魔王ヒデオの誕生

「あと試していないスキルは『英雄の波動』なのですが、これは相手にかかっている特殊効果を打ち消すというスキルの性質上、特殊効果を持つチート系が現れるまでは試せません。気長にいい感じのチート系が現れるのを待ちましょう!」

「お、おう。それで俺はこれからどうすればいいんだ?」


 俺の質問に、女神は顎に指を当てて考え始めた。


「う~ん、そうですねえ。このままだと野営になりますから、住むところを確保するというのはどうでしょう?」

「おっ、それもそうだな。モンスターの数が減ってるならその辺に空き家とかもありそうだし。探してみるか」

「いやいや何言ってるんですか!魔王城に行きましょうよ!幹部たちを従えて魔王城を手に入れれば、住むところが手に入るだけでなく、新魔王誕生の噂を聞きつけた一部のチート系が向こうからやってきてくれますので、そこを叩きましょう」

「めちゃめちゃ便利だな。でも、さっきからモンスターたちの反応を見る限り、俺が魔王として受け入れられるのって難しいんじゃないかと思うんだけど」

「そこは力ずくで受け入れさせましょう!ささ、早く魔王城へ!」


 この強引で過激な感じにも慣れてきたので、言われた通り魔王城とやらへ向かうことに。


 魔王城はさっきから遠くに見えてはいるものの、実際に行くとなると結構遠い。小高い丘の上にあるから傾斜もあってしんどいし……。魔王軍の幹部とやらはこの坂はどうしてるんだ。飛ぶスキルとかないのかよ。


「そういえばさ、チートスキル以外の本来のスキルやパラメーターとかってどうなってるんだ?ほらあるだろ、異世界に来たらRPGみたいにレベルがあってスキルがあって、レベルに応じてステータスが上がって……みたいなの」

「気づいてしまいましたか……」


 ぱたぱた空中を泳ぎながら、一歩引く様にして驚く女神。リアクションのパターンが豊富なやつだ。


「やっぱり何かあるのか?チートスキルを与えた代わりに他のステータスがめちゃめちゃ低い、的なそういうの」

「いえ?特にありません。オーバーリアクションをしてみたかっただけです」

「何なんだよもう……」

「この世界だと本当は冒険者組合や神殿などに行き、専用のアイテムを使って自分のスキルやパラメーターを教えてもらう仕組みになっているのですが、英雄さんには私がいますから。特別に私が教えて差し上げましょう」


 そう言ってドヤ顔で胸を張るソフィア。それからどこから取り出したのか、先に五芒星のついた杖の様な物を取り出すと、それを一振り。俺の目の前にゲームのようなメニューウインドウ状になってステータスが表示される。


「英雄さんにはこういう形の方がわかりやすいですかね。まずこれがステータス一覧です」


 ソフィアの言う通りゲームみたいでわかりやすい。レベルは2。これはさっきモンスターを倒したからだろうか。ステータスはまだレベルのせいかどれも低くて普通なのかどうかもよくわからない。


「『スキル』というタブを押せばスキルが表示されますよ」


 押してみた。常時発動でステータスが上がる、いわゆるパッシブスキルがある他はそんなにスキルが表示されていない。アクティブなスキルは何か覚えるのに条件があるのだろう。


 まああんなに強力なスキルが使えるんならステータスさえ上げておけば問題ないかな……。


「俺はスキル以外普通ってことは、例えば攻撃力の高いチート系の攻撃もらったら一撃で死ぬってことか?」

「別に今のHPや防御力なら攻撃力のそこまで高くないチート系の一撃でも死にますね」

「死ぬのかよ!ちなみに、俺が死んだらどうなるんだ?」

「元の世界に戻すとなると英雄さんがやる気を出さなくなるので、一旦ゾウリムシ辺りに転生していただきます」

「ゾウリムシはきついな……」

「大丈夫です!そうならないよう私も全力でサポートしますから!頑張っていきましょー!」


 拳を高く振り上げるソフィア。元気だなコイツ……。

 しかし、そうなるとレベルが低い内の戦闘は先手必勝になるな。やられる前にやれってね。


「あ、じゃあその辺にいるモンスターを倒してレベルを上げればいいのか?」

「英雄さん……あなたは魔王ですよ?モンスターを倒してレベルが上がるわけないじゃないですか……」

「モンスターを痛めつけろだの言ってたやつにそれ言われるとむかつくな」


 まあ、レベルを上げたければチート系を倒せってことか……。というより人間?


