第25話

わたしは、ごく普通の元黒巫女の神野 みゆき。

そんな私んちに今、ちょっとあぶないのがいる。

いや、ちょっとどころじゃない。

あれはもう・・・

あっ電話だ。


「もしもし、神野ですけど」


妖魔が出たとの知らせが入った。

あいつを探しに行かなきゃ。

あの疫病神の、神野 黄泉(じんの よみ)を。

あ~、鬱になりそう。

あいつは、駅前のカフェでパフェを食べていた。


「妖魔が出たから行こうか」

「・・・・」


せっかく勇気を振り絞ったのに、聞こえなかったのかな。


「妖魔が出たんだって、行こう」


大き目な声で言ったから、これで聞こえたはず。


「はあ~。言葉遣いがなってない気がするなぁ」


くそ、またか。

しかたがない。


「妖魔が現れたそうです。来ていただけますか」

「そんなに言うなら仕方がないなぁ。行ってあげる」


なにが行ってあげるだ。

本家の方から応援に送られてきたくせに、もっとやる気を出せ。

そうなのだ。

こいつは神野本家から、最近狐面のやつに再起不能にさせられたこの地区の黒巫女の代わりにやってきたのだ。

みゆきは苛立ちを何とか隠しながら、妖魔が出た現場までこいつを送った。


「つ、ついたよ」

「は~い、ありがとね~」


むかつく。

なにがありがとねだ。

まあいいや。

あとは、魔導機の人達に任せよう。


「こんちは~来てあげたよ~」


ようやくきたか、あのばけものが。


「おそいぞ。みんなお前を待ってる。早く他の黒巫女たちと合流しろ」

「ん、何か言った?」

「はやく合流して、妖魔を倒して来いって言ってんだよ!」


魔導機の隊員がその言葉を発したその瞬間、首元に短刀が突きつけられていた。


「なにあんた私に命令してんの?死にたいの」

「あ、いや、す、すまん」

「すまんじゃないだろ」


そのとき、黄泉に声がかけられた。


「私の部下が失礼をした。許してやってくれないか」

「あっ、隊長のおっちゃん。まあ、そんなに頭を下げられたら仕方がないかな。いいよ、今日はおっちゃんの顔に免じて許してあげる。あんた、運がいいね。それじゃ私、妖魔を倒してくるよ。じゃあね~」


そう言うと黄泉は、妖魔の元へ歩いていった。


「は~い、みんな元気~」

「あっ、黄泉さん。た、たすけてください」

「助けてって、何あんたたちこんなのに手こずってんの。もういいから、あんたたちそこどいて」

「は、はい。あとはお願いします、黄泉さん」


そして、黄泉と他の黒巫女3人は入れ替わった。

相手の妖魔は、身長2mはあるカエルの頭が二つの人型。

最低でもAクラスの妖魔である。


「わたし、カエルって気持ち悪くて嫌いなんだよね。だから、切り刻んであげる」


そう言って黄泉は、何も持たずに妖魔に近づいてゆく。

黄泉は妖魔まで2mのところで止まり、妖魔を見上げた。

そして、懐に手を入れたかと思うと、妖魔の腹のあたりから緑色の血しぶきが上がった。


それを見た魔導機の隊員のひとりから、『えっ』という声が上がった。


「た、たいちょう、あれはどういうことですか」

「ああ、君は知らないのか。黄泉君の獲物はあれなんだよ」


黄泉の手には、短刀というよりも包丁か鉈のような短刀が握りしめられていた。

その短刀こそ、包丁正宗と呼ばれるものだった。

妖魔と戦う包丁正宗を持った黄泉の口元は上がっている。

少しすると、『うきっ』という、笑い声のようなものが聞こえてくる。


「たいちょう、聞いてもいいですか」

「なんだ」

「あの、もう妖魔にとどめを刺せると思うのですが」

「そうだな」


こんな会話をしていると、どんどん黄泉の笑い声が大きくなってくる。

『うきききっ』と。


「あの子はな、楽しんでいるんだよ。妖魔をいたぶってな」


「うきゃきゃきゃきゃ!もっと私を楽しませろ妖魔~!うきゃきゃきゃきゃ~!」


10分ほどすると、妖魔は動けなくなった。


「あれ、もう終わりかよ。もういいや。あんた、後は任せるよ」

「は、はい。ごくろうさまでした。黄泉さん」

「はあ~、私の前に現れないかな~、狐面の悪魔っての」


黒巫女たちは黄泉のことを、こう呼んだ。

『狂刃』。

狂刃の黄泉、と。







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