ヒデオと愉快な仲間たち

 正式に魔王と認められてしまった俺は、何やら大広間で儀式のようなものを行った後、豪華な玉座に座りながら幹部の自己紹介を聞いていた。相変わらずソフィアは妖精の姿で俺の近くを飛んだりして、疲れた時は俺の肩に乗って休憩している。


「ケーヒッヒ!まずは俺からだ!俺はキング!悪魔系一族の首領だ!よろしく頼むぜえー魔王サンよぉ!」


 全身紫っぽい不健康そうな身体の色に頭には二本の角。そして悪魔の翼。見るからに悪魔といった感じだ。しかも首領だからといって名前をキングにしている辺りかなり頭も悪そう。


「私はホネゾウ。スケルトン系一族の首領でやんす。魔王様、よろしくお願いするでやんすよ」


 骨だ。人の形をした骨。ガイコツ。頭にはシルクハットをかぶり、手にはステッキを持っていて少しひょうきんな雰囲気を出している。


「私はサフラン。サキュバス系一族の首領よ。よろしくね、魔王サマ♪」


 ナイスバディなお姉さんだ。頭に二本の角を生やしていて桃色のロングヘアー。お尻からは長い尻尾が生えている。


「あ、あの……エレナです。ダークエルフの首領で……首領って言っても一時的に仕方なく……すいません……」


 セミロングで銀色の髪、耳の先が尖ったエルフだ。ダークエルフというが、漫画とかライトノベルの挿絵で見るエルフとの違いは良くわからない。しかも、何だか気が小さそうだし普通の町娘と言った感じだ。


「最後に、貴方様の秘書を務めさせていただきます、吸血鬼一族の首領、ライルと申します。以後お見知りおきを」


 優雅に一礼するライルという男は、色白な肌に切れ長の目を持っていて、耳はエルフほどではないが尖っている。一言で言えばハンサムあるいはイケメンというやつだ。


 一通り自己紹介が終わったものの特に俺から言うことは何もない。どうしたものかと思っていると、ライルが一歩歩み出て進言してくる。


「ヒデオ様、すぐに集まれた幹部はこの場にいる者達くらいです。あとはお会いした際に順次自己紹介させる形に致します。この後はヒデオ様にこの城をご案内して差し上げたいのですがいかがですか?」

「えっと……じゃあ、お願いします」

「かしこまりました」

「英雄さん!この人たちは部下なんだから、敬語なんて使わなくていいんですよ!モンスターたちの習慣から言っても、魔王に敬語を使われては逆にやりづらいと思います!」

「そちらの精霊様のおっしゃる通りです。どうか私たちにはお心遣いなきよう、お願いいたします」

「あ、ああ。わかったよ。それじゃ案内を頼む。他のやつらは自由にしていいぞ」


 ソフィアはどうやら精霊と勘違いされているらしい。説明も面倒だから逆に助かるな。


 俺の言葉でその場は一旦お開きとなった。しかしみんな本当に俺の部下なんだろうか。突然攻撃とかされたら今は一撃で死ぬっぽいから怖い。


 それからはライルに城の主要な施設を紹介してもらった。

 食堂に浴場、遊技場や多目的ホール、講義室に図書館と言った感じで、意外に色んな部屋がある。それから最後に、俺が主に使うことになる執務室と寝室だ。


「ここが、本日からヒデオ様にご利用いただく寝室でございます」


 かなり広い部屋だけど、部屋の隅に大きいベッド、その反対側の壁に長机があるだけで、ほとんどものがない。


「本日は既に時間も遅くなりましたので、お休みになられるのがよろしいかと存じます。いつもなら食事は食堂でお召し上がりいただくのですが、今日はこの部屋に持ってこさせますので」