「そういえば転生者が別の世界に行くってのはわかったけど、元からこの世界にいる人間を倒した場合はどうなるんだ?」

「普通に死にます」

「死ぬのかよ!」


 ってことは戦闘の際は元からこの世界にいる人間を巻き込まないように戦う必要があるな。


「『英雄プロージョン』の威力を弱めたりとかは?」

「出来ますよ!何というか優しく撃てばいいんですけど、感覚的なものですから慣れが必要だと思います」

「なるほどな」


 まあ、ここにチート系以外の人間はそんなに攻めて来ないだろうし、待ち伏せして戦いながら慣れていけばいいか……。


 そうこうしている内に魔王城と呼ばれている建物に到着した。


「小細工は必要ありません、正面から堂々と行きましょう。最初は多分見た目人間の英雄さんに襲い掛かってくると思いますので、迷わずやっちゃってください!」

「了解」


 まあ、そういうことならしょうがない。ゾウリムシにはなりたくないし。

 それに人間というのは不思議なもので、相手がモンスターだと人間を相手にするときほど良心が痛まないのもまた事実。


 正面玄関らしき両開きの大扉を開けてみた。ギギィッ……というそれっぽい音と共に扉が開いていき、開ききるとゴゴォンという音がする。


「ハーハッハッハ!良くぞここまでやって来たな人間!私は門の」

「『英雄プロージョン』!!!!」


 ソフィアが言ってた通り、建物が倒壊しないように抑えたイメージで撃ってみると、上手いこと出てきたモンスターだけが吹っ飛んでくれた。


「お、おい!ちょっと待て!せめて登場シーンの台詞くらい」

「『英雄プロージョン』!!!!」


 手加減をして撃ったせいなのか、まだ生きてたみたいなのでもう一度スキルを使う。また吹っ飛んで行くと、八つ手のライオンみたいなモンスターは光の粒子になって消えていった。


「さすが英雄さん!まったく容赦がないですね!それでこそ魔王です!」

「お前が迷わずやれって言ったんだろうが!」

「まさかあそこまで躊躇がないとは……あ、それとモンスターは後で手下として従えることを考えたら殺さない方がいいですよ」

「それをもっと早く言ってくれ!」

「気にしない気にしない!さっこの調子でガンガン行きましょう!一番奥の大広間に魔王がいるはずですので!」


 奥に向けて歩み始めた俺は思わずソフィアの方を振り向く。


「えっ……魔王いんの?もう滅んだとか言ってなかった?」

「数を大分減らされたとは言いましたけど、完全に滅んだとは言ってませんよ?ただ、昔は無限に近い数の魔王がいたのに、今残ってるのはこの城にいる一人だけなんです。とりあえずそれを倒して城を乗っ取りましょう!」

「待て待てもう魔王がいるなら無理にここを乗っ取る必要もないだろ。協力してチート系を倒せばいいのに、何でわざわざ生き残りを倒すんだよ」


 正直、この城そのものも全然欲しくないしな。ここまで来るの大変だったし、見た目もちょっと不気味で怖いし。


「どちらにしろここの魔王じゃチート系にあっさりやられちゃいますし、彼を倒すことで真の魔王だと他のモンスターに認めさせれば、魔王軍幹部にも英雄さんのことを認めてもらえます。何かと手っ取り早いですよ」

「あーもうわかったよ!とにかく魔王に勝てばいいんだろ!」

「そうです!さっ、行きましょ♪」


 それから俺は大広間を目指してガンガン進んでいった。道中に何体ものモンスターに会ったけど、手加減した英雄プロージョンで一発か二発で倒せるので楽勝。


「フハハハ!!ここから先はこのわた」

「『英雄プロージョン』!!!!」


「よく来たわね坊や……このわた」

「『英雄プロージョン』!!!!」


「ヒャーッヒャッヒャ!!」

「『英雄プロージョン』!!!!」


 しかし多分これ、チート系主人公からみたらラストダンジョンだと思うんだよ。だってさっきからどいつも見た目がその辺のモンスターの色違いとかじゃなくて、ちゃんとボス用にキャラデザインしましたみたいな見た目してるし。


