデオはいないの?」
「ヒデオ殿なら今日は『萌え萌え大運動会』なるイベントでダークエルフ村に出張中でござるよ」
「え……?それほんと?」
「本当でござるよ」
何だかランドってドラゴンは真剣な顔になっている。
そんなに『萌え萌え大運動会』って名前が気になるのかな。気持ちはわかる。
「ごめんちょっと代表で三人くらい僕の背中に乗ってくれる?バハムート様に会って欲しいんだけど」
ランド君はそんなことを言いだした。
「えっ、いいんですか?私乗ってみたいですっ」
バハムートってのが何なのかは知らないけど、動物の背に乗って飛ぶの憧れだったのよね。ラッキ~!
「アリスが乗るなら護衛役である私も乗らねばな」
「では拙者も」
ジンちゃんとシャドウさんで三人ね。
ルーンガルドのみんなとはそこでお別れして、私たちはランド君の背に乗ってドラゴンの里を飛び回った。
ランド君は飛び立つ前に近くのドラゴンに何やら話しかけていたけど何だったんだろ。
「気持ちいいね~!ジンちゃん!」
「うむ。中々の眺めだな」
「拙者、高所恐怖症なのでござるよ……」
震えるシャドウさん。ちょっとかわいいかも。
そうやって飛んでいると、ランド君は私がずっと山と思っていたものに近付いていき、次第にそれがドラゴンだったことがわかる。
何これ……すっごい大きいんだけど……。
「初めて見るが……噂の通りでかいな」
「そ、そうでござるな……それより早く降りたいでござる……」
そして山の麓……じゃなくてバハムートさんの足元につくと、そこでランド君は私たちを降ろしてくれた。
バハムートさんが私たちを見下ろしながら、ゆっくりと低い威厳のある声でしゃべり始めた。
「ようこそ萌えの使徒たちよ……話は聞いておる……何でもダークエルフ村で『萌え萌え大運動会』なるものが開かれているそうだな……?」
えっ……何?何言ってんのこの人……萌えの使徒?
「そう聞いているでござるが……それがどうかしたのでござるか?」
すると途端に地震が起きた……と思ったけど違う……?
何かバハムートさんが気の様なものを発していて、それが里全体を揺らしているっぽい。
ちょっとちょっとやばくない?これ……怒ってんの?
「なぜだ……なぜそれを我らに教えぬ……ヒデオめ、謀ったか?大方“萌え”を独り占めする気であろう!!」
「お、落ち着くでござるよ」
“萌えの”独り占め……?ちょっと何言ってるかわかんないけどまずい。
バハムートさんめっちゃ怒ってる。
「お主ら……その“萌え”の祭典が催されている場所はわかるのか?」
「私とアリスならば何度か訪れているのでわかるぞ」
ジンちゃん……かわいいのにこういう時は落ち着いててかっこいい。
「私の背中に乗り、そこまで案内してくれぬか?」
「いいだろう」
えっ、今度は外をこの山みたいなバハムートさんの背中に乗って飛べるの?
ラッキ~!
それからバハムートさんはドラゴン族の幹部とかいうえらい人たちを呼んで、まるで一つの山脈みたいになって一斉に飛び立ち、イベント会場を目指した。
「“萌え”……」
「“萌え”の祭典……」
「そのキュンと来るような響き……クックック……まるで恋にも似ているではないか……」
…………。
何かこの人たち、別の意味で怖いんですけど……。
そうして私たちは、ドラゴン族の人たちを連れてダークエルフのイベント会場に到着した。
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