「ありがとう。そうさせてもらうよ」

「私は隣の秘書室におりますので。何かあったらあの長机の上にあるベルでお呼びください。それでは」


 まだ誰かが食事を運んでくるらしいが、ひとまず解放されて一人っきりになれたことに安心する。ベッドに腰かけてため息をついた。


「ああ~疲れた~」


 気づけば『魔王ランド』に来て動きっぱなし。どっと疲れがやって来て、飯を待たずにとりあえず寝てしまいたい気分に駆られる。


「ふふ、英雄さんお疲れ様です」


 ソフィアがいたのを忘れてた。


「ソフィアはこれからどうするんだ?」

「どうするって……英雄さんとずっと一緒ですよ?」


 普通の女の子に言われたら嬉しい台詞なんだけど。


「何て言うか……女神の仕事?とかはいいのか?」

「ご心配なく。今はこれが一番大事なお仕事ですので♪」


 それから何かに気づいたようにハッと目を見開くと。


「あっ……そうですよね!お年頃ですから!何かと一人きりになりたいときもありますよねえ~!やだも~英雄さんったら」


 とか言いながら女神はおばさんっぽく手をひょこひょこと折りながらもう片方の手を頬に当てている。こいつ何歳だよ。


「いやそういう気は回してくれなくてもいいんだけど……トイレの時とか風呂の時とかも一緒だったら困るだろ」

「その辺は大丈夫です!女神ですから人間の裸を見ても何とも思いませんよ」

「大丈夫じゃねえよ!俺が気にするんだよ!」

「そうですか、ではトイレとお風呂の時は外に出てますので!」


 そんなやり取りをしていると部屋の扉がノックされた。


「どうぞ」


 入室の許可をすると一人の女の子が扉を開けて中に入ってくる。

 銀色の綺麗な髪に尖った耳。ダークエルフの首領とかいうエレナだ。なぜかさっきとは違ってメイド服を着ていた。


「あの……お食事をお持ちしました……」

「あれ……幹部がメイドみたいなことやってるのか?」

「すごくかわいいですね!とってもお似合いですよ!」


 感想を元気よく述べるソフィア。それに対してエレナは「ありがとうございます……」と控えめに一礼してから、俺の質問に答えてくれる。


「今は私たちダークエルフは数も少なく、戦闘力が高い人もいないので……チート系主人公に倒されてしまった父に代わり、私が首領としてこの城に勤務をさせていただいています」

「だからって何で……」

「私は戦っても強くないので……こんなことくらいでしかお役に立てないのです」

「そうなのか……何か世知辛いな。とにかくありがとう、そこに置いといてくれ」


 エレナは、持ってきたご飯を机の上に置いてくれた。

 モンスターが作ったご飯ってどんなのが出てくるんだろうと少しだけ心配してたけど、どうやらそれは杞憂だったらしい。普通にその辺の家庭で出てきそうなオムライスだった。いやいや何でやねん。


「オムライス?」

「ひっ……すいません、お気に召しませんでしたか?」


 そんなつもりはなかったのに、エレナを怯えさせてしまった。


「いや、オムライスっていう食べ物があることにびっくりしてさ。むしろ嬉しい。これは誰が作ったんだ?」

「私です……」

「エレナが?」

「はい。昔は魔族側にはない料理だったんですけど……人間に倒されそうになった私たちダークエルフの同胞が、優しいチート系主人公に助けられて、その時に食べさせてもらったのが始まりだと言われています。その人からレシピを教わり、同胞が私たちダークエルフに広めたのだとか」