 ソフィアの案内もあって、俺は一切迷うことなく魔王の待つ大広間へとたどり着いた。


「お疲れ様でーす」

「お疲れ様でーす!!!!」


 俺とソフィアは大広間の前にいた、全身鎧の首がない騎士が落とした鍵を使って扉を開けると、バイトとか部活の時っぽい挨拶をして中に入った。奥の豪華な椅子に座っている魔王らしき人物を見つける。


「クックック……良く来たな人間よ……ここまで来れたことを褒めてやろう」

「その台詞って台本とかあるのか?」


 異世界のはずなのにゲームみたいな台詞を言うからちょっと気になった。


「クックック……いつ人間が来てもいいようにずっと考えておったのだ……」

「自作だったのか……」

「それにしてはありがちですね……!」


 ソフィアは割と普通に驚いている。かわいそうだからやめてあげて。


「そんなことはどうでも良い!さあ、闇のカーニバルを始めようではないか!」

「うわダサッ」

「英雄さん!あれ多分最後の決め台詞として一番言いたかったやつでしょうから、そんな風に言ったらダメですよ!」


 魔王は顔を赤くしながらこちらに向かって歩いて来る。とにかく攻撃を食らったらまずいので先手必勝だ。


「『英雄プロージョン』!!!!」


 強めに撃ったので魔王と言えどもひとたまりもないはずだ。

 魔王はたしかに攻撃をもろに受けて吹っ飛んだ。なのに、むくりと起き上がって何事もなかったかたのようにまた歩き出す。


「クックック……残念だったな人間よ!私を一人倒したところでまだまだ第二第三の私がいるのだ!」

「まじか……クックック……」


 俺にもクックックが移ってしまった。そういえば昔、クックックを誰が言い始めたのか気になって調べたことがあるけど、誰が言い出したのかとか詳細は全くわからなかったんだよな。


「英雄さん!あれは魔王の特殊能力『不死身』です!今こそ『英雄の波動』で特殊能力を解除してください!」

「遅いわ!『ガードブレイク田中』!」

「『英雄の波動』!!!!」


 攻撃はほぼ同時で俺にも何か魔法を当てられたはずだけど、幸い何事もない。魔王は次の呪文を唱えているが、詠唱に少し時間がかかるらしい。俺にそんなものは必要ないのですぐに次を撃った。


「『英雄プロージョン』!!!!」


 今度こそ倒したらしく、魔王は光の粒子となって空気に溶けていった。


「相手がこちらのステータスを知らないのが幸いしましたね!『ガードブレイク田中』は防御力を0まで下げる魔王のスキルです!」


 今までの一連の騒動を聞きつけて、道中気絶させておいたやつや、生き残っていた中ボスモンスターっぽいやつらが続々と部屋に集まって来る。


「ま、魔王様がやられた!最後の一人だったのに……俺たちはもうお終いだ!」


 その一言を皮切りに、モンスターや幹部たちは次々に、「これからどうする?」「俺たちはどうなるんだ?」といった感じで自分たちのこれからを心配して話し合っている。会社で社長が突然死んだようなもんなのだろう。


 そこにソフィアが大声で割って入って行く。


「皆さ~ん!ご安心ください!今魔王を倒したこの方こそが!これから新しい魔王としてここに君臨する魔王ヒデオさんなのです!」


 周囲のざわめきが一層強くなる。「あれが?」「見た目は人間だしチート系主人公じゃないのか?」「もしそうならついていくしかない!」


 まあ、こいつらにも多少忠誠心といったものはあったんだろうけど、俺が新しい魔王となれば敵討ちなんてするわけにもいかなくなるらしく、どいつも俺に攻撃してこようとはしない。


 やがて、モンスターたちの中の一匹、恐らくは幹部が一歩前に出て跪いた。


「魔王ヒデオよ。私たちにはもう貴方様に従うしか術はありません。私たちは貴方様に忠誠を捧げます。どうか私たちをお導きください」


 そして大広間にいる他のモンスターたちも跪いて首を垂れる。


 こうして、俺は正式に魔王になってしまったのだった。

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