「ふ~ん、とにかく嬉しいよ。これからも作ってくれると助かるな」

「は……はいっ!かしこまりました!」


 ようやく笑顔を見せてくれたエレナ。

 それを見て小さな身体でぐりぐりと肘を押し付けてくる女神。


「ふふふ……英雄さんもやりますねえ~このこの~」

「何がだよ……さて、それじゃいただきま……どうしたエレナ?」


 スプーンを持ってオムライスを食べようとすると、何やらエレナがお盆に一緒に載せてきたケチャップを持ったままこちらをじっと見ている。


「え……いえその……支援魔法を……」

「支援魔法?」


 急にどうしたの?この子。


「オムライスは支援魔法をかけないと完成しないので……」

「???」


 どうにも話が見えて来ない。ソフィアも不思議そうな顔をしている。


「良くわかんないけど……じゃその魔法をかけてもらえるか?」

「は、はいっ……では失礼します……おいしくな~れ、萌え萌えきゅんっ」


 ……。


「……」

「……」


 呆気に取られている俺たちに見守られながら、いそいそとケチャップでお絵かきをしてくれているエレナ。


 これあれだわ。そのオムライスを魔族に広めたチート系主人公の人、絶対に転生前は秋葉原とかに通ってた人だ。


「出来ましたっ」

「あ、ありがとう」


 結構上手にかわいいイラストを描けている。


「絵、上手だな」

「あ、ありがとうございます……小さい頃からお絵かきが好きなので……」


 本当にモンスターの一味とは思えない子だなあ。でも、逆にキングみたいなやつばっかりだったら疲れるしちょうどいいのかな。


 エレナが部屋から出て行った後、あらためてオムライスを食べた。美味い。

 

 俺はオムライスを食べながら、故郷に思いを馳せる。

 父さんや母さん、妹は元気にしてるだろうか。俺がいなくなって心配してるだろうか……。向こうの様子を確認する手段ってないのかな……。


「そういえばソフィア……」


 問い掛けながらソフィアの方を見ると、ソフィアはじ~っとオムライスを見つめていた。今にも涎を垂らしそうな雰囲気だ。


「あっ、な、なんですか!?」

「お前飯食ってないけど、もしかして腹減ってたりするのか?」

「そ、それはそうです……けど……食べ物をおねだりするのって何だか恥ずかしいな~なんて……」


 ソフィアは指と指を合わせてもじもじとしている。良くわからんな……人を無理やり転生させてチート系主人公を全部倒せとかいう割に、食べ物をくれというのは恥ずかしいのか。


「俺も気が付かなくて悪かったな……ほら」


 スプーンでオムライスをすくって差し出してやると、妖精の身体のままちびちびと食べ始めた。それを何杯分か繰り返す。


「おいひ~!ありがとうございます、英雄さん♪」

「それだけでいいのか?」

「この身体のときは出来ることも限られてる分、省エネ出来ますから!」


 そんなものなのか……便利だな。


 ご飯を食べると眠くなってきたので、風呂に入ろうと思い浴場を目指す。

 さっき案内されたときにちらっと見たけど、ここの風呂は何人かがまとめて入れる広さになっている。ホテルとか旅館の大浴場みたいな感じだ。


 異世界に来てから唯一悪くないと思えるポイント、大浴場。さ~てと……。

 服を脱いでまとめ、ガラッ!っと勢いよく扉を開けて中に入る。ソフィアは当然だけど女湯の方に行った。


「おお、これはこれはヒデオ様。奇遇でやんす」

「キッヒッヒィ!ちょうど良いところに来たな魔王様ァ!今ちょうどいい感じに煮えたぎってきたところだぜえ!」


 そこにいたのは悪魔のキングとスケルトンのホネゾウ。


「煮えたぎって来たって本当に全部沸騰してんじゃねえか!温めすぎだろ!」


 大浴場の浴槽は結構な広さがあるにも関わらず、全ての面にボコボコと湯玉が現れるほどに熱くなっているらしい。


「キッヒッヒィ!そりゃそうだろ魔王様ァ!モンスターたるもの煮えたぎった湯に入らねえとなあ!」

「はあ~骨まで染みる熱さでやんすなあ~」

「お前は骨しかねえだろ!」


 まあおじいちゃんとかでこれぐらいの熱さの風呂に入るやつもいる……のかな?と思いながら足を恐る恐る湯に浸けてみる。


「あっつ!うわあっつ!」

「おもしれえけどそういうのはいいから早く入れよぉ!」

「ケタケタケタケタ」


 二人ともそんな俺を見て大笑いをし始めた。


「『英雄プロージョン』!!!!」


 手加減はしたものの、そこそこの大きな音と共にキングとホネゾウ、それからそこそこの量のお湯がぶっ飛んだ。飛び散ったお湯が熱い。


 キングとホネゾウが死んでないのを確認してから一旦浴場を出て、ライルに水の魔法を使えるやつを呼んでもらってお湯を冷まし、ゆっくり浴槽に浸かる。


 それから寝室に戻って就寝。俺の異世界生活、さしずめ魔王生活一日目はようやく終わりを告げたのだった。